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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第3章 サクリファスの亡霊

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狂う歯車

「転機が訪れたのは1年程前のことだ。儂はグレイゴーストのゼーリックとして、十分に稼いだ。そろそろ潮時だと思ってな…どう店仕舞いするのかを考えるようになった。だが、筋は通す必要がある。キアラマリアに相談したところ、少し待ってほしいとのことだった。折を見て話を持ちかけてみたものの、なかなか前には進まなかった」

そこには多少の不快感がにじんでいる。


「何でだ?」

キアラマリアにとって、ゼーリックはそれほど重要な存在だったのだろうか?そうは思えないが…。


「アルクニクス商会には協力金を支払っていたからな…それがなくなるのを嫌ったのかもしれないな」

これは上納金みたいなもんだろう。それでもそのためだけにゼーリックを必要としていたとは思えない。


「事態が動いたのは2ヶ月程前のことだ。偽のゼーリックを用意し、それを殺害することでゼーリックという存在をこの世から消し去る…そのように決定されたのだ。アルクニクス商会が適当な人物を用意し、事に当たることになった」

わざわざこの時機にしたのは、俺達を巻き込むためだろう。


「偽のゼーリックは誰だったの?」

アマユキがあの男の名を尋ねた。ゼーリックとして処理された名もなき男にも、家族がいたはずだ。ならば、ちゃんと弔ってやりたい。


「パルシファルで殺人を犯し、死罪の判決が下された男ということだった。丁度いいと思ったのだろう…アルクニクス商会が裏から手を回し、サクリファスへ連れてきたようだ」

何ともはやだな…それにしても、偽ゼーリックとバーンズは似ていなかった。それでもバレなかったのは、グレイゴーストの入れ墨のおかげだろう。


「偽ゼーリックの殺害はギルマのツテを使い、適当な輩にやらせるつもりだった。だが、キアラマリアは実行役をこちらで準備すると言い出した。それならそれで構わなかったから、そこは任せることにした。紹介されたのがあの2人だったのは予想外だったがな」

バーンズは淡々と内情を説明してくれた。


偽ゼーリックの殺害は、その筋の輩にとっては容易い仕事だろう。そんな仕事をあの2人にやらせるとはね…草野球の助っ人に現役メジャーリーガーを連れてくるようなもんだな。


「ヴァルキュリアと…あの老魔法使いは何者だ?」

バーンズなら知っているはずだ。


「ウォーダン」

ウォーダン?その名に心当たりはなかったが、ユリーシャは得心が行ったように頷いている。後で聞いておくことにしよう。


「2人は偽ゼーリックに手を下した後も、キアラマリアの指示で儂の身辺警護をすることになった。あまり使い勝手がいいとは言えなかったがな」

やはりあの2人はあの女の指示で動いていたのだ。


「偽ゼーリックを仕立てて殺害する…この策は上手くいったように見えた。だが、あの彫り師に見破られたことで少しずつ歯車が狂い始めた。殺されたゼーリックは偽者。そんな噂が流れ、詳しく捜査されるようなことは何としても避けたい。そこで彫り師を殺すことにした」

一度生じた綻びは、取り繕おうとしてもなかなか上手くいかないものだ。


「彫り師殺害の罪は、ダスラーに被ってもらうことにした。ダスラーは矢場の女に入れ込み、その女は彫り師に気があるようだったからな。苦し紛れの策だったが、上手くいったように思えた。だが、裁判の結果は芳しいものではなかった」

ダスラー君は、俺達の証言もあって有罪にはならなかった。バーンズにとっては痛かっただろうね。


「でも、どうしてこんなにも早く動いたの?」

アマユキの疑問はもっともだ。裁判の後はじっくりと雌伏して、ほとぼりが冷めるのを待つ…そうすれば結果は違っていたはずだ。


「色々あってな…早く終わりにしたかったのだ。判断ミスであったかもしれんな」

坂道を転げ落ちるように、バーンズを取り巻く環境は悪化の一途を辿っていった…この1ヶ月を形容すると、まさにその通りになるだろう。


「ところで…お前はいつ気が付いたんだ?」

何でもないことのように、俺はバーンズに話を振ってみた。


「気が付いていればとっくに逃げておる」

バーンズにもその意味は分かっているのだろう…苦笑しながら答えてくれた。そりゃそうだよな。


さてと…これで聞きたいことはすべて聞けた。バーンズの尋問はこれぐらいでいいだろう。だが、最後にこれだけは言っておかなければならない。


「ライフィスだ」

「む?」

バーンズは怪訝な表情を浮かべている。やはり知らなかったんだな。


「お前達が殺した彫り師の名前だよ…覚えておけ」

「そうか…そうだな」

バーンズは再び苦笑しながら答えた。今度こそ俺達は席を立ち、この飾り気のない部屋を後にした。

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