魔晶石が革命を起こした
「それから…えっと、時は流れて今から1012年前です。この年、1人の天才魔法使いが現れます。付与魔法を開発し、術式魔法を再発見したフェルティスです」
付与魔法に術式魔法か…高度な魔法になってきた感じがするな。
「元々は数式魔法の研究者だったフェルティスは、数式魔法を何らかの物体の中に制御し複写した後に発動させるようにすれば、いつでも数式魔法を使えるようになるのではないか…と考えたのです」
「なるほど、分からん」
今日の俺は率直です。
「で、ですよね…。え、えっと…これがあれば誰もが高度な魔法を扱えるようになるのです」
おぉ!ユリーシャにしては簡潔で分かりやすかったぞ。
「そいつは便利だな!」
「ですよね!もちろん、その物体の開発は一筋縄ではいきませんでした。試行錯誤を重ねた末に銀とクリスタルを使って…まあ、ここは省略しちゃいましょう。とにかく、数式魔法を制御できる物体を作りだすことに成功したのです」
これまでの苦労を考えると、それがどれほど画期的なものなのかがよく分かるぜ!
「素晴らしい、フェルティス君!君は…ゴホンゴホン」
いかんいかん。つい…。
「えっ?」
「気にするな。続けてくれ、ユリーシャ」
これはユリーシャには分からないネタだから仕方がない。
「は、はい…えっと、その物体が魔晶石なのです。この魔晶石を使い、フェルティスは遂に付与魔法を完成させたのです」
いやはや…凄い人がいたもんだね。
「フェルティスの功績はこれだけではありません。むしろ、彼の最大の功績は、術式魔法の再発見だと思います」
「術式魔法って…どこかで聞いたことがあるな」
ごく身近な物に、そういう物があったような気がする。
「差し上げた魔剣は、術式魔法でできているのですよ」
「ああ。それでか…」
納得です。
「術式魔法自体は、かなり昔からある魔法なのです」
「そうなの?」
それは意外だな。
「元々は、心象魔法の欠点を補うために開発された魔法だったのですよ。成果はあったのですが…術式魔法は複雑な図形と文字を組み合わせた魔法陣を用意しなければならなかったのです。これは、当時の術式魔法を描いた写実画です」
ユリーシャが見せてくれた写実画には、かなり大きな魔方陣の真ん中に、魔法使いと思しき青年が立っている。
「これは大がかりな魔方陣なので、始まりの魔法などと比べると高度な魔法を使えると思います…」
歯切れが悪いね。何か問題があるようだ。
「高度な魔法が使えるようになるのはいいことじゃないのか?」
「もちろんです。ただ、当時はこのような魔方陣を主に地面に書いていました。不正確な図形やかすれた文字では期待通りの効果は望めません。この時代には術式魔法は完全に廃れ、時代遅れの遺物になっていました」
「なるほど…」
ここまで使いにくいと仕方がないだろう。
「それを蘇らせたのがフェルティスだったのです。フェルティスはこれまでの術者と魔法陣という組み合わせを、魔晶石と魔法陣という組み合わせに置き換えたのです」
「そんなのありか?」
反則技としか思えないぞ。
「ありです」
「そ、そうか…」
俺の疑問は、ユリーシャにあっさりと切り返されてしまった。
「これにより、複数の術式魔法を並列して使うことができるようになりました。これ以降、魔法は飛躍的な発展を遂げていくことになります!」
これはスイッチが入った感じだね…目がキラキラしているよ。
「フェルティスの功績は一般的には付与魔法の開発と術式魔法の再発見ですが、フェルティスの魔導機の研究も見逃すことはできません。それは新たな術式魔法を創る術式魔法の装置です」
「それってもしかして…」
俺にはピンと来るものがあった。
「はいっ、私が作りショウに差し上げた魔剣と同じ考えのものです。構想自体は1000年も前からあったのですよ」
フェルティスって凄い人なんだな。ユリーシャが熱く語るのもよく分かるぜ。
「一大ブームになった術式魔法なのですが…もちろん欠点もありました。それは魔晶石の大きさです」
ユリーシャが見せてくれた当時の魔晶石は…デカい!これはソフトボールくらいの大きさがあるぞ…。
「これに合わせて術式魔法を描くものは粘土板が使われていました。仮に当時の技術でフェルティスの魔導機を作るとすると…1つの都市ほどの大きさになってしまいますね」
「そこまでデカいと笑ってしまうな…」
とてもじゃないが、実用化なんてできっこない。
「そうなのです。ここまで大きいと実用化は無理です。そこで魔晶石の小型化は急務になりました。その研究は一大ブームとなり、魔晶石は瞬く間に小型化されていきました」
この展開、胸熱だな!
 




