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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第4章 パルシファルの嫁と姑

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アルジャンナ

ここはサクリファスからもっとも離れたアルジャンナを望める山の一角。山の中を縫うように通されているハルディーン街道の終着点、アルジャンナはすぐそこだ。俺達は街道沿いに設けられた小さな広場のような所から、丘の上にあるアルジャンナを遠目に眺めている。


「いい村だな…」

ポツリとそんな感想が口をついて出てきた。


「そりゃそうさ。ここは辺鄙なリュスギナ島の辺鄙な村だけどね…そこがいいんだよ」

答えてくれたのは、山羊飼いを生業にしているキプルトという男だ。辺鄙を強調しまくっているが、そこに自虐感はまったくない。住めば都ということだろう。


「そうか…」

ここはそうとしか答えようがない。


話を少し戻そう。この日の俺達は、前日とは打って変わって朝早くから行動を起こしていた。いつもなら『ティート』で朝定食を食べてから一日が始まるのだが、今日はカレンとフェリシアさんが前の日に作ってくれていた弁当で済ませる。サクリファスからアルジャンナまでは、歩いて1日といったところだ。行動は早く起こす必要がある。


これまでにもハルディーン街道の魔法樹の健康診断は行っていた。大雑把に5日間で4割ぐらいの進捗率だ。でも、訳あってあまり進まないように気を付けながら作業をしていた。今日からは違う…本気を出すぜ!


これまではユリーシャが魔法樹の状態を判断していたが、今日はフェリシアさんが判断する。フェリシアさんは、魔法樹に限らず植物の発する様々な声を聞くことができるからね。その声を聞き、どの枝のどこから先を切り落とせばいいのか…紐を巻いて誰が見ても分かるようにしてくれた。


その枝を切り落とすのはユリーシャが作ったウッドゴーレムだ。ゴーレムと言ってもピンきりで、このウッドゴーレムは、すこぶる簡易的なゴーレムだ。どのような姿にも変わることができるユリーシャ特製のゴーレムとは、比べるまでもない。


このようなゴーレムは、レガルディアではよく利用されている。簡易的なゴーレム故にできることは限られるが、枝を切り落とすぐらいの作業は訳もない。


とは言え、1人の魔法使いが操作するゴーレムは普通なら1体か2体だ。それ以上を操ろうとすれば、どうしても非効率的になるのだ。普通の魔法使いならね。


ユリーシャは魔法の分野においては普通というレベルを遥かに超えている。十数体のゴーレムを苦もなく作り、まったく無駄のない運用をしている。


もちろん、そこにはカラクリがある。不可視の錫杖とユリーシャの杖である。不可視の錫杖ですべてのゴーレムの状況を確認し、その情報をユリーシャの杖で分析して最適な運用をしているのだ。魔法具の使い方が秀逸ですな。


そうなると俺を含めて残りのメンバーは、あのドロドロの墨汁のような消毒薬を塗りまくる役割になる。場合によっては通行人の誘導もする。これまでとは違って、なかなか忙しい。


このやり方で残りの魔法樹の健康診断の内、8割方を済ませることができた。上出来だぜ。やろうと思えば今日中にすべてを終わらせることもできたのだが、明日に回すことにした。どのみち今日はアルジャンナに泊まらなければならない。宿の予約はカレンがしてくれているが、こういう時は余裕を持ってチェックインするものだ。


そういう事情もあるが、道中で山羊飼いのキプルトに出会ったことも大きい。スキンヘッドと言っても過言ではない程に薄くなった髪、こんがりと日に焼けた肌と目尻に刻まれた深いシワ。随分と苦労している印象があるが、キプルトは気さくな性格の男だ。


どうやら山の手入れをした後の帰りだったようで、俺達にやたらと話しかけてきたのだ。地元の人を邪険に扱う訳にもいかない。なので、キプルトと一緒にアルジャンナへ向かうことになった。


「儲からない仕事はするもんじゃないって父にはよく言われたものだよ。だから、パルシファルで家具職人をしていたこともあったんだ」

こちらから聞いた訳ではないのだが、キプルトは身の上話をし始めた。


「でも、ああいう街での生活には耐えられなかった。他にも色んな仕事をしたんだけどね…性に合わなかったんだ。結局、2年で村に戻ることにしたんだよ。今となってはパルシファルにいる自分ってヤツはとても考えられないな」

ひとまず山を下り、そこから丘を上がるとアルジャンナだ。上り坂をのんびりと歩きながらキプルトは話し続ける。


「パルシファルのことを悪く言うつもりはないんだけどさ…あそこは牢獄みたいなもんだと思うんだ」

思うは自由だが、そこまで言うのはさすがに酷いと思うぞ。


「ここは空気がいいし…何より自由だ。いるだけで楽しいよ。本当だよ」

「大きな街には色々あるからな…俺も故郷は田舎だったから、よく分かるよ」

初めての都会生活には、色々と戸惑ったものだ。これにはキプルトもにっこりと微笑んでくれた。


「ヤギを飼う仕事を始めてから、もう20年になるかな…今ではヤギの数は200頭を超えちゃったね。みんな言うことをよく聞いてくれるんだ。本当だよ」

キプルトは大好きなヤギたちに囲まれて、心の底から満足しているようだ。


「この仕事は決して楽じゃあない…生き物を相手にする仕事だからね。それでも、俺はこの仕事に満足しているんだ」

自分の仕事に誇りを持っているキプルトを眩しく感じるね。ほとんどスキンヘッドだからじゃあないよ。本当だよ。


「今日はアルジャンナに泊まっていくんだろ?どこに泊まるんだい?」

どこに泊まるんでしたっけ?


「『ベルドゥラ』だ」

俺の代わりにカレンが答えてくれた。


「あそこはいい所だよ。主のバレガは若いお嫁さんをもらったばかりでね…羨ましいよね」

そこに妬ましく思っている様はまったくない。我が事のように嬉しく思っているようだ。


「バレガによろしく言っておいてくれないか?」

「分かったよ」

アルジャンナに入ったところでキプルトとは別れた。それにしてもよく喋る男だったな。さてと…俺達は『ベルドゥラ』へ向かいますかね。

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