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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第5章 カルルタリチェの悪魔

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老練の従者

カルルタリチェの街並みは、西部方面だろうが北部方面だろうがたいして変わりはない。水路が走り、所々に水が飲める噴水がある。違いがあるとすれば、三大噴水と比べると地味で小さな噴水ということだな。


今見ている噴水は、むしろ水飲み場のように見える。でも、石板にはバーシムの19番噴水と書かれているから、これは噴水なのだ。その名から察するに、この噴水の建造にもバーシムが尽力したのだろう。たいしたもんだぜ。


俺達は何か目的がある訳ではなく、ブラブラと彷徨う。俺は不可視の錫杖で、アマユキは持ち前の鋭い勘でしっかりと観察する。なお、フェリシアさんはニコニコとしているだけだ。下手にキョロキョロされると目立つからね…これでいい。とは言え、収穫は特になしだ。


そうなってくると、フェリシアさんの言っていた新しいお店の開拓ってヤツを考える必要があるだろう。それにはわざわざお店に入る必要はない。人の出入りに合わせて不可視の錫杖を中に入れる…これでいい。


「どんな感じ?」

アマユキはあまり興味がなさそうに聞いてきた。人間レーダーをもってしても、食堂の中の様子までは分からないようだね。


「忙しそうだな…」

そして、美味しそうだ。『インシグネ』のような雰囲気の食堂もあるから、行ってみたくなるね。


「根気よく続けることが大事ですよ~」

わざわざフェリシアさんに言われるまでもない…じっくりとやっていくさ。


こういう時は手早く食べられるものでお腹を満たすのが筋というもの。だから、俺達はフェリシアさんが買ってきてくれたサンドイッチで昼食だ。邪魔にならない所でサンドイッチを頬張りながら十数軒の食堂をチェックしたが、収穫は特になしだ。


お昼の書き入れ時が過ぎると、どの食堂も少しずつではあるが確実に人が少なくなってくる。ここまでだな…今日のところは切り上げて、再びブラブラすることにしよう。何か見つけられるかどうかは分からんけれど、それ以外には手がないからな。


結局、今日のところは何事もなく一日が終わってしまった。どうやらユリーシャ達も収穫なしだったようだ。これは仕方がないだろう…あの女の企みの起点を見つけることなど、そんなに簡単にできる訳がない。とは言え、可能性がありそうなことはすべて当たってみるべきだ。


「明日から観察する範囲をさらに広げるってのはどうだ?」

今日の反省会という訳ではないが、みんなリビングにいるからな…丁度いい。ユリーシャは素直によく分からないという顔をしているが、他は面白そうに俺を見ている


「パルシファルで殺害されたゼレケは、魔法戦士の手先として随分と危ない橋を渡っていた。同じようなことをしているヤツがいるかもしれない」

タレコミ屋呼ばわりされていたが、ゼレケのもとに多くの情報が集まっていたのは間違いない。同じようなヤツがカルルタリチェにいたとしても、別におかしな話ではないはずだ。


「カルルタリチェの魔法戦士を調べるってこと?」

この案に、アマユキは驚きを隠せないでいる。アマユキだけではなく、みんな驚いているだろう。


「調べるというか…ひそかに様子を見るって感じだな」

俺もそこまでやろうと思っている訳ではないさ。


「それには不可視の錫杖とネコたんを使えば上手くやれると思います」

「そうだな。それが一番いいはずだ」

波風立てずにやろうと思えば、それ以外にはない。他ならぬユリーシャが作った魔法具だからな…その性能も使い方もよく分かっているね。


「まずは西部方面の拠点からだな…」

西部方面を指揮している団長のゼフィルスは、レガルディアの魔法戦士でもある。身内を疑うような感じになるので、少し引け目を感じるが…。


とは言え、俺達の置かれている状況を考えると、やれることは何でもやるべきだ。だから、今晩から動くことにしよう。幸いにも西部方面の拠点は、『インシグネ』からそれほど離れてはいない。早速、ネコたんに不可視の錫杖を持たせ、行かせてみることにした。


西部方面の拠点は、一見すると普通の邸宅のように見える。もちろん、普通の邸宅は高い塀に囲まれてはいないし、ましてや厳重な警備などされてはいない。それらが、ここが普通の邸宅ではないことを物語っている。おそらく今日の仕事を終えて帰宅するところなのだろう…ここに勤めている魔法戦士が出てきた。そのタイミングでユリーシャは不可視の錫杖を中に入れた。


時間が時間だけに、邸宅内にはあまり人はいない。残っている人も書類の作成や整理をしているだけで、注目すべきことは特にない。そんな中、年配の男性が立ち上がった。帰るのかと思いきや、男は奥の部屋へと向かっていった。見るべきものが他にないので、この男を観察してみることにしよう。


男は中から明かりが漏れている部屋のドアをノックした。返事はない。


「失礼します…」

男は少し緊張した様子で中に入っていった。中には誰もいない。それでも誰かと待ち合わせをしているのだろう…男は部屋で待つようだ。しばらくして、待ち人がやって来た。


「…待たせてしまったか?」

遅れてやって来た男は、少しばつの悪そうな顔をした。知っている男だった…ゼフィルスである。


「いえ…」

年配の男はそれを否定する。実際、たいして待ってはいない。それでゼフィルスは安心したようだ。


「単刀直入に話をしよう。儂はな…お前の従者としての技量を疑ってはおらん。だがな、カラリス…いくら立派な従者と言えど、いつかは後進に道を譲る。最後の花道を歩まねばならんのだ」

ゼフィルスは諭すようにカラリスに言った。


「要するに私はもう役に立たない。だからさっさと引退しろと…そうおっしゃりたいのでございますか?」

カラリスは抑えているが、不快感を隠せないでいる。


「儂はそうまでは言わん。だがな、カラリス…いずれにせよ人間、引き際が大事ということだ」

カラリスの物言いは失礼ではあるが、ゼフィルスはそれを咎めるようなことはしなかった。


「分かりました…しばらく考えさせていただきます。それでは他に所用がございますので…これで」

自分の置かれている立場は分かっているのだろう…カラリスは寂しさを湛えながら部屋を出ていった。


ゼフィルスの言い分は…よく分かる。少し腰が曲がったカラリスを見ると、引退ということを考えてしかるべきだろう。だが、カラリス自身は自分はまだまだやれると思っている。その気持ちもよく分かる。きっと時間が解決してくれるはずだ。じっくりやっていくしかないと思うぜ。

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