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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第4章 パルシファルの嫁と姑

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その変化の原因は?

リセクの変化をなるべく気にしないようにしていたサーニャとカロリーナさんだが、いつまでも何も言わずに済ませられる訳がない。かつては仲睦まじかったリセクとサーニャの関係も、最近はすっかりおかしくなってしまっている。


それでも昨日までのサーニャは何も言わなかった。でも、もう限界だったのだろう…今日は朝からリセクを問い詰めている。


「いい加減にしてくれよ!」

聞かれても答えられる訳がない。遂にリセクは声を荒げてしまった。


「だってあなた、このところ満足にご飯も食べてないし…何かあるんならあたしに打ち明けてくれたっていいじゃない!」

だからといってサーニャが引く訳がない。ずっと我慢してきたんだからな。


「もういい!」

これ以上、リセクはサーニャと言い争いたくないのだろう…乱暴に戸を開け、出ていこうとした。だが、その足が止まってしまう…そこに盗み聞きをしていたカロリーナさんがいたからだ。


「母さん…こんな所で何してるんだよ?」

意表を突かれたものの、リセクはカロリーナさんを問い質した。


「いや…その…」

さすがのカロリーナさんも口ごもってしまう。正直に「盗み聞きしてました!」なんて言える訳がないからね。


「そんなことよりお前、何か隠し事をしてやしないかい?」

この見事な話題逸らし、見習うべきだな。


「…何でもない」

忌々しげに吐き捨て、リセクは怒ったように出ていった。


「ちょ…リセク!」

カロリーナさんは呼び止めるが、リセクはパーフェクト無視である。2人を残し、そのままどこかに行ってしまった。


「お義母さん…」

涙目のサーニャが、途方に暮れたようにカロリーナさんに話し掛けた。


「何だよ?」

聞き返すカロリーナさんにも、いつもの覇気がない。


「あたし、もうどうしたらいいのか…。今まであんなこと、なかったのに…」

サーニャの言うことにはああ言えばこう言うカロリーナさんも、これには頷かざるを得ない。


「これにはきっと何かあるよ…」

カロリーナさんは、『モンヴェール』での宴席でリセクの様子がおかしいことに気が付いていた。でも、それは疑惑止まりだった。それが間違いなく確信に変わったな。


この朝の一悶着は、サーニャとカロリーナさんを更なる行動に駆り立てるだろう…俺は思わずほくそ笑んでしまった。こういう時には必ずバレて俺弄りというパターンになるのだが、今朝は何事も起きなかった。いい朝ですね。


カロリーナさんのことだから、いきなりマルバイユ商会に乗り込む可能性もあり得ると思っていたが、そんなことはなかった。そもそもカロリーナさんとベンカジには繋がりがある。今の段階でベンカジの悪事に気が付けというのは、さすがに無理というものだ。カロリーナさんが向かったのは、『ピーノリブロ』だった。


「ここで仕掛けるべきでし!」

ティアリスは小さな握りこぶしを作り、アツく宣言した。


「カロリーナさんと面識があるのは俺だけだ。俺一人で行くよ」

それには誰も異を唱えなかった。


カロリーナさんは『ピーノリブロ』の常連だ。いつぞやはとんでもない酒豪ぶりを発揮して、どんちゃん騒ぎをしていたが、今日はしっぽりと飲んでいる。それでも昼間から飲むヤツはそんなに多くはないからな…いつもの面子が相手をしているようだ。


「おう、これは皆さん…お揃いで」

こういう場に後から交ざるには鉄板の方法がある。少しチャラい感じに振る舞うことだ。


「今日は随分としょぼくれちゃって…どうしたんです?」

案の定、カロリーナさんはちらりとこちらを見やった。


「まぁた嫁さんと喧嘩でもしたか?」

少しずれたことを、おどけたように聞いてみた。


「違うよぉ。倅のリセクがね…。どうも様子がおかしいんだよねぇ…」

乗ってきてくれたな。この流れで一気に行くぜ。


「おかしいって…どんな風に?」

「ずっと…塞いでるんだよ。碌に食事もとらないようになっちまってさ。決まって酒を飲んで帰ってくるようになっちまったんだよね」

誘導的な質問だったが、カロリーナさんはちゃんと答えてくれた。


「あぁ、そりゃ恋煩いだな」

今度はロアジスが、ずれたことを平然と口にする。


「そんな馬鹿なぁ…あの子にはねぇ、れっきとしたサーニャっていう恋女房がいる…あっ、もしかしたら…」

何かが引っかかったのだろう…カロリーナさんはハッとしたような表情を浮かべ、固まってしまった。


「何か…思い当たることでも?」

柔らかな口調だが、シェリルさんはそれとなくカロリーナさんを問い詰めている。


「少し前にね…マルバイユ商会のレンナーって従業員が、倉庫で首を吊ったらしいのよ。それで落ち込んでるんじゃないかと思ったんだけどね」

それは関係なくはないが、刺身のつまのようなものだ。


「商会の話はしないんっすか?」

今日は『ピーノリブロ』にいるザヤスが、マルバイユの話が続くように仕向けた。ディサイドとセブラーは、少し離れた所からこのやり取りを聞いている。


「いや元々さ、外のことは家では話さない子だから…変なことがあってもなかなかね」

カロリーナさんとベンカジとの関係を考えると、リセクも話し難いだろうな。


「まあ、変なことと言えば…マルバイユ商会にいた女が花街にいたってことだな」

ここでロアジスが、ロアジスにしかできない仕事をしてくれた。


「旦那ぁ、違うでしょお…もともと花街にいたのがマルバイユに行って、そのマルバイユからまた花街に戻ったってことですよ」

これはパイロが正解だ。しかし、ややこしいね。


「あぁもぅ…ややこしい!ねぇどういうこと?」

シェリルさんの気持ちはよく分かる。


「つまりだなぁ…いや、俺にもよく分かんねえな」

自信満々に解説してやろうとしたロアジスだが、あっさりと挫折してしまった。


「ちょ、ちょいと!気になるじゃないか。お前さん、話を聞かせてくれよ!」

カロリーナさんはロアジスに掴みかからんばかりだ。さすがにそれはパイロが止めようとする。ロアジスは2人にもみくちゃにされ、シェリルさんはケラケラと笑っていやがる…気楽なもんですね。


このやり取りを、空気のような存在感のなさで見ているディサイドは、してやったりだろう。これでカロリーナさんはマルバイユ商会に疑いの目を向けるはずだ。ここまでは上手くいっている…さあ、カロリーナさんはどうする?

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