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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第4章 パルシファルの嫁と姑

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秘密がある女

俺達が密かにリセクを餌にしてベンカジを釣る策をとると決めた頃、リセクは様々な仕事に追われていた。3位支配人ということもあり、色々と任されているようだ。できる男は違うね。


それでも夕暮れ時になると、さすがにリセクも疲労の色を隠せない。お疲れ様でした。家路につくリセクは、どことなく嬉しそうだ。家にはサーニャがいるからね。もしかしたら、カロリーナさんもいるかもしれないけど…。


リセクの観察をしていたら、タリアという思わぬ収穫があった。昨日に引き続きラッキーだぜ。今後のリセクとタリアの関係は要チェックだな。


今日の観察はこれで終わりだが、ゆっくり寛げるという訳でもない。ディサイド達はこれから『ピーノリブロ』でレンナーと面談だ。その様子は俺達もこっそりと覗かせてもらうことにしよう。


ディサイドは2階の個室で面談をする予定だったが、レンナーがそれを拒んだため1階の食堂ですることになった。機微に触れる話だけに、そこが適しているとは思えないが、この時間の食堂は喧騒に包まれている。誰も彼もが自分達の話に夢中で、他人のことなど興味がないように見える。これなら大丈夫だろう。


日が落ちるのを待ち構えていたかのように降り始めた雨は、今や本降りになってしまった。雨の中、レンナーは傘を差してやって来た。


ディサイド達は、出入り口に一番近い席に陣取っている。レンナーが入ってきたことに気が付いたザヤスが、親しげに言葉を交わしながらレンナーに席につくように促した。


おそらく顔見知りなのだろう…ザヤスの隣にレンナーが座り、いよいよ聞き込み開始だ。挨拶もそこそこに、ディサイドは単刀直入に問い質した。


「どんなことでもいい。マルバイユ商会の内情を知りたいんだ」

そこには事件を解決したいという熱い思いを感じる。


「私の口から言える訳が…どうかご勘弁ください」

レンナーがどこまで知っているのかは分からないが…ディサイドには教えたくないようだ。


「何言ってんだよぉ…人が一人殺されてんだぞ。分かってんのかよぉ!」

いつもは穏健なセブラーも、語気を強めてレンナーに迫る。この流れにレンナーは抗しきれず、観念したように話し始めた。


「実はその…お察しの通り、胡散臭いことが…」

「どう胡散臭いんだ?」

レンナーの握っている秘密、それは事件の核心に触れるものだ…見ている俺達も、思わず身を乗り出してしまう。


「ベンカジ会長、筆頭支配人、それから2位支配人…この3人が何やら秘密を持っているようでして」

やはりな…ここまでは俺達も読んでいるぜ。


「その秘密って…どんな秘密だ?」

あと一歩だ!ディサイドも気が高ぶるのを抑えきれないようだ。


「それは…」

意を決してレンナーが話そうとした…その時だった。何とも言えないタイミングの悪さで、ロアジスとパイロが食堂に入ってきた。


「おぉ…ディサイドじゃないか」

レンナーの表情が曇る。ただでさえ3対1で圧を掛けられているからな。


「お疲れさまです…」

ディサイドもこの展開には戸惑いを隠しきれない。まさに招かれざる客である。


だが、やって来たのはロアジスとパイロだけではなかった。2人の後から『ピーノリブロ』を訪れた女が傘を畳み、中に入ろうとする。見覚えのある女だった…タリアである。そして、タリアに見覚えがあるのは俺達だけではなかった。


「うん?お前は確か…」

喉まで出ているのに思い出せないようで、パイロはもどかしい思いをしているようだ。一方のタリアは食堂には入らずに、再び傘を差して立ち去ってしまった。


ディサイド達はもちろんのこと、パイロも気が付かなかったようだが、パイロを見たタリアは驚きで目を見張っていた。あんな風に立ち去ると不審に思われるかもしれない…でも、それ以外の手を考えられなかったのだろう。なぜかは分からんが…。


そして、タリアの出現は更なる変化をもたらした。タリアをちらりと見たレンナーが、顔を背けたのだ。


「し、失礼します」

動揺の色を隠そうともせずに、レンナーは店から出て行った。


「お、おい。ちょっと待て!おい」

ディサイドは慌てて呼び止めるが、レンナーは逃げるようにして、この場を後にしてしまった。


「あ、なんだぁ…聞き込み中だったのか?」

ロアジスは悪びれもせずに聞いてきた。


「もう…何でそう邪魔ばっかりするんですか!」

ディサイドはさすがに苛立ちを隠しきれない。レンナーへの配慮で、出入り口に一番近い席を取っていたのが仇になってしまったな。


「邪魔だとぉ…俺はなぁ、兄上の気持ちでいつもお前のことを心配してんじゃねえか!」

邪魔者扱いされては、さすがのロアジスも不快感全開である。


「まあまあ…2人とも仲良くっすよ」

いつものことなのだろう…ここはザヤスが仲裁に入った。


「そんなことよりぃ…どうかされたんで?」

いつものことなので、セブラーは気にも留めていない。だが、パイロの様子は気になるようだ。


「いやぁ、たいしたことじゃないんだが…さっきの女を『飾り窓』で見たような気がして」

照れまくるパイロを見るに、ただ単に見ただけではないような気がするね。


「見間違いじゃないか?体を売る女がこんな所に来る訳がない」

『ピーノリブロ』は売春婦を出禁にしている訳ではない。だが、わざわざここまで来なくても食堂はいくらでもある。ロアジスの言い分は間違ってはいない。


「まあ、そうですね…ところで旦那、ゼレケの件はどうなりやした?同業って訳じゃないんですが、あっしも似たようなもんなんでね…気になっておりまして」

ゼレケほどではないが、危ない橋を渡るようなことをしているのだろう…パイロは捜査の行方が気になっているようだ。


「まだ、何とも言えん」

意趣返しという訳ではないと思うが…ディサイドは詳しく話すことはしなかった。


「よし、今晩は俺のおごりだ!」

何だかんだで迷惑をかけたという思いがあるのだろう…今晩はロアジスが奮発するようだ。


「それならたらふく食いましょう!」

タダ飯が食えるとあって、ザヤスは喜色満面である。レンナーはもう帰ってしまったし、今できることは何もない…今晩はそれでいいだろう。聞き込みはまたの機会だな。

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