成果の出てきたばら撒き策
翌日からはネコたんをカロリーナさんにつけ、俺達はマルバイユ商会の邸宅周辺をぶらぶらすることにした。リセクが決断したとしても、ジルニトラとの繋ぎ役が必要だ。あの強面のじいさんを紹介した手前、それは俺達がするべきだろう。
目立たないように、そして邸宅に近付づかないようにしながら、不可視の錫杖でリセクの様子を窺うと…リセクは時々息抜きで裏口から出てくるが、特に変わった様子はない。相変わらず悩んでいるけどね…もう少し時間がかかりそうだな、これは。
一方で策士カロリーナのばら撒き策は、成果をあげつつあった。タリアに繋がる情報が集まってきたのだ。それらは表面的な情報で、世間話のつもりで話したヤツがいるのかもしれない。或いはマルバイユ商会の内部も一枚岩ではなく、暴露しているヤツがいるのかもしれない。
いずれにせよ、策士カロリーナはタリアを突き止めたのだ。あれからまだ3日しか経っていないことを考えると、たいしたもんだぜ。
そのタリアは、今日も花街の『小料理屋サイサリス』でお仕事中。そして、カロリーナさんは物陰から『サイサリス』の様子を窺っている。さらにカロリーナさんをサーニャとネコたんがつけているという状況だ。
昼の花街は、夜と違ってそれほどいかがしくはない。『飾り窓』が営業をしていないからだ。カーテンがしっかりと閉められ、どの部屋も暗く誰もいない。奇妙な雰囲気があるね…。
もっとも『サイサリス』は小料理屋なので、昼から開いている。さすがにセクシーなサービスはやっていないが、いい感じに酔っ払っている客が出てくるところを見るに、お酒の提供はしているようだ。
そんな状況なので、女性も普通に歩いている。男装をしている女も、地味すぎる女もいない。夜のような熱情もない。だからこそ、カロリーナさんは昼にここを訪れたのだろう。夜だといらぬトラブルに巻き込まれる可能性があるからな…策士カロリーナは伊達ではないのだ。
それが分かっているのかどうかは分からないが、サーニャは随分と危なっかしく見える。もしかして、カロリーナさんはサーニャにつけられていることが分かっていて、安全に誘導しているのだろうか?だとしたら、策士カロリーナはマジで侮れないが…。
それはともかく、いつまでも後をつけるが何もしないという状態が続く訳がない。意を決したサーニャが遂に行動を起こした。
「お義母さん!」
控えめに、それでも強い口調でサーニャはカロリーナさんに呼びかけた。
「サーニャ…お前、どうしてここが…」
カロリーナさんはマジで驚きを隠しきれない。どうやら気が付いていなかったようだ。
「お義母さんのこと、ずっと後をつけてたの。内の人のことが気になって、居ても立っても居られないものだから」
サーニャは正直に胸の内を明かした。
「そうかい。分かったよ…」
事ここに至っては、カロリーナさんもリセクの過ちを隠し通すことはできないと判断したのだろう…自分が掴んだ情報をサーニャに話し始めた。
「あの女だけどね…」
ちょうどタリアがお客さんと一緒に出てきたところだった。夜と違ってあまりボディタッチはしていないが、愛想よくお客さんを見送っている。カロリーナさんは一つため息をついた。
「お前の耳には入れたかないけどさ。どうやら…リセクは遊ばれたようなんだよ」
「遊ばれた?それじゃあ、内の人が浮気を!」
さすがのサーニャも驚きを隠しきれない。それと同時にタリアに対して敵意をむき出しにする。
「まあ、そういうことだね。でもね…ただの浮気じゃないよ。これにはきっと訳がある」
「どんな?」
サーニャは今にも『サイサリス』に殴り込みをかけそうだ。この人、意外とヤバい人なのかもしれんね…。
「あの女さ、タリアっていう女なんだけどね…マルバイユ商会の従業員だったのはほんの数日だけ。私ねぇ…どう考えてもリセクをたぶらかすために雇われたとしか思えないんだよ」
そんなサーニャをなだめつつ、カロリーナさんは裏の事情を説明してやった。
「お義母さん、確かめに行きましょう!」
「そうこなくっちゃね…でも、ちゃんと手は打ってあるよ」
サーニャは強い口調で言い放ち、『サイサリス』へ向かおうとしたが、その機先をカロリーナさんが制した。これにはサーニャも不本意ながら頷いた。
カロリーナさんは、サーニャを連れてひとまず撤収するようだ。サーニャには、リセクのことになると譲れない思いがある。策士カロリーナは誰よりもそれを知っているはずだが、向こう見ずな一面は予想外だったようだ。明日はタリアにとっては災難な一日になるかもしれんね…同情はしてやれんけどな。




