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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第3章 サクリファスの亡霊

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切って塗って

サクリファスからアルジャンナまでは、歩いて1日といったところだ。もちろん、ハルディーン街道の道沿いにも魔法樹は植えられている。


サクリファスの魔法樹は手入れが行き届いていたが、それと比べるとハルディーン街道の魔法樹は状態が良くない。それは木槌で魔法樹を叩くとすぐに分かる。


コンコン…


サクリファスではこんな音がする枝はなかった。でも、ハルディーン街道には、低くて鈍い音が鳴る枝がある。青葉若葉の季節なのに、これらの枝には葉がついていない。おそらく水分も養分も行き届いていないのだろう。内部には空洞があるのかもしれない。


「ここは…駄目ですか?」

「そこは駄目ですねぇ…」

ユリーシャがフェリシアさんに確認すると、フェリシアさんは最終的な判断を下した。


場合によりけりだが、魔法樹は周囲に対して攻撃的になる。ライラリッジの城壁の外に植えられている樹林帯なんかは、その典型と言っていいだろう。普通の植物はあんな風に襲いかかったりしない。あれだけバキバキしてたら、負担は大きいだろうな。


もちろん、ハルディーン街道の魔法樹はそこまで攻撃的ではない。道行く人々に魔法樹が襲いかかっていたら、それは大問題になる。それでも、負担は大きいのだろう…逆に言えば、ライラリッジの魔法樹の手入れは行き届いているってことだ。


「そうなると切り落とすしかないな」

色々と準備してきたあれやこれやが、役に立つ時がやってきましたね。


「ここから切ってくださいね」

フェリシアさんはコブの部分を残すように、切る場所を指示してきた。


「コブは残した方がいいのか?」

どっちでもいいような気がするが…。


「枝の根元のコブは、木にとって傷口を防ぐためにとても大事なのですよ~」

「木の保護組織ってことか…」

それは知らなかったな。


「そうですよ~。ふくらみを残して切れば、木は自らの力で傷口を塞ぐことができるのです」

どうやら俺が浅はかだったようだ。


「逆に枝を残しすぎるとどうなるんだ?」

「そうするとコブを上手く作れなくなるのです。傷口の閉じないところから腐食が始まったり、病気を招く虫の住み処になってしまうのですよ~」

コブがどれだけ大事なものなのか…それがよく分かるね。


「大きな穴が空いてしまった木は、虫が入って穴が空いたのではなく、穴が空いている所に虫が入ることの方が多いようですね~」

「そうだったのか…」

知らないことばかりで、驚きしかない。


「ちょっとの傷でも木の種類によっては1年で少ししか傷が治らない…木は繊細な生き物なのです」

フェリシアさん、今日はアツく語ります。


「人にとって心も体も癒してくれる…魔法樹に限らず植物とはそういう存在です。一つ一つの植物を大事に育てるのが私達、ドルイドの仕事なのですよ~」

いやはや、感服しました。


そんな俺達のやり取りを、ユリーシャは熱心に聞き入っている。カレンは微笑ましく見守り、アマユキはあまり興味がなさそうだ。ティアリスは空をひらひらと舞う蝶に心奪われている。三者三様ですね…4人いるけど。


ノコギリでギコギコと切り続けること数分で、枝を切り落とすことができた。切った枝の切り口を見ると…半分が変色している。もう枯れているのかもしれない。


「この色が変わっている部分。ここはもう枯れてますねぇ…」

フェリシアさんのお墨付きがもらえたのなら間違いない。切った断面には、あのドロドロの墨汁のような消毒薬を塗っておこう。傷口のケアは大事なことだ。


枯れている枝はこれだけではない。フェリシアさんの指示のもと、残りの枯れた枝も切り落とすことにしよう。ちなみに、この作業をするのは俺だけである。ノコギリはみんな持っているはずなのだが…別にいいけどさ。


作業を続けること数分、木々が青々と茂る時季にも拘らず、まったく葉をつけていない枝があるという違和感のある光景は、一先ず解消された。


「これでどうよ?」

「上出来ですよ~」

俺がフェリシアさんに確認すると、フェリシアさんは合格点をくれた。自分の仕事がちゃんと評価されるのは嬉しいもんだ。


この調子で次へ行くか!と意気込んでいたら、フェリシアさんがサコッシュの中から何かの植物の実で作った水筒のようなものを取り出した。便利な実があるもんだ。


「それは?」

「これはヒョウタンの実ですよ~」

とてもヒョウタンには見えないが…。


「ヒョウタン?」

「そうですよ~」

俺の知っているヒョウタンとは大違いだぜ…。


「真ん中がくびれていないヒョウタンもあるんだな」

「ボールのようなものから棒状のものまで、色々な実の形がありますね」

「なるほど…」

今日は勉強になることばかりだぜ。


「このヒョウタンの中には、魔法樹を元気にするお薬が入っているのです」

つまりは点滴って訳だ。いや、点滴灌漑か…容器にヒョウタンの実を使うのが、実にドルイドらしいね。チューブにも細い管のような植物が使われているが…こんな植物、あったっけ?


「チューブもヒョウタンなのか?」

「違いますよ~。チューブは植物の繊維をバラバラにして、それをこういう形に繋ぎ合わせて作っています」

これは…驚きだな。


フェリシアさんの言っていることは、セルロースなどの植物繊維を材料にして、それを何らかの物質を接着剤として使うことで望む形に成形している…ということだろう。相当高度な技術だ。ヒョウタンとのアンバランスさがレガルディアらしいとも言えるが。


フェリシアさんがヒョウタンの実を魔法樹にくくりつけたら、今度こそこの魔法樹の手当ては終わりだ。


次の魔法樹にも、やはり枯れている枝が数本ある。ユリーシャが木槌で魔法樹を叩き、フェリシアさんが最終的な判断を下し、俺がノコギリで枝を切り落とす。その他3名は通行人の誘導などをしているが、何と言うか…やっている感を出しているようにしか見えない。


でも、それでいい。俺達はサクリファスから拠点を移す訳にはいかないのだ。作業が進みすぎるのは得策ではない。ちょっと代わってほしいとは思うけれど。

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