一夜の過ち
覗き見はしないが、出待ちはする。それが俺の流儀だ。という訳でネコたんをホテルの敷地の一角で待機させ、リセクとタリアが出てくるのを待ち受けることにした。
「ピクリとも動かないと、まるで黒猫の置物のようだな…」
これなら誰にも怪しまれないだろう。
「本物のネコたんも、ボーッとしていることが多かったですね…」
ユリーシャが懐かしそうに答えてくれた。
ミランミルを訪れた際に、そこにネコたんと思しき黒猫の姿はなかった。つまり、そういうことなんだろう。置物ネコたんは辛抱強く待っているが、2人はなかなか出てこない。
「これは朝帰りのようでしね!デュフフフ…」
今日は妄想が捗りまくりでしね。さすがに目に余ったのだろう…フェリシアさんが頭をコツンとしております。
「睡眠薬を盛られていたんだから…仕方がないでしょうね」
同じ一位武官でも、ティアリスとアマユキは大違いだな。
それはともかく、出てこないのであれば、このまま観察をし続ける必要はないだろう。あとはネコたんに任せて、俺達は休むことにした。そしてティアリスの予想通り、2人がホテルから出てくることはなかった。
一夜明けて、2人は別々にホテルから出てきた。ネコたんは置物をやめて、リセクの追跡を始める。さすがに罪悪感があるのだろう…リセクはまっすぐ家に帰った。
「これから修羅場になりそうでしね~♪クフフフ…」
他人の不幸は蜜の味。でしでし先輩は本当に好きでしね…。
「そういうことにはならないと思いますよ~」
ほんわかフェリシアさんは、修羅場否定派のようだ。さて、どうなるか?
帰ってきたリセクに、サーニャは何か言いたげだったが何も言わなかった。リセクは言伝て屋を介して、体調不良で仕事を休むことをマルバイユ商会へ伝えた。ビールと薬で本調子ではないのだろう…。
「つまらないでし!」
この展開にティアリスは不満を露にしたが、誰も同意しない。その代わりに、フェリシアさんから頭をコツンとやられてしまった。
では、もう一人の当事者のタリアはどうしているんだろう?ネコたんをマルバイユの邸宅に行かせてみると…ちょうど出勤してきたところだった。
「今朝は艶やかでしね~」
これには誰もがウンウンと頷いた。
「これからのことを話し合いに来たんでしょうね…」
今日もまともなアマユキの見立てにも、みんながウンウンと頷いた。
タリアはいつぞやの強面の男にベンカジへ取り次いでもらい、奥の部屋へと案内された。そこは地味ではあるが、応接室のように見える…もちろん、俺達が案内された部屋とは別の部屋だ。後ろめたいことを話し合う部屋なんだろうな。
何を話し合うのか…気にはなるが、観察をここで中断せざるを得ない。応接室にはヴァルキュリアとウォーダンもいたからだ。
「あと一歩のところで出てきますね…」
ユリーシャは残念そうに呟き、不可視の錫杖を応接室から遠ざけた。
「そうでもないさ」
俺は不敵な笑みを浮かべながら続けた。
「ヴァルキュリアとウォーダン…あの2人があそこにいたってことは、近いうちに大きな動きがあるってことだ」
これは間違いないはずだ。
「そういう意味では墓穴を掘ったとも言えるな」
カレンが俺の後を引き継いで、付け加えてくれた。もちろん、すべてお見通しという訳でもない。
「あのお爺さんは何者なんでしょうね~」
フェリシアさんがほんわかと指摘したのは…応接室の中にいた爺さんだ。わずかな時間しか観察できなかったが、そこには確かに見たことがない爺さんがいた。
「さあな…」
その疑問には答えられない…今のところはね。
だが、あの場にただの爺さんがいる訳がない。マルバイユ商会の不正、ゼレケの殺害…あの爺さんも、この一連の事件のどこかに絡んでいるのだろう。何にせよ明日だ。今日、ヤツらがどのような話し合いを持ったのかは分からないが…明日にはその結果が分かるはずだ。大きな山場を迎えている気がするぜ。




