消された証人
チャラ男コンビの話によると、ジラニは家具を作る職人をしていると言っていたそうだ。錠前は家具にも取り付けられる。当たらずしも遠からずといったところか…。それから、今は15番街に住んでいるとのことだ。シャバに戻ってこれて浮かれてしまったのだろう…それが仇になったな。
すぐにクドゥスがゼフィルスに連絡を取り、ジラニの住居は特定された。ジラニは前科者…てっきり偽名を使って家を借りているのかと思いきや、そんなことはなかった。チャラ男コンビはそれを訝しく思っていたものの、そんなにおかしな話でもない。
この件にあの女が関わっているのなら、今回もアルクニクス商会が実働部隊として暗躍しているはずだ。ジラニが借りている家の持ち主が、アルクニクス商会の関係者だとすれば納得がいく。逆説的に、この件にあの女が関わっていることが明らかになるかもしれない。何にせよ、俺達は数名の見習い魔法戦士を伴い、現場へ急行した。
ドンドンドン!
クドゥスが平屋のドアを激しく叩く。ジラニが中に居れば、気付かない訳がない。居留守をしていても無駄だ。蹴破るからな。
「ジラニ、カルルタリチェの魔法戦士だ。ここを開けろ」
クドゥスが呼び掛けるが、返事はない…どころか何の気配も感じない。出掛けているのか?だが、クドゥスはそう思っていないようだ。
ドンドンドン!
「ジラニ、入るぞ!」
最後通告をしたクドゥスが、ドアを乱暴に開け放った。
奇妙に静かだ…やはりジラニは留守なのだろうか?それにしても匂うね。これは…蚊取り線香か?わざわざ線香を焚いているってことは、ジラニは在宅と考えていいだろう。どこかに隠れているのかもしれないな。その時、アマユキがとんでもないことを指摘した。
「血の匂いがするわね…」
一同に緊張が走る。アマユキは真っ直ぐに平屋の奥まった部屋へと向かった。
「ここよ」
相変わらず線香の匂いしかしないが、アマユキの人間レーダーは不穏な気配を捉えているのだろう。クドゥスがその部屋のドアを開けると…そこにはジラニが倒れていた!
「ジラニ?」
クドゥスが呼び掛けるが返事はないし、ジラニはピクリとも動かない。胸からは血を流している。
『すでに死亡しています』
魔剣がジラニの死亡を断定した。俺達は間に合わなかったのだ。ジラニは心臓を一突きにされていた。この手口、間違いなくヴァルキュリアだ。
「一歩遅かったか…」
ジラニの体にはまだ温もりがあるのだろう…それを確認したクドゥスは唇を噛んだ。
「追いましょう!」
ジラニを殺ったヤツはまだ近くにいるはず…ティルスの主張は正しいように思える。
「やめとけ」
だが、俺は敢えてそれを止めた。
「手口を見りゃあ分かる…これはあの女の指示を受けた野郎の手口だ。俺達はこれまでにも僅かな差で先を越されたことがあった。だが、手を下したヤツはどこにもいなかった」
俺の意見はただの意見ではない…あの女とやり合ってきた者の意見だ。クドゥスもそれを受け止め、首を横に振った。
それにしても、どうやっているんだろうな?ヤツらの神出鬼没っぷりは今に始まったことではないが、その方法が分からない。瞬間移動とかできるのなら、納得なんだけどね。
この世界には魔法なんてものがあるのに、瞬間移動に類する魔法はない。意外としか言いようがないが、他ならぬユリーシャがないと言っているのだからないのだろう。それでも何かがあるんだ。神出鬼没を可能にする何かがな…。
事件解決の糸口になり得るジラニを殺害されたことは、俺達にとっては大きな痛手だった。だが、この件にもあの女が関わっていることが分かったことは大きい。まずは態勢を立て直すべきだ…その思いは同じだったようで、クドゥスは事後をチャラ男コンビに任せるようだ。そうして俺達はこの場を後にした。
『インシグネ』へ戻ると、俺達は再び2階の個室へ上がった。夕暮れ時を迎えて忙しくなりつつあるので、マニエラさんは下でお仕事だ。外の暑さとは打って変わった涼しさが、俺達を迎えてくれる。一息ついたら本題といきますかね。
「団長から聞いてはいましたが…厄介ですね」
クドゥスが嘆息するのもよく分かる。これが普通の事件なら、ジラニのことが発覚した時点で解決に向けて大きく前進していただろう。
「だが、そのおかげで分かったこともあるさ」
この一言で、みんなの視線が俺に集まった。
「俺達がジラニを確保する前に殺したってことは、モンテミウ虐殺の犯人がまだカルルタリチェにいるってことだ。ヤツらがカルルタリチェにいないのなら、そんなことをする必要はないからな」
このタイミングで殺されたってことは、ジラニがモンテミウの金庫破りに関わっていたのだ…間違いなく。
「証人になり得るジラニを消して、今頃しめしめなのでし」
まったくだ…さて、どうしたものかね。
「突破口が必要だな」
腕組みするカレンに言われるまでもない。何か手を打つ必要がある。
「カラリスに動いてもらおうと考えています」
それに対して、クドゥスの出した策は悪くないように思える。この件に強い思い入れを持っているカラリスは、クドゥスに言われるまでもなく動くだろう。
「スッポンのカラリスさんですね~」
どうやらその名はそれなりに知れ渡っているようだ。
「どうしてスッポンなのですか?」
確かにそれは気になるね…ユリーシャ君、なかなかいい質問をするじゃないか。
「カラリスはこうと見立てたらそれを曲げない男でして。時には見込み違いもありましたが、これまでに何度も事件の解決に寄与しております」
それでスッポンなのか…これにはみんな納得である。
「それはそうと…カラリスはなんで1人なんだ?」
スッポンよりもそっちの方が気になるぜ。
「カラリスが付き従っていた魔法戦士は、10年前に病死しております。それ以降はゼフィルス様のもとで従者をやっておりましたが、団長になってからはカラリス1人で動いています」
スッポンのお話では苦笑していたクドゥスの表情が、少し寂しげなものになった。亡くなった魔法戦士とは仲が良かったのかもしれないね。
主と従者という関係だったからこそ、ゼフィルスはカラリスに引退を勧告したのだろう。となると、これが最後の花道になるかもしれない…ならば有終の美を飾らしてやりたいよな。それが老練の従者にしてやれる、せめてもの手向けというものだ。




