花街潜入
いがみ合うことはあっても、こうと決まれば一丸になれる。それは誰もがわきまえているし、必要と思われるスキルを出し惜しみするような真似はしない。
このアマユキ男装作戦で、意外な一面を発揮したのはティアリスである。彼女の手により、アマユキは凛々しい美少年へ変身してしまった。
「たいしたもんだな…」
その変装術の巧みさは、リアルナさんに勝るとも劣らない。でも、こんな美少年が身近にいたら嫌になるぜ…。
「普段から変装は大好きなのでし!」
確かにユリーシャ邸にいた時のティアリスは、ヒラッヒラのフリルで覆われたとんでもないワンピースを着ていた。軍服ワンピースの痕跡が分からなくなるほど魔改造したアレは、見ていると頭がクラクラするが、腕は確かなのだ。好きこそ物の上手なれ…ってことなのかもしれないね。
それから…得意そうに胸を張るティアリスだが、こちらはアマユキ以上にない。もちろん、それは口が裂けても言ってはならない。
「ところで…ネコたんとの情報のやり取りを、杖を使わずにすることはできるか?」
俺はもう一つの懸案をユリーシャに尋ねた。
俺の魔剣とユリーシャの杖は、お互いに情報をやり取りすることができる。だが、ネコたん…アモルファスゴーレムとはそうではない。
あれは普通のゴーレムとは比べものにならないぐらい高機能ではあるが、基本的には目の届く範囲で動かすことを想定している。そこは普通のゴーレムと変わらないのだ。
今後に起こるかもしれないことを考えると、それでは問題があるかもしれない…ここは何とかしてほしいところだ。
「少し改良が必要ですが、問題ないですね」
ユリーシャは自信を持って答えてくれた。さすがですね。
「そうか…よろしく頼むよ。それじゃあ、行ってくる」
俺は美少年のアマユキと連れ立ち、コテージを後にした。いよいよ花街初体験だ!
夜のパルシファルには、落ち着きの中にも所々に『ピーノリブロ』のような熱気がある。だが、花街の熱情は、それらとは比べものにならないほどに激しい。
「凄いな…」
この雰囲気…どこか懐かしさを覚えるが、それとは別種のものだ。
「花街はこれからが書き入れ時だからね」
ここに来るときは面白くなさそうだったアマユキも、この熱にあてられているようだ。だが、この雰囲気に呑まれる訳にはいかない。俺達はタリアを探しに来たんだからな。
『飾り窓』の方を見ると、あられもない下着姿を惜しげもなく晒している娼婦の方々が、窓辺に立っている。下着の種類は実に様々。黒いセクシーなランジェリーに赤いTバック、じっくり見れば見えちゃうかもしれないスケスケのセクシーショーツ…これは堪りませんな。
「そんなにじっくり見るなんて…引くわ」
アマユキがゴミを見るような目で俺を見てきやがった。
「ここはそういう所だからな。仕方がないよな!」
完全に開き直っているものの、内心はそうではない。
まだライラリッジにいた頃、リアルナさんから『飾り窓』には行かない方がいいと言われていた。今ならその意味がよく分かる。行けば間違いなくハマっていただろう…そうなれば、ユリーシャが俺に愛想を尽かすのは時間の問題だ。その後の展開は…考えたくもない。
「それで…いたの?」
「いや、いないな」
妖艶な魅力を振り撒いている娼婦の中に、タリアはいない。
「これからやって来るのかもしれないわね…」
「そうだな…」
アマユキの指摘はもっともだ。窓の向こうのセクシーなお姉さんだけではなく、道行く人々にも注意を払うことにしよう。
ここには実に様々な人がいる。多くは鼻の下を伸ばしている堅気の男だが、明らかにコイツは違うなってヤツもいる。だが、ヤバいのはそういうヤツじゃない。一見すると堅気の人間だが、危険な匂いを感じる男…そいつらの方が遥かにヤバい。間違いなくその道のプロだ。おお、こわいこわい。
「あの2人もそう。上手くやっているわね」
アマユキの言う2人とは、見た目からしてヤバいヤツと危険な匂いを感じる男がコンビになっていることが多いってことだ。これは2人で要人を警護しているんだろう。
「威嚇と本命は別ってことか…オルティスとニルスライズみたいなもんだな」
もちろん、オルティスが見かけ倒しという訳ではない。それでも言わんとしていることは通じたようで、アマユキは小さく笑っている。
そうやって警護されている男は、誰もが金を持っていそうだ。どこぞの貴族であったり、どこぞの商会のお偉いさんであったり…そういうヤツらなんだろう。どちらにせよ、今の俺達には関係ない。
「来るとしたら…私のように男装をして来るのかもしれないわ」
確かにアマユキのように男装をしている女性がちらほらいる。出勤する際に、いざこざに巻き込まれるのを防ぐためだろう。
「或いは顔を隠して来るか…」
今しがた俺とすれ違った女は、フードを目深に被り、地味なケープを身に纏っている。こんな地味な女、野郎共は気にも留めない。
「あっちは調べた?」
「いや、まだだ」
アマユキの言うあっちとは、一見するとシックなバーのような店だ。売春の形態は飾り窓だけではない…キャバクラのようなサービスを提供している店もあるようだ。
客が入るタイミングで不可視の錫杖を中に入れてみるが、タリアと思しき女はいない。花街には多種多様な人々がいる。この中からタリアを見つけるのは至難の業だ…ディサイド達だけに任せなくて正解だったな。




