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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第4章 パルシファルの嫁と姑

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アルジャンナの織物

カチャン!…カン、カン


いつもは元気一杯なザナが、真剣な表情で機織り機の前に座っている。『ベルドゥラ』で給仕をしている時とは大違いだ。


「そこの部分はあまり良くないから使わない方がいいわね。ハサミで切っちゃいなさい」

ザナに機織りを教えているのは、義母のレミさんである。御年73歳。背筋はしゃんと伸び、歳よりも若く見えるね。


「ここも切って…そう、これでやってみて」

「はい…」

14時までは『ベルドゥラ』で給仕をし、それからちょっと遅めの昼ご飯を食べた後は機織りに精を出す。それがザナの日課だ。いつもと違って今日は俺達が見学しているので、少し緊張しているのかもしれない。


カチャン!…カン、カン


毎日、織り方を習っているだけあって堂に入っているように見える。もちろん、レミさんに言わせるとまだまだなんだろうけど。


「アルジャンナには古くから機織りの技術が伝わっていて、独特の布を織っていました」

ザナを指導しながら、レミさんがこの地に伝わる機織り技術について、穏やかな口調で語り始めた。


「どのような糸を使っているのですか?」

ユリーシャは興味津々のようだ。


「主に羊毛や綿から作られた糸を使っているのですよ。織り上げた布は、昔は嫁入り道具にも使われていたものです。懐かしいですねぇ…」

織物の歴史を語るレミさんは、遠くを見るような目つきだ。


「タペストリーや絨毯…それ以外にも色々ありますが、身近な生活の中で使われてきました」

ユリーシャの泊まっている部屋にも、美しいタペストリーが掛けられていた。確かあれはレミさんの手によるものだったはずだ。


「機織りとは1本の糸を出発点にしてゼロから物を作り出す仕事です。もちろん、限りはありますが…組み合わせ次第でたくさんの模様を生み出すことができるのです」

「とても…特別な物ができるのですね」

自らも芸術家の端くれだからか…機織りを見るユリーシャは真剣そのものだ。


「生地が織られていく過程で様々な模様が浮かび上がってくる…他の技術と比べてもデザインは豊かです。生地の上にインクを塗るプリントとはまるで違うのですよ」

まるで新たな弟子を指導するかのように、レミさんはユリーシャに語り続けた。穏やかな時間が流れていますね。


「機織りには限りがありません。仕組みが分かるともっと知りたい!っていう気持ちが芽生えてくるんです。機織りをする時って自分の内面が映し出されているような気がするんですよね…だから、私はこの技術が好きなんです!」

機織りの手を止めたザナがアツい思いを語り、レミさんは穏やかに頷いた。


ザナの言っていることは機織りに限った話ではない。あらゆることに通じるものだ。正直に言うと、機織りにはあまり興味がなかったのだが、それを改めて知れただけでも機織り見学をしている甲斐があるというものだ。


「この娘が機織りを始めたのはそんなに昔のことではありません。ほんの3年程前からです」

レミさんがザナの頭をポンポンした。小動物のようなザナには頭ポンポンがよく似合う。本人も満更ではなさそうだし。


「私には娘はいないし、バレガもなかなか良縁に恵まれなかった…だからといって、この技術が失われる訳ではありません。アルジャンナの織物はこれからも受け継がれ、多くの人が手に取ることでしょう。それでも私の後を継ぐ者がいないのは寂しいことです」

レミさんにとって、ザナは希望の光なんだな。


「それは仕方がないこと…そのように受け入れていました。だから、ザナがここに来てくれて、後を継ぎたいと言ってくれた時にはとても嬉しかったですね」

レミさん、少し涙ぐんでいるね…。


「代々受け継がれてきた技術を残す…それができるのは素晴らしいことですから」

ユリーシャももらい泣きしそうだ。その気持ちはよく分かるぜ…。


アルジャンナに古くから伝わる機織りを十分に見学させてもらった。そろそろザナとレミさんを2人にしてあげるべきだろう。ユリーシャが見学の礼を丁寧にするもんだから、今度はザナとレミさんが感極まっていた。いいもの見れたな。


今からサクリファスに帰ってもいいのだが、折角だからアルジャンナをぶらりとしてみよう。次に来るのはいつになるのか分からないからね。アルジャンナは終着の村で、確かに辺鄙な村だ。だが、そこまで寂びれてはいないように見える。


「思ったよりも活気があるよな」

辺境を目の前にしているとは思えない。


「サクリファスのような地方の中心都市がしっかりと支援をしているからですよ。アルジャンナは今後も大丈夫だと思います」

「そうだな…」

ここには産業もある。余程のことがない限り、ここが放棄されることはないだろう。そうなると新たな疑問。


「バレガは…何で結婚が遅れたんだろうな?」

レミさんは良縁に恵まれなかったと言っていたが、本当のところはどうなんだろう?


「おそらくレガルディアからは紹介があったはずだ…だが、バレガは自分の意思でここに来る人を望んだんじゃないかな」

それは分からなかったのだろう…ユリーシャは困り顔だが、その代わりにカレンが推察してくれた。


確かにそれなら納得だ。住めば都とは言うものの、このような村に嫌々ながらやってきて暮らしてほしくはない。バレガがそう思っていたとしても、何の不思議もない。アルジャンナに生まれ育った者の矜持ってヤツだ。その信念を貫いたからこそザナと出会えたのだ。譲れない思いって大事だよな。

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