課題山積
カンッ!カンッ!カンカカカンッ!コンカンッ!
模擬刀と模擬刀が激しく打ち合わされる音が響きわたる。ここはユリーシャ邸の別館。本来は女性専用のトレーニング施設なので俺は使えないが、閉館している時はその限りではない。
カンッカンッ!…カカンッ!
道場通いが2週間を過ぎる頃、俺は道場に行く意味を見いだせなくなっていた。一番強い俺が他の生徒に指導する、という状態になっていたからだ。そういう役割が嫌という訳ではないが、これでは俺自身のレベルアップは望めそうにない。もっと強いヤツと戦う必要がある。
カンッ!コンッ!…カン!ココンッ!
そこで俺は3人のお姉様方と模擬戦をすることになった。今日の相手はティアリス。3人の中では最強の魔法戦士だ。まさに願ったり叶ったりの相手である。
二刀流のティアリスの攻撃が全方位から襲い掛かってくる。右手と左手、それぞれの手に持った模擬刀の動きは、まるで別々の人間が操っているかのように変幻自在だ。俺はその攻撃を手にした模擬刀で必死になって払いのけ、かわす。
冴えわたる感覚を使い五感のすべてを覚醒させ、シックスセンスで未来を先読みしてティアリスの攻撃に対応しようとするが…上手くいかない。まるで先読みしているのを読まれているようだ。カレンやリアルナさんとやった時にもそういう傾向はあったが、ティアリスの場合は特にそれが激しい。
こうなってくると頼みの綱はパーフェクトスキルリプレイだ。すでに強度は最高にまで上げている。だが、ここに弱点があることを痛感させられる。
確かに技を完全に記憶し、再現できる…でも、それは身に付いている訳ではないのだ。まるで見えない誰かに無理やり体を動かされているようだ…。体中のあちこちがギシギシと軋んでいる。
歯を食いしばってその不快な感覚に耐える。満足に呼吸をすることも難しい。痛い、苦しい、頭が朦朧とする…。死角からの一撃、反応が遅れる!
コツンッ…
ティアリスの模擬刀が俺の顎を軽くかすめた。それを契機に俺の意識は暗転し始める…。
「ほいっ!」
ティアリスの威勢の良い掛け声が響いたような気がするが、何が起こっているのかはよく分からない…。
ドサッ!
気が付くと、俺は無様にぶっ倒れていた。何とか体を起こそうとするが、まったく力が入らない。
「ダメでしよ!」
ティアリスに厳しい口調で止められ、俺は一先ずじっとしておくことにした。
あのままぶっ倒れていたら、間違いなく頭を打っていた。そうならないように、ティアリスの小さな手が俺の頭を支えてくれていた。俺は掛値なしの全力だったが、ティアリスは全然余裕なんだ…ちょっとショックだな、これは。
しかもいつの間にやら膝枕までしてくれているし。さすがにこれは恥ずかしいので、何とか体を起こした。
「今日はここまででしね。お疲れ様でした!」
ティアリスはビシッ!と謎の両手敬礼を決め、可愛らしくウィンクした。
「ありがとう…ございました…」
疲れた声で礼を言う俺を残し、オリジナルのお風呂ソングを口ずさみながらティアリスは別館を後にした。時計を見ると…かれこれ1時間ぐらいはやっていたようだ。もう夜も遅い。今日はここら辺で切り上げるべきだろう。
「悪かったな…今日も遅くまで待たせてしまって」
俺はモップを持って待機していたミリッサとリシアに声を掛けた。
「いえ、大丈夫です!」
ミリッサが元気よく答え、二人仲良くモップ掛けを始めた。結構な広さはあるが、これならすぐに終わるだろう。
早いもので今日から9月だ。ライラリッジにも少しずつ秋の気配が訪れている。別館から外に出ると、秋の少し冷たい空気に晒された。模擬戦で火照った体には気持ちいい。
大きく伸びをすると、満天の星空が俺の目に飛び込んできた。宝石をちりばめたような星空は、この上ないほどに美しい。この無数の星の中には、きっと太陽もあるんだろう。
遠いな…。
それは瞬く星までの距離なのか、それとも自分が目指している高みまでの隔たりなのか…俺には分からない。だが、胸を締め付けられるような痛みに襲われ、涙が出そうになる。なるべく思い出さないようにしていたんだけどな…星空はあまり見上げない方がいいのかもしれない。
自室に戻り、ベッドに横になった俺は、ぼんやりと天井を見上げた。
この1ヶ月の間、カレンに紹介された道場で、それからユリーシャ邸の別館で、色んな人と模擬戦をした。道場に通っているヤツには負けそうな気はしないが、あの3人のお姉様方にはまったく勝てそうな感じはしない。
いくら町道場で無双しても、正規の魔法戦士には程遠いということだろう。それが分かっただけでも収穫があったというものだ。そして、改善点もだいたい理解したつもりだ。
パーフェクトスキルリプレイの強度を最高に上げた時のあの不快感、あれは何とかして解消しなければならない。シックスセンスはもっと短い未来を見て対応する必要がある。分かっていても容易くできることじゃあないが、やるしかないよな。




