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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第5章 カルルタリチェの悪魔

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ナドラ銀山

「それから、亡くなった11人の死体検案書が上がってきました。こちらです」

それはカレンが受け取った。見るのはユリーシャなんだけどね…どうやらクドゥスの話はこれで終わりのようだ。


「薄々気付いていたかもしれないが…俺達もカラリスをつけていた」

クドゥスの話が終わったところで、俺は今日のことを切り出した。


「察していました。これはカラリスからあがってきた重要人物の似顔絵です」

クドゥスから手渡されたのは、あの婆さんの似顔絵だ。なくても困るものではないが、ここはありがたく受け取っておこう。


情報交換を終えると、俺達はコテージへ戻った。いつものようにカレンが淹れてくれた紅茶を楽しみながら、リビングで寛ぐ。一方で、ユリーシャはカレンが受け取った検案書を真剣な眼差しで見つめている。そのうち検案書に穴が開いてもおかしくないな…。


「何か…分かったか?」

声を掛けるのは憚られる状況なんだけどね…今は新たな事実があるのなら、何でもいいから知っておきたいところだ。


「あの夜、長寿祝いに参加した人はお酒を飲んだ直後に息ができなくなってしまった…そうですよね?」

「その通りだ」

かろうじて息があったのはウルビナの息子だけ。そして、彼の話を聞いていたのは俺だけではない。


「もし、盛られた毒がナドラ銀山なら…今少し時間がかかるはずです」

ユリーシャの見立てに反論する者は…いない。ただ、カレンとティアリスが、あっ…という声が聞こえてきそうな顔をしていた。


「現れている症状にも若干の違和感があります。11人も犠牲者がいれば、一通りの症状が見られてもおかしくないはずですが…幾つかの症状がまったく現れていません」

どうやら俺達は大きな勘違いをしていたようだ。


「すると…盛られたのは別の毒という可能性も?」

この事態は想定していなかったのだろう…さすがのカレンも驚きを隠せない。それに対して、ユリーシャはこくりと頷いた。


「早く気が付けたことはいいことですよ~」

こちらはいつも通りほんわかなフェリシアさん。確かにここは前向きに考えることが正解だ。


おそらくこの手の毒殺事件では、ナドラ銀山が使われることが定番なのだろう。だからクドゥスもナドラ銀山が使われたという見立てをした。典型的な先入観に基づくミスだな…だが、早い段階で気付けたことは大きいはずだ。


「ところで…ナドラ銀山って何なんだ?」

それはずっと気になっていたことだ。そろそろ聞いておいた方がいいだろう。もっともこの一言は誰も予想していなかったようで…皆さん、ぽかんとしております。


「ぎ、銀山からは…一見すると銀のように見えますが、銀ではないものが産出されます。そ、それらは偽銀と呼ばれ…鉱山関係者からは忌み嫌われてきました」

まさか知らなかったとは思っていなかったようで、ユリーシャ様が動揺しておられます。他の4人も笑いを堪えていやがる。どうやらやっちまったようだ。でも、俺は異世界人なんだから、仕方がないだろう。


「無価値なもののように思われた偽銀ですが、その後に毒性があることが分かりました。今では毒砂と呼ばれ、殺鼠剤として利用されています」

はっきりとしたことは分からんが、これはおそらくヒ素のことだろう。


「もっとも毒砂はナドラ銀山で産出される訳ではありません。ダラカニ山脈には数多くの鉱山がありますが、その中で最も有名なのがナドラ銀山なのです」

「ナドラの知名度にあやかったって訳か…」

動揺が収まったようで、ユリーシャはこくこくと頷いた。


ユリーシャの見立てでは、何の毒が使われたのか…そこまでは分からない。だが、殺鼠剤として使われているナドラ銀山の入手は、そんなに難しくはないはずだ。となれば、毒の入手ルートから犯人に迫るのは難しいだろう…クドゥスがそのように考えるのは容易に想像できる。でも、そうではないとなると…毒から族の行方を追うことができるかもしれない。


「確かなことは、1人でやれるような犯行じゃあないってことだ。一味は少なくとも数名…その中に毒に詳しいヤツがいる」

思わぬ形で和んでしまったが、俺達は悪魔のような所業をやりやがったヤツらを追っているのだ。ずっとほんわかしている訳にはいかない。


「目星はついているのか?」

「さあな…」

カレンに問い質されたものの、俺は曖昧に答えた。


別に意趣返しをしている訳ではない。毒に詳しいヤツと言っても色んなヤツがいる…例えば医者や薬師。薬に精通している者ならば、毒にも詳しいはずだ。ここがカルルタリチェであることを踏まえると、金属の精錬に精通している者という可能性もある。いずれにせよ、俺達は先入観に基づくミスを犯したばかりだ。今の段階で決めつけるのは悪手だろう。


とは言え、使われた毒がナドラ銀山ではないかもしれないという情報は重要なものだ。すぐにカレンと一緒に『インシグネ』に行き、この事をマニエラさんに伝えた。マニエラさんなら、どうにかしてクドゥスに伝えてくれるはずだ。


翌朝、今日は朝の賑わっている時間帯から繁華街を探りたいところだ。こういう時の朝ご飯はパパっとすませたい。となると、カレンとフェリシアさんの出番だ。作ってくれたのは定番のちょっと甘めの卵焼きと少し塩味の効いたおにぎり、それから具だくさんの味噌汁である。


朝はこういうのがいいね。ちょっと早めの朝ご飯を済ませると、昨日の続きだ。俺達は二手に分かれて、あの婆さんの行方を捜すことにした。まずは北部の繁華街に行ってみることにしよう。

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