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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第4章 パルシファルの嫁と姑

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酒豪のおばさん

いつもは厨房で忙しく働いているカティルが、今は『ピーノリブロ』の前でキョロキョロしている。午後の暇な時間帯とは言え、厨房の主のような印象がある娘だからね…珍しいこともあるもんだ。


「どうしたんだ?」

何やら嫌な予感がするが、声を掛けない訳にもいかないだろう。


「あっショウさん!…今行くと絡まれますよ」

やはりまずいことが起きているようだ。今日じゃなければいいのに…そう思わずにはいられない。それにしてもだ。


「絡まれる?」

どういうことなんでしょうね?気になります。


「すっごい人が来てるの!まだ夕方なのにお酒を水のように飲んじゃって」

酔っぱらいがいるのか…質が悪いのかどうかは分からないが、シェリルさんが気を利かせてカティルを表に立たせていたのだろう。ならば、こちらもそれに応じて動かないとな。


「みんなは先にコテージで休んでいてくれ。俺一人で様子を見てくる」

ここはこれが最適手のはずだ。


「一人で大丈夫ですか?」

「中に魔物がいる訳でもないからね。大丈夫だよ」

ユリーシャは心配そうだが、俺は努めて明るく返した。本心を明かせば、とっとと帰ってゆっくり休みたいんだけどさ。仕方がないだろう。


カティルと一緒に『ピーノリブロ』に入ると…いるね、ど真ん中の席で大盛り上がりになっている一団が。その中にはシェリルさんだけではなく、常連のザヤスや見習い魔法戦士のディサイドとその従者のセブラーまでいる。お前ら暇なのか?


もちろん、このどんちゃん騒ぎの中心人物は彼らではない。それは一人の年配の女性だ。少し濃い目の化粧、シンプルな色合いでまとめているのに決して地味ではない服装…この世界に美魔女という言葉があるのかどうかは分からないが、この人は間違いなくそれに当てはまる女性だ。


「あ~、嫌になっちゃう!」

おばさんは注がれていたワインをぶどうジュースのようにグイっと飲み干した。確かにすっごい人だな…。


「もうそろそろ止めた方が…そうだ!公衆浴場でひとっ風呂浴びてきたらどうです?身も心もスッキリしますよ」

シェリルさんが気を利かせておばさんを追っ払い…ではなく、丁重にお引き取りいただこうとした。


「余計なお世話を焼かないでおくれよ。あたしは素面なんだから」

見透かされているね…手助けできるかどうかは分からんが、見て見ぬ振りもできんだろう。


「おう、これは皆さん…お揃いで」

こういう場に後から交ろうとしているのだから、俺は少しチャラい感じに振る舞った。


「誰だい?あんたは」

おばさんは満更でもないようだ。成功だな。


「へいっ…旅の魔法戦士のショウってヤツで」

「ふ~ん…」

おばさんは俺を少しだけ見やった。


「旅の魔法戦士には見えないけどねっ」

確かにそうかもしれないな…などと思いつつ苦笑していると、おばさんはとんでもないことをぶっ込んできた。


「ちょいとお前さん、あたしと一緒にならないかい?」

「えっ…俺が、ね、姉さんと?」

みなさん、俺の慌てように大爆笑である。おばさんと言わなかっただけ褒めてほしいものだが。


「冗談だよ!からかうと面白いねぇ~」

いやはや、このおばさんは…。


「座って座って。あまり気にしないでね。この人、腹に一物なんてないから」

シェリルさんに勧められるままに、俺はおばさんの隣に座った。


「パルシファルの踊り子でカロリーナってんだ…ヨ・ロ・シ・ク」

カロリーナさんは艶めかしい挨拶をしてきた。


「そうなんですか…」

踊り子って言うよりかは踊りおばさんだよな。


「あたしはねぇ、これでも若いころわねぇ、あっちこちのお店から引っ張りだこだったんだからね!」

どうやら顔に出てしまっていたようだ。


「今だってさぁ…昔取った杵柄でご贔屓にしてくれる客はちゃ~んと、い・る・ん・だ・よ」

「そりゃどうも…おみそれいたしました」

コイツは想像以上の難物だ。シェリルさんが事前に手を打っていたのは正解だったな。


「ねえねえ、それでカロリーナさん」

「うん?」

「女手一つで育てた息子さんの話の続きは?」

シェリルさんはカロリーナさんのような面倒な客の扱いには長けている。さすがだぜ。


「それだよ~、息子のねぇ!…だからさ、息子のね!リセクはいいの。嫁!嫁がよくないんだよ。もぅ…あたしはもぅ、考えただけでくさくさするね、ホントに」

素面だと強がってはいるが、実際はかなり酔っているようだ…ろれつが回ってない。


「どんな風によくないんだい?」

別に興味がある訳でもないが、こういうのは聞いてやらないとな。


「姑のあたしにだよ、逆らうわ立てつくわ足引っ張るわ…さ・い・あ・く!」

世界が変わっても嫁姑問題は変わらないようだ。やれやれ…。


「でもね、お嫁さんの言い分ってのも…」

よせばいいのに、ザヤスが正論を吐いちまいやがった。


「ちょいと…嫁の肩を持つ気かい?」

やはりと言うべきか…カロリーナさんの機嫌が悪くなる。ザヤスの目は泳いでおります。


「まあまあカロリーナさん…あんまり波風立てない方がいいんじゃないですか?何と言ってもリセクさんは商会の支配人の一人なんだから」

商会の支配人?そりゃすげえな!


「そうだよぉ…いいこと言ってくれんねぇ~。ウチの息子はねぇ、何と言ったってさぁ、25の若さで3位支配人だよ!3位支配人。しかもさぁ、天下のマルバイユ商会でのこの出世だからね!」

どうも…俺の思い描いた支配人とは少し意味合いが違うようだ。


「マルバイユ商会…ってそんなに凄いとこなのか?」

「材木を扱っている大商会よ」

俺の疑問にシェリルさんが答えてくれた。


「もとは違う材木屋にいたんだけどね、そこが潰れちまってさぁ…そん時ね、息子をマルバイユの旦那が引っ張ってくれたんだよ。なんたってねぇ、会計庁のお役人がさぁ、難しい帳簿をウチの息子に聞きにくる程なんだからね!」

これは確かに有能だ。


「なるほど、そりゃたいしたもんだ」

カロリーナさんが息子に入れ込むのもよく分かる。


「それが情けないじゃないかぁ…あんな小娘に引っ掛かっちまって。ねぇ、ショウさぁん。分かってくれるでしょ、あたしの気持ち」

カロリーナさんは俺にしなだれてきやがった。突き放す訳にもいかないよな…。


「ま、まあまあ。お酒は…程々に」

「うるさぁい!ちょいと!じゃんじゃん酒持っておいで!」

俺は何とかこのどんちゃん騒ぎを収めようとするが、カロリーナさんはまだまだ飲むつもりのようだ。駄目だこりゃ…。

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