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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第4章 パルシファルの嫁と姑

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非協力的な男

材木を扱っているマルバイユ商会の拠点は、一見するとありふれた邸宅にしか見えないものだった。もっとも『キノコの館』だって、ぱっと見は普通の邸宅だったからな…この邸宅の中がおかしなことになっていたとしても、驚くようなことではないだろう。


用件を伝えると、俺達は1階にある応接室へ通された。もちろん、ここでは材木の販売はしていない。そこはファルネーゼ商会と似ているね。


それでもここはあの『キノコの館』ほどにぶっ飛んではいない。やはりアレはキノコの食べ過ぎでああなってしまったのだろう…とは言え、ここには様々な樹種の丸太の輪切りが飾られている。そこにマルバイユ商会の矜持が見て取れる。


応接室で待たされること数分、ベンカジが姿を現した。エスタンシア商会のヒナステラもファルネーゼ商会のサンガロも、応接室で待っていた。ベンカジはあの2人とは対応の仕方が違う。この時点であまり印象は良くないな。


「お待たせしてしまい、申し訳ありません。何分、立て込んでおりましてな。それで…今日はどのようなご用件でしょう」

言葉とは裏腹に、謝罪の意図はあまり感じられない。むしろ、さっさと終わらせて帰ってもらいたいという気持ちがにじみ出ている。


「実は昨日の朝、運河で遺体が上がってな。調べた結果、九番街で雑貨屋をやっているゼレケという男であることが判明した」

ジルニトラは重々しい口調で用件を切り出した。


ベンカジはこくりと頷く…それだけ見ると、ゼレケのことなど知らないように見える。


「死んだゼレケはこのようなメモを持っていた」

ディサイドがゼレケのメモを差し出した。


「拝見いたします…」

メモを受け取り一瞥したベンカジは、怪訝そうに眉をひそめた。


「どうして…私の名前が?」

こうなることを想定していたのだろう…ベンカジは本当に何も知らないと言わんばかりである。


「エスタンシア商会のヒナステラはゼレケに脅されていた。ファルネーゼ商会のサンガロもだ」

ジルニトラはベンカジを鋭く睨みつけた。ここで強面発動である。


「それで私も脅されていると…そういう訳ですか?」

「そう見立てているのだがな…」

ジルニトラに睨みつけられても、ベンカジは顔色ひとつ変えない。たいしたもんだぜ。


「残念ながらそれは見立て違いではないかと。そもそも当方はゼレケという男など存じておりません」

やはりそうきたか…予想通りだな。


「一昨日の夜はどこで何をしていた?」

ディサイドは、努めて平静を保ちながらアリバイを確認した。


「その日の夜はこの邸宅でゆっくり過ごしておりました」

「つまりアリバイはない…そういうことだな?」

強い口調で問い詰めるディサイドは、ジルニトラのように強面ではないが圧迫の素質があるね。


「お言葉を返すようですが…他の2人はどうだったのですかな?」

圧迫されてもそれをものともしない…肝が据わっているヤツだぜ。


「エスタンシア商会のヒナステラにもファルネーゼ商会のサンガロにもアリバイはあったぞ?」

バリバリの威圧的口調でジルニトラが迫る。普通の人間なら白状してしまいそうなもんだ。


「むしろ都合よくアリバイがあるというのも…それはそれで妙な話ではありませんかな?」

だが、ベンカジは笑みを浮かべながら指摘してきた。


他意はないのだろうが、その笑い方には不快感を感じる。そして、これはベンカジにとっては失策だったな…俺の勘が正しければ、だけどね。


「いや、確かに仰る通りで…そっちの線も含めてもう一度検討してみやす」

とは言え、このままここで押し問答をしても埒が明かない。俺はへらへら笑いながらこの面談を終わらせにかかった。こいつは一筋縄では行かないヤツだ…ここはいったん引くのが最善だろう。


「どうやら話が分かるお方もいるようだ」

ベンカジは満足げに頷いた。


「これから大事な打ち合わせがありますので…私はこれで失礼いたします」

机の上に置かれた時計をちらりと見やったベンカジは、俺達に一礼してから席を立った。


ジルニトラもディサイドも何も言わなかったが、ギシギシとした不快感とでも言うべきものを感じているようだ。


「それでは…儂らも帰るかの」

ここはマルバイユ商会が拠点としている邸宅。そんな所で我が家のように長居する訳にはいかない。ひとまず『ピーノリブロ』に戻ることにしよう。


ユリーシャ達はあの2階の個室で待機している。気を使って1階に下りていたセブラーと合流して再びそこへ赴くと、待機組の女子達は優雅にアフタヌーンティーを楽しみながら待っていた。俺達はお茶の一杯も出してもらえなかったのだが…。


「ご、ご苦労様でした…」

さすがにバツが悪いのだろう…ユリーシャの目が泳ぎまくっている。


「面談の様子はこちらでも見ていた。ベンカジは海千山千の難物のようだな」

「ほっぺに生クリームをつけてたらきまらないぜ…」

クールに評するカレンに、俺は苦笑しながら指摘してやった。すると、ティアリスがそれをペロリと舐め取った。


「カレン味のクリームでし!」

相変わらず自由人ですね。


「まあまあ、これからどう動くにせよ腹が減っては戦ができぬですよ~」

「確かにそうですな、わっはっはっ!」

フェリシアさんに勧められ、ジルニトラが席に着いた。俺達も右に倣って席に着いた。せっかくのアフタヌーンティー、それでギスギスするのも馬鹿みたいだからね。

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