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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第3章 サクリファスの亡霊

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本命の登場

ゼーリックの屋敷の動向は、これまでと特に変わりはない。中には15人のゴロツキがいるが、ヤツらも息を潜めて待っているようだ。あの腰巾着はゴロツキ共をよく抑えている。だが、確実に不満は高まっている。そりゃそうだろう…あんなヤツらに我慢ができる訳がない。


「この分だと今日のようね」

アマユキの見立てに、誰も異議を挟まなかった。


「私達が出た後はカルネイロとマルケサがコテージで待機することになっている。あまり考えたくはないが、もしもということもあるからな…」

急襲が失敗に終わり、散り散りになって逃げざるを得なくなる…カレンはそういう状況も想定して手を打っているのだ。


ここはサクリファスだからな…アインラスクの時のように当地の魔法戦士の全面的な協力が得られている訳ではない。たいしたもんだぜ。リビングで優雅に紅茶を飲む様を見ると、余裕があるようにしか見えないけどね。


昨日と同様に、誰もがその時が来るのをじっと待ち続ける。今日ではないのか?そんな疑問が生じ始めた夜更けに差し掛かった頃だった。遂にその時がやってきた…ギルマとバーンズがゼーリックの屋敷に姿を現したのだ。


「来やがったぜ…」

誰に言うでもない呟きに、みんなが頷いた。それと同時に緊張感がグッと高まる。姿を見せたのはギルマとバーンズだけではないからだ。


まずはあのウラよりも巨体のヤツが4人…フードを深く被り、ほんの僅かな肌の露出も許さないと言わんばかりに全身を黒衣で被っている。季節外れの手袋までして…暑くないのか?俺のパクリみたいであまりいい気分はしないね。


「見かけ倒しでしね」

「そうだな…」

それは歩き方を見ればよく分かる。ヤツらはまるでなっていない。取り柄はウラ並に筋骨隆々なところだけだろう。


「むしろ本命はヤツだ…」

ここで裏ティアリスさんの登場である。鋭利な刃物のような裏ティアリスさんが注目したのは、黒ずくめ4人衆の後ろを歩く1人の女。左右に翼の装飾がなされた兜をかぶり、長い金髪を一つ結びにして無造作に背中に垂らした女は、ライトニングカレンに負けず劣らずの派手な鎧を着ている。


だが、そこには決定的な違いがある。ライトニングカレンはユリーシャのデザインした芸術作品、言わば華やかで煽情的なコスプレをしたフィギュアのようなものである。


一方で女の着ている鎧には、細かい傷や補修した跡がある。これまでに数多の修羅場を潜り抜けてきた証ってヤツだ。あの鎧もPMAだから跡形もなく修復しようと思えばできたはず…にも拘らずそうしなかったのは、それが女にとっての誇りだからだろう。


となると、女の持つ白銀の長い槍…これも間違いなく生き血を吸いまくっているヤバい槍と考えていいはずだ。


「ヤツは私がやる」

裏ティアリスさんの主張に、誰も異を挟まなかった。あいつは危険だ…俺にだってそれぐらいのことは分かる。目の前にいる訳でもないのに、胸がザワザワして落ち着かない。こんなことは初めてだぜ…ここはティアリスの言う通りに任せた方がいい。


俺達は槍女に注目していたが、ユリーシャが目を付けたのは最後の1人だ。濃青色のローブに身を包み、同色の先が折れ曲がっているとんがり帽子を被った老人は、これ以上ないほどに典型的な魔法使いのように見える。手にしているごつごつとした杖は、いかにも魔法使いが持ちそうな代物だ。存在感が半端ないな…。


「気になるか?」

老人を真剣な眼差しで見つめるユリーシャに声を掛けるのは憚られるが、ヤツらの戦力を少しでも把握しておきたい。


「強大な魔力の持ち主ですね…私と同程度と考えてもらって構いません。おそらく戦闘になるのは避けられないでしょうから…対応は難しくなりそうです」

「そうか…」

ユリーシャを責めている訳ではないが、これには苦々しげに言葉を返してしまう。


ヤツらの出方次第だが、このサクリファスの街中で悪夢のようなとんでもない事態が起こりうる可能性もある。もちろん、ユリーシャもそんな危機的な状況に陥るのを見過ごすつもりはないだろう…何らかの手を打つはずだ。だが、どうなるかは誰にも分からない。


「予想以上の戦力だな…」

カレンの指摘はもっともだ。でも、悲観することはない。


「それでも…やってやるさ!」

決してアツくなりすぎないように、それでもみんなを奮い立たせるように俺は言った。誰も何も言わなかったが、誰もが自信ありげに頷いた。


何の根拠もなくそんなことを言っている訳ではない。俺達の装備はアインラスクの時とは段違いだ。あの時は着ていなかったPMAを、今回はみんなが着ている。見えざる守護などというアレな名前以外は、申し分がないPMAだ。


さらに俺とユリーシャはダンシングワンズという新たな武器も手にしている。槍女と老魔法使い以外は雑魚と言っても過言ではない。そういう相手にはうってつけだろう。


と、槍女がこちらを見上げてきた。不可視の錫杖越しに俺達を見ているかのような女は、不敵な笑みを浮かべている。


見えている訳ではないはずだ…それでも間違いなく気付いていやがる。槍女は老魔法使いと何やら言葉を交わしたものの、お互いに不可視の錫杖をどうにかするつもりはないようだ。


「気付かれていますね…」

その事実にユリーシャは多少のショックを感じているようだ。


「どのみちやることが変わる訳でもないからな…構わないさ」

そう言いながら俺は立ち上がった。想いは同じで、他のみんなも立ち上がった。


「お気を付けて」

明日の朝も早いだろうに、モカップさんは今日も遅くまで残ってくれている。


「はい…後のことはよろしくお願いします」

ユリーシャは少し申し訳なさそうに、モカップさんに託した。


「承りました」

モカップさんはあまり心配していないように見える。俺達の実力を信用して…という訳ではないだろう。立場上、これまで多くの裏事情に関わってきたのは間違いない。難しい立場に追い込まれたこともあったはずだ。そこから得られた教訓が、なるべく入れ込まないようにする…ということなのだろう。


それでいいと思う。こっちのことは任せろ。根拠なんてまったくないが、妙な自信を持って俺は…いやいや、俺達はコテージを後にした。

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