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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第4章 パルシファルの嫁と姑

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若き魔法戦士の悩み

結局のところお酒に睡眠薬を盛り、眠らせてからお引き取りしてもらうことになった。シェリルさんの目配せだけでカティルが上手くやってくれたのは、さすがとしか言いようがない。


「災難だったわね…ごめんなさい」

「いえいえ、大丈夫ですよ。楽しかったですから」

シェリルさんは申し訳なさそうだが、俺はまったく気にしていなかった。それは強がりでも何でもない。


「私達で運びます。ザヤス、手伝ってくれ」

「へいっ!」

どうやらカロリーナさんの運搬は、ディサイド達がやってくれそうだ。ここは任せても大丈夫だろう。


セブラーとザヤスは慣れた手つきで荷物…じゃなくてカロリーナさんを担架に乗せて、運び出そうとする。どんちゃん騒ぎに交じっていたので時間の経過が分からなかったが、もう夕食時のようだ。人が増えてきたな。


「ちょいとすいませんよぉ。道を空けてください~」

セブラーはクセのある抑揚で野次馬どもに通してもらおうとするが、運んでいるブツがブツだけに、段々とざわめきが大きくなってきた。そうなると、騒ぎを聞きつけたパルシファルの魔法戦士が、この場にやって来るものだ。


「どぉしたぁ?」

そいつはセブラーに負けず劣らずクセのある抑揚で尋ねてきた。


「飲みすぎて前後不覚になってしまったので、送っているところです」

ここはディサイドがきっちりと対応してくれた。見習いとは言え、当地の魔法戦士がいてくれるのはありがたいね。


「そっかぁ、じゃヨロシクな」

まるで興味のない様子で魔法戦士は立ち去っていった。これも大事な仕事なんだけどね。


やはりと言うべきか…ディサイドは複雑な表情だ。知らない間柄ではないようだ。さっきの魔法戦士はどんなヤツなのか?どういう関係なのか?気になるね。いらぬお節介かもしれんが、話を聞いてやろう。


「私達だけで大丈夫だと思いますが…」

ついてきた俺に、ディサイドは控えめに意見してきた。


「そう言うなって。乗りかかった船だ。ところで…あの魔法戦士とはどういう関係だ?」

「同期です。でも、向こうは正規の魔法戦士になってから先輩面ですけど」

かなりトゲがあるな…。


「気に入らないか?」

「そうですね…多少は。そもそもカネで買ったって話ですから」

なるほどな…嫌な顔もするはずだぜ。


「もちろん自分の立場は分かっています。それでもずっと見習いでいるつもりはありません」

話が話だけに、ディサイドは声を潜めて自らの決意を表した。


自分の立場、それはディサイドがレガルディアの魔法戦士だということだ。それだけではない…ジルニトラの目として、このパルシファルで起こっていることを逐一報告しているはずだ。


ジルニトラにとっては、ディサイドが見習いの方が何かと都合がいいだろう。でも、いつまでも見習いというのもね…それもおかしな話だ。難しい問題だな。


「焦んなよ。チャンスは必ずやって来るんだからさ…」

特に俺達がここにいる間はな。


「それは…分かっています。でも、実際はこんな仕事ばかりですから…正直に言うと焦る気持ちもあります」

「それでも、だ」

苦笑しながら俺は言った。


シェリルさんに教えてもらったカロリーナさんの家は、『ピーノリブロ』からそれほど離れていなかった。今は妹さんと一緒に暮らしているようだ。カロリーナさんと比べると地味な妹さんだが、担架で運ばれてきたカロリーナさんを見てもちっとも驚いていない。さすがはあの酒豪の妹さんである。


「姉がまた迷惑をかけたようで…申し訳ありません」

それでも妹さんはまだ常識人のようだ。


妹さん一人でどうこうできる訳がないので、ぐったりしているカロリーナさんを家の中に運び、ベッドに寝かせてあげた。大きな声では言えないが、俺達は睡眠薬を飲ませてここまで運んできたのだ…これぐらいは当たり前だろう。妹さんはとても感謝してくれて、何度も何度もお礼を言われてしまったが…。


思っていたよりも長居することになったが、カロリーナさんの運搬はこれで終了だ。帰り道もディサイドの愚痴を聞きながら、『ピーノリブロ』へ戻ることになった。なかなか溜まっているようですね。


「今日は色々と聞いてくれて、ありがとうございます。おかげでスッキリしました」

「そうか…そいつは良かった」

こういう時に礼を言われるのは嬉しいもんだ。


『ピーノリブロ』でディサイド達と別れると、俺はコテージへ戻った。なんやかんやで疲れましたよ。


「今日は色々と…大変な一日でしたね」

ユリーシャが戻ってきた俺の労をねぎらってくれた。


「まあ…な」

風車守のおじさんから始まり、カロリーナさんときて最後はディサイドだ。さすがに疲れたぜ。


「でも、カロリーナさんに迫られて役得だったでし!」

「代わってやっても良かったんだぜ…」

さすがに嫌味の一つも言いたくなる。


「まあ、落ち着け。今日は色々あったからな…私達だけの夕げにすることにしよう」

俺達だけの夕食か…悪くはないが、もうどこにも行きたくないんだけど。


「『ピーノリブロ』に弁当の注文を出している。もうじき来るはずだ」

さすがは気配り名人のカレンさんである。少し時間がかかったものの、『ピーノリブロ』から弁当が届いた。


カレンが注文したのは、豚肉をニンニクとショウガで甘辛く味付けしたスタミナ弁当のようだ。ごはんとの相性が抜群だぜ。


「今夜は雨になりそうね…」

スタミナ弁当を堪能している最中に、アマユキがポツリと呟いた。


「そうか…」

よく当たるアマユキ天気予報、今夜はどうなんだろう?それはともかく、雨の夜は何かが起こりそうな気がする。サクリファスの時がそうだった…悪事を働く時には動きやすいのだろう。


考えすぎだと思いたいけどな。雨の夜に何らかの事件が起きて、それに俺達が巻き込まれる可能性なんてないに等しいはずだと…もちろん、それは考えすぎではなかった。そのことを俺は翌日に思い知ることになった。

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