剣術道場
カンッカンッ!コンカカンッ!カンッ!
模擬刀と模擬刀が激しく打ち合わされる音が道場に響き渡る。ここはライラリッジにある剣術道場の一つ、カレンの祖父が営んでいる道場だ。
魔法戦士になるためのトレーニングをみっちり積む日々が1ヶ月も経つと、俺の体は引き締まり、この世界に来た時よりもかなり筋肉がついてきた。やればできるってヤツだな。ただし、体の柔軟性はまだまだだ…。
それでも、自分の体の変化を実感できるってのはいいもんだ。もちろん、こんなにも早く成果が現れたのは魔剣のおかげである。
何にせよ、そろそろ実践的なトレーニングを組み込んでもいい頃だ。その思いは俺も、そして俺のトレーニングに付き合ってくれる3人のお姉様方も一緒だった。そんな訳で、最近の俺は町の道場で模擬戦をすることが多くなった。
カンッカンッ!カカンッ!
相手の攻撃を弾き、いなし、受けとめ、かわす。稽古に付き合ってくれるのは、この道場で知り合ったアラミレウという男だ。
アラミレウに限った話ではないが、この道場に通う生徒の力量はそれほど高くない。これは俺が強いから!ではない。魔剣のおかげである。
冴えわたる感覚で使い手の感覚器官が本来持っている能力を最大限にまで高め、そこから得られた情報を基にシックスセンスで未来を予測し、パーフェクトスキルリプレイで最適な行動をとる。ユリーシャが魔剣と共にくれた3つの魔法は、魔法戦士を目指すに当たってこの上なく役に立っている。
その魔剣は指輪に置換されて俺の指にはめられている。置換とは、この世界と平行に存在している鏡界という世界に物を収納するという便利な魔法だ。どうりで武器を持っている魔法戦士がいないはずだぜ。
置換されていても魔剣の恩恵は受けられる。そもそも使う魔法があの3つの魔法だけなら、チョーカーでも事足りるんだけどね。何にせよ、負ける気はしない。
カーーン!カラカラ、カラン…
受けから攻めへと転じた俺の一撃が、アラミレウの手から模擬刀を弾き飛ばした。模擬刀が道場の床を滑るように転がり、これで勝負ありだ。
「参った、参った!お前、ホントにすげえな」
この道場に通うようになってからまだ日は浅いが、俺は未だに負けなしである。
「そんなにでもねぇよ」
これは謙遜ではなく本当の話だ。俺が強いのは魔剣のおかげだからな…。
「…それでよ、明日とかどうよ?」
「うん?」
何がだ?悪いが何も聞いてなかったぞ。
「明日だよ、明日。俺がライラリッジを案内してやるよ」
そういえばそんな話をしてたね。俺がユリーシャ専属の魔法戦士になった際、公式には大陸出身者と発表されている。それで生まれも育ちもライラリッジなアラミレウが、案内してくれるという話になったのだ。
「ああ、それでいいよ」
アラミレウとの話に区切りをつけると、再び模擬戦に戻る。今度は別の生徒が相手だ。もちろん負けやしない。そうやって今日も有意義なトレーニングを積み、道場を後にした。
アラミレウはまったく気にしていないようだが、道場ではある種の視線を感じてしまう。好奇の眼差しというヤツだ。
レガルディアのことをあれこれ知れば、これは仕方がないと思わざるを得ない。あのユリーシャが、どこの誰だか知れないヤツを自分の下に置いているのだ。熱狂的なユリーシャファンじゃなくても、その理由を知りたいと思うはずだ。これは受け入れるしかない。
8月にもなると、ライラリッジはうだるような暑さに包まれる。黒雷がしっかりと仕事をしてくれているおかげで快適に過ごせているが、見た目が暑苦しいのは否めない。色を変えられると便利なんだけどね…どうなんだ?
『色を変えることは可能です』
そういうことは早く言ってくれ…後であれこれ試してみることにしよう。
それはともかく、道場通いをするようになってから気になったことがある。それはあの3つの魔法を使っているのが、俺だけということだ。
この魔剣を作ったのはユリーシャだ。そして、ユリーシャは魔剣を使い、あの3つの魔法を創った訳だが…どうやらユリーシャはこれらの魔法を公開しなかったようだ。なぜだ?
疑問には思うものの、それによって俺が有利になっていることは間違いない。気にはなるが、この件は敢えて聞かなくてもいいだろう。




