裏のつながり
「貴様!そんな所で何をしている!」
ガチムチ男が殺意のこもった誰何の声を上げる。ユリーシャは最悪の事態に備え、ネコたんにいつでも飛びかかれるような体勢をとらせた。だが、この緊迫した状況下にあってもカティルはまったく動じていない。
「あぁ…アタシ飲み過ぎちゃって…」
夢見心地なカティルは、飲みすぎてぐでんぐでんに酔っ払っているようにしか見えない。
「あぁ…もう、らめぇ~」
ふらつきながら立ち上がったものの、まともに歩くこともできずに庭木に抱きつくように倒れてしまった。
「あら~、あなたいい男ねぇ…」
カティルさん、それ…庭木です。
目を覆いたくなるようなカティルの醜態に、殺気立っていたヤツらもすっかり毒気を抜かれてしまった。娼婦が客の勧めでお酒を飲むのはよくあることで、こういう光景も日常茶飯事なんだろう。
「はっ、しょうもない女だ」
ドグラスは酔って前後不覚になったカティルを嘲笑った。
「目障りだ。つまみ出せ!」
不快感を露にしたベンカジの指示で、『サイサリス』の従業員が呼ばれ、カティルは両脇から抱えられるようにして、店の奥へ連れていかれてしまった。カティルがお酒を口にしていたのは確かだが、酔っ払っていたのは演技である。何にせよ一安心だな。
奥へ連れていかれたカティルは、それまでの醜態が嘘のようにシャキッとした足取りで歩き始めた。支配人に丁重なお礼を言い、それまでとは打って変わって地味な女に着替えたカティルは、『サイサリス』を後にした。
翌朝、俺達は『ピーノリブロ』の個室で会合だ。昨日とは違い、今日の個室は華やかさと落ち着きが同居している部屋である。面子もカティルとジルニトラが加わった。ジルニトラが来るからこの部屋になったのかもしれないね。
「ベンカジの背後にいるアカテナンゴ商会のドグラスが、材木商の陰の元締めとして暗躍している…そういうことじゃな」
カティルの報告を一通り聞いたジルニトラが、今回の一件を上手くまとめてくれた。
「元締めのドグラスが差配しているからこそ、ダラカニのヒノキの買い占めにも横槍を入れられないんでしょうね…」
ディサイドの見立てはもっともだ。
逆に言えば、会計庁に申し立てを行ったアルクニクスは何を考えているのか…そこには疑問が残る。材木商達の裏のつながりを知ると、不可解としか言いようがない。おそらくあの女の指図なのだろうが…。
「それにしてもぉ、こんなに早く動くとは思わなかったですね」
誰もが疑問に思うこと、それをセブラーが口にした。
「タリアはベンカジに何も言わなかったようだな…俺達にとってはラッキーだった」
それに対して俺なりの答えを返してやるが、腑に落ちない何かが残ってしまう。
「言うと、また姿を隠すように指図されるからね」
「おカネを貰って姿を隠すより、ショウのようなエロガッパから巻き上げる方がいいに決まってるじゃない」
カティルの指摘は理に適っているが、アマユキのそれはただの嫌味である。
「それで…これからどうしますか?」
話が脱線しかけたところを、ディサイドが修正してくれた。いい仕事をしてくれるぜ。
「カギを握るのはリセクだ。アイツは今、精神的に追い詰められている。そのことにはサーニャもカロリーナさんも気が付いているはずだ。犬猿の仲だが、リセクのことになると話は別だからな…」
サーニャはともかく、カロリーナさんには随分と振り回されたものだ。今度はこちらの思惑に沿って動いてもらうことにしよう。
「これからはサーニャとカロリーナを上手く利用する…現状ではそれが一番でしょうな」
この策にはジルニトラも同意してくれた。
「場合によってはこちらからも上手く情報を流す…そういうことも考えなくてはなりませんね」
ディサイドの念頭には、ロアジスとパイロがいるのだろう。そういう役回りは得意そうだからね。
「ところで…ザヤスは何をしている?」
最近、まったく姿を見ていないからな…さすがに気になってきた。
「今は会計庁の女の護衛をしています。大丈夫だとは思うのですが…レンナーとつながりがあったので、念のために」
「そうか…」
ディサイドは何でもないことのように話しているが…あの2人はどういう関係だったんだろう?会計庁の女はザヤスに拘っているように見える。だが、当のザヤスはどう思っているのか…そこがよく分からない。
「言いにくいことなんだけど…レンナーには目が無なかったんじゃない?」
アマユキの疑問に答える者は…いない。みんな困った顔のまま愛想笑いを浮かべている。つまりそういうことなんだろう…不憫だな。
言ってしまえば、それは自分で選んだ道だ。だが、そこには未来なんてなかったのだ。レンナーだけがそのことに気付かず、最悪の結果を招いてしまった。アイツのことはよく知らないけどさ…真相を暴くことが、俺達にできるせめてもの慰めだよな。




