意外な訪問者
結局9月はカレンにティアリス、リアルナさんとの模擬戦や、ユリーシャが造ってくれたライラリッジでのトレーニングづくしの1ヶ月だった。
進歩していることは確かだ。模擬戦を始めたばかりのころと比べると、彼女達に近付けている感触はある。でも、一向に勝てない…。
ライラリッジの街は自由自在に駆け抜けられるようになった。でも、どこかぎこちなさを感じる…。暗中模索の日々、俺は完全に壁にぶち当たっていた。9月はそのようにして過ぎていった。
あいつらは何か俺の知らないことをしているんだよな…。模擬戦で何度も何度もボコられた。ライラリッジの街を知り尽くす程に駆け抜けた。それで…何となくだが気が付いたのだ。
上手く表現できないが、同じような動きなのに、俺よりもずっと無駄がないように感じる。では、その無駄のない動きを身に付けるにはどうしたらいいのか?…うーむ、分からん。深い霧の中に迷い込んでしまった俺に、意外な訪問者があった。
「こんばんは」
リアルナさんである。
「お疲れ様です…」
正直に言うと、この人のことはちょっと苦手だ。
「頑張ってるのねぇ…」
「そりゃまあ…早く一人前になりたいですから」
俺より10年以上長く生きているリアルナさんには、それだけ積み上げてきたものがある。
「一人前になって…その後はどうするの?」
「その後は…分かりません。その時になってから、ですかね」
その年月は浪費したものではなく、濃厚なものだ。だから、嘘をついてもすぐに見破られるような気がするし、隠している本音をさらけ出されるのでは…という恐怖がある。
「ずっとレガルディアにいるの?」
「どうですかね…世界は広いですから」
ユリーシャが色々と相談をしているというのも気に入らない。
「じゃあ、退役して…大陸に行くとか?」
「退役した魔法戦士には色んな道があるそうですから…それも1つの手ですね」
別に嫉妬している訳ではない。ただ単に、余計なことをされたくないだけだ。
「ところで明日のことなんだけど…」
「はい」
明日の非番は確かリアルナさんだったな。この分だと明日は家族サービスで、俺とトレーニングはできないっぽいね。
「デートしましょうか?」
「はいぃっ?」
予想の斜め上を行くリアルナさんの爆弾発言に、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
「私みたいなおばさんは嫌?」
「そ、そういう訳じゃあないですけど…」
全然、ストライクである!いやいや、そういう話ではなく。
「結婚されてますよね?いいんですか?」
「その辺は大丈夫なのよ。ちゃんと旦那様の了解はとってあるから。つまりこれは公認の浮気なの」
公認の浮気、ですか。いやはや…。
「分かりました。でも俺、ライラリッジですら詳しくないですよ?」
実は知り尽くしているが、さすがにそれは言いたくない…。
「そこら辺はお姉さんに任せておきなさい!」
断るという選択肢はなさそうだな…これは。
「じゃあ…よろしくお願いします」
だから、俺は成り行きに任せることにした。
「こちらこそ。明日の10時でいい?」
「大丈夫です」
そうと決まれば、話はトントン拍子で進んでいった。
「じゃあね。また、明日」
口角をわずかに上げ、ほんの少し上の歯をチラつかせて笑うリアルナさん、上品ですね。
「はいっ」
白の部屋から立ち去るリアルナさんをニマニマしながら見送る俺、下劣な野郎だ。
大人の女性の性的魅力に燃え上がる若い体に、俺は苦労してしまう。とてもじゃないが、まともな思考ができそうにない。すると今日も指輪の中にしまわれている魔剣が、余計な提案をしてきた。
『これまでのリアルナ様のデータを元にフルヌードリアルナを作成しますか?』
リアルナさんのフルヌード!それは興味津々なのだが、ここは断腸の思いで断ることにした。
 




