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魔法の世界の社会不適合者

この階の最も奥まった所に、大柄な男が警備をしている部屋がある。あまり人が来そうな場所ではないが、サボることなく警備をしているようだ。ご苦労なことですね。軽く会釈をして中に入ろうとして、俺はギョッとしてしまった。


それは男ではない…いや、人間ですらない!


黒いロングコートを身にまとい、黒のタートルネックTシャツとカーゴパンツを着ているが、服に覆われていない露出した肌は金属そのものだ。精巧な特殊メイクでもしているのか?いやいや、こんな所でそんなことをする意味がない…。


「気にするな。ただのメタルゴーレムだ」

この異形の存在に呆然としている俺に、カレンは何でもないことのように説明してくれた。そうですか…じゃあ気にしないようにします。


俺達は部屋の中にある階段を4階へ上がった。4階の部屋はすべてユリーシャが使っているそうだ。1部屋、分けてほしいくらいだぜ。当たり前のように専属のメイドさんまでいる。羨ましい…。


カレンに案内されたユリーシャの部屋は、まるでホテルのスイートルームのような部屋だった。すんげえな!これ。その中のリビングルームで、ユリーシャが俺達を待っていた。


「遅くなってしまい、申し訳ございません」

カレンが頭を下げる。右へ倣って俺も頭を下げた。


「申し訳なくないですよ。ですから、頭を上げてください。それにしても…見違えましたね」

ユリーシャに促されて頭を上げると、彼女はクスクスと上品に笑いながら言った。


「そんなこと…ないです」

本日三度目の対面は、ユリーシャの笑顔にあっさりと心を奪われてしまった。いやはや…。


俺達が席に着くのを見計らっていたかのようなタイミングの良さでドアがノックされ、メイドさんが入ってきた。紅茶とクッキーを持って来たようだ。まずユリーシャが座り、続けて俺達も座った。


「これからのことですが…実は午前のうちに王城へ参り、ショウのことを色々とご相談申し上げました。それで、ショウが望めばここに留まっても良いということになりました。どうしますか?」

「俺は行く当てがないからね…ここにいてもいいというなら助かるよ」

最大の懸案が解決だ。俺は内心ホッとしていた。


「お部屋の方は3階に移ってもらわなければいけないのですが…」

「構わないよ」

3階は未見だが、そこがジャングルなんてことはないだろう。


「後でカレンに案内させますね」

「ありがとう。あと、相談があるんだが…」

ここまでの話で衣食住は何とかなりそうだが、それとは別に相談したいことがある。


「何でしょう?」

「今の俺は『お客さん』みたいなもんだ。しばらくはそれでもいいかもしれないが、ずっとそのままというのも気が引ける。能のある人間でもないんだが…俺でもできる仕事があれば紹介してほしい」

ユリーシャは紅茶を口に含み、その味と香りを確かめながら飲み込んだ。


「すぐに紹介できるお仕事が一つありますけど…」

「どんな仕事?」

俺は思わず身を乗り出して聞いてしまう。


「私の専属魔法戦士として、ここで働くお仕事です」

魔法…戦士…?


いやいや、それは無理だろう。俺は魔法なんて使えないし、そもそも戦い方を知らない。向いているようにはまったく思えない。怪訝な表情をする俺に、ユリーシャが事情を話してくれた。


「このレガルディアは魔法の王国と言われています。それは大陸よりも魔法技術が発展していて、実生活で多くの魔法具が利用されているからです。それで…そのぉ…魔法具の扱い方を知らない人は、あまり…」

社会不適合者認定されちゃったよ、俺。分かっちゃいたけど、異世界で生きていくのって大変ですね…。


「あっ、でも大丈夫なんです。そのために魔法戦士になって、様々な魔法具の扱い方を勉強していけばいいのですから!」

俺から漂い始めた負のオーラを感じたユリーシャが、慌ててフォローする。


「それに最近の魔法戦士は魔法具を使ってお仕事をしているので、魔法は使えなくてもいいのです。ショウみたいに全然使えなかった人はいなかったかもしれませんが…でも、大丈夫です!」

ほんとに大丈夫なのか?でも、他に選択肢がある訳でもないし…かなり不安はあるが、やってみるしかないか?


「専属で働くということは、ここの施設はすべて無料で利用できる。最初は見習いだから多くはないが、給料もでる。悪くない条件だぞ」

カレンが労働条件の補足をしてくれた。


生活費がゼロになって給料も貰える。これはかなりおいしい条件だ!仕事の内容はよく分からんが、この世界では必要不可欠なスキルである魔法具の扱い方も身に付けることができる。そうなると答えは決まりだな。


「分かった…頑張ってみるよ」

「では、明日からよろしくお願いしますね」

覚悟を決めた俺に、ユリーシャはホッとした様子で言った。少し硬い表情で俺は頷いた。

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