見えてきた秘密
俺の見ている目の前で、リアルナさんが柵の向こう側に降り立った。その瞬間から魔法樹の森は動き出す。わざわざ虎の尾を踏む馬鹿に対して、森はいつものように対処するのだ。
ザワリッ…メキ…メキッ…
ざわめいた木々は不遜な侵入者を認識し、威嚇するが、そんなことはどこ吹く風と言わんばかりにリアルナさんは奥へと歩き始める。何をするつもりなのかは分からないが、その一挙手一投足を見逃す訳にはいかない。
バキッ…バキバキバキッ!
ついに魔法樹がリアルナさんを攻撃し始めた!その枝々がリアルナさんを搦め捕ろうとした次の瞬間、何かが起こった。枝は別の枝と絡まっただけだった…リアルナさんに触れた枝は、ただの1本もない。
何だ?何が起こった?分からない…。
再び攻撃が開始される!でも、当たらない。同じ光景が何度も何度も繰り返される。食い入るように見ているうちに、リアルナさんが何をしているのか…それが少しずつ分かってきた。
それは動きの緩急だ。動作の大小もある。基本的には重心を一定に保ち、時には重心をぶん投げる。それらを複合的に行っている。これがリアルナさんが…いや、レガルディアの魔法戦士が身に付けている極意…。
動きの緻密さだけではない。周囲の動きを完全に把握し、何の無駄もなく対応しているのだ。すごい…これは本当にすごい!
どれくらい見せてくれただろう…リアルナさんは大きく後ろへ跳んで、柵のこちら側へ戻ってきた。上気した頬、微かにいい匂いが漂ってくる…。
「どうかしら?」
「十分です…ありがとうございました」
尋ねられた俺は深々と頭を下げた。
「じゃあ…次はあなたの番よ」
リアルナさんに促されたものの、あれを見せられた後とあってはさすがに逡巡してしまう。
「何事も、やってやってやりまくらないと身に付かないわよ?それに…」
なんかエロいな。
「今日は手前でしかやらなかったけど、向こうまで行くのが正規の魔法戦士になる条件の一つなの。できるようになったら、ご褒美をあげてもいいわよ?」
マジですか!
「やります!やらせて下さい!」
俺は史上最高のモチベーションで、魔法樹の森へ向き直った。俺にはパーフェクトスキルリプレイがある。今のは完璧に再現できるはずだ!やれるさ。やってやるさ!そして、リアルナさんとあんなことやこんなことを…ショウ・ナルカミ、行っきまーす!
俺は冴えわたる感覚、パーフェクトスキルリプレイ、シックスセンスを発動し、柵を飛び越え森へ近付いていく…木々が威嚇してくるが、そんなのにビビったりはしない。案の定、森の中に入ると枝が襲いかかってきた!最初の枝は難なく躱せたが、次の枝に左腕を搦め捕られてしまう。
チッ!
舌打ちして俺はその枝を光の矢で弾き飛ばした。自損気味の一撃になったため、左手に痺れるような痛みが残る。それでも態勢を立て直した俺に、四方から5本の枝が襲撃してきた!
マジかよ!ど、どうすれば…。
右からの枝の攻撃を反射的に右手で受けようとしたが、枝は蛇のようにその身をくねらせ、腕に巻き付いてくる。
くそっ!
俺は体を回転させ、何とか枝を振りほどいた。そこへ丸太のような枝が襲いかかり、俺の腹をぶちのめした!
ズザザーー、ドガガン!
ぶっ飛ばされた俺は、地面を削り取るように滑り、柵に激突した。反射的に後ろに跳んだものの、ダメージは小さくない。だが、そんなことより気付いてしまったことがある…そして、その事実に愕然とする。
違う!こうじゃない…リアルナさんとは大違いだ。なぜだ?パーフェクトスキルリプレイを使っているのに…。
今度は少し慎重に挑むことにした。ゆっくりと近付いていくと…枝が襲いかかってくる!その数、2本。躱す!どうだ!やればできるってもんだぜ!だが、俺は後ろに下がってしまっていた。
違う、そうじゃない。前に進むんだ!
再び森に挑み、枝の攻撃を躱して今度は前に出る。途端に枝の攻撃が苛烈さを増す!足を払われ地面に転がり、起き上がったところを枝に蹴り上げられる。俺は格ゲーのキャラクターのように宙を舞い、地面に叩き付けられた。
ゲホッ!ゴホ…
肺の中の空気がすべて吐き出され、俺は激しくせき込んだ。頭がクラクラし、目の前の景色がぼやけて見える。
ダメだ…なんでだ?分からない…くそっ!
立ち上がり、すぐさま森に挑むが…考えもなしに挑んでも結果は同じだった。叩きのめされ、ボロ雑巾のように放り捨てられる。
遠くから時計台の鐘が鳴る音が聞こえてきた。まったく意識していなかったが、かなりの時間をここで費やしていたようだ。
「悪いんだけと…先に帰るわね」
その音を聞き、リアルナさんは申し訳なさそうな顔をしながら別れを告げてきた。
「はい…今日はありがとうございました」
俺はまだ挑み続けるつもりだ。何か…何でもいいから糸口を掴みたい。リアルナさんがここまでしてくれたのに手ぶらで帰るなんて…そんなのできる訳ないだろう!
だが、そう簡単に掴めるものではなかった。同じことを何度も何度も繰り返し、ついには動けなくなってしまった。もう…限界だ。
「それくらいにしといたら?」
俺の無謀な挑戦を見かねたのか…声を掛けてきたヤツがいた。誰…だ?




