ユリーシャの告白
ユリーシャに連れられて4階に上がると、それを見逃さないミリッサもちゃんと付いて来ていた。さすがですね。なお、魔法戦士のお姉様方は誰も上がって来ない。いいのか?それで…。階下からは時折カレンの叫び声が聞こえてくるが…気にしないでおこう。
「今日は…ありがとうございました。私だけではカレンを説得できなかったと思います」
「ちょっと酷じゃないか?」
自分のことは棚に上げて、俺はユリーシャに小言を言ってやった。
「そうかもしれません…」
「なら、どうして?」
物憂げなユリーシャを見れば、彼女が自分のデートのためにカレンを犠牲にした訳ではないことは分かる。でも、その真意までは分からなかった。
「カレンは…私にとって姉のような人なのです。私は、これまで彼女には随分と甘えてきました。特にここで暮らすようになってからは、やり場のない思いを何度もぶつけてしまいました。そうせずにはいられなかったのです…それは他の人にはできないことでした」
その気持ちは…よく分かる。
「カレンはそのすべてを受け止めてくれました。彼女がいなければ、ここでの生活はもっと難しいものになっていたと思います。カレンには感謝してもしきれません」
カレンは…きっと当たり前のことをしたとしか思ってないさ。その当たり前が難しいのにな。
「今回の件は…もしかしたらお節介なのかもしれません。それでも…本当のカレンのことをラスティにも知ってもらいたいのです」
「ラスティ?」
誰のことだ?
「カレンがお付き合いをされている方です」
ああ…なるほど。
「表のカレンのことを、心の底から…愛しています。でも、それは…本当のカレンではありません」
裏カレンを知ったら…驚きのあまり卒倒するんじゃないか?
「なんでカレンは…あんな感じなんだ?」
それが悪いとは思わないが、そこは気になるところだ。
「グランシェールの家は代々優秀な魔法戦士を輩出してきました。男の子がいれば、カレンの立場も違っていたかもしれません…」
そりゃそうだろうな。女性の魔法戦士はそれほど珍しくはないが、男の子がいれば間違いなくその子が魔法戦士として育てられ、カレンの進む道は今とは違うものになっていたはずだ。
「ですが、カレンを出産した後、お母様は体調を崩されたようで。お父様のウラは国王警護隊の隊長を務めている方です。カレンの教育に少なからぬ影響を与えたのではないでしょうか…」
「大きいだろうな…」
これは誰もがそう思うはずだ。
国王警護隊はかつてティアリスが所属していた部隊だ。あれはおバカな女だが、3人の魔法戦士の中では群を抜いた実力を持っている。そんなのばかりがいる部隊の隊長か…間違いなくレガルディア最強の魔法戦士だな。
「それが間違っていたと断じるつもりはありません。ですが、カレンには女の子らしく振る舞いたいという一面もあるのです。それを認めてあげても良いのではないでしょうか?」
ユリーシャの言い分には一理ある。
「そうだな…洋服だってハンガーに掛けて飾っておく物じゃないからな」
「ふふっ、そうですね」
俺の軽口に、ユリーシャはいつものようにクスクスと笑った。
ユリーシャの本心が分かったことで、俺のわだかまりも消えた。この収穫祭は、ただ単に楽しむだけの収穫祭ではない。カレンの一面を、親しい人すら知らないカレンの本当の姿を、世に知らしめる収穫祭にするんだ。
もちろん、ユリーシャにとっての初デートも上手くやってやる。俺にとっても初めての収穫祭、楽しい収穫祭にしてやるさ!俺は気負うことなく、気持ちを新たにした。
 




