陣中見舞い
いつもの夜の会合で、俺達はダスラー君が謹慎処分になったことを伝えた。
「まずはひと安心だな」
カレンが裁判の結果を評した。そうだ…ダスラー君の無罪はこれから証明していけばいい。
続いてユリーシャが、今日のルゼットのことを話してくれた。
「ルゼットは事件のことを新聞で知ったようです。今日も特に変わりはありませんでしたが、バルトリの坂のリュスギナ像に祈りを捧げる時間が長かったですね」
あそこはルゼットにとって特別な場所だからな…その気持ちはよく分かる。
最後にモカップさんが、マルケサ経由でグラウさんのことを報告してくれた。
「グラウはライフィス殺害に使われた小剣に注目しています。あの小剣の写実画を持って、聞き込みをしているようです」
さすがはグラウさん、目の付け所がいいね。
「確か…サクリファスの魔法戦士は調べてなかったよね?これが突破口になるかもしれないわ」
まさにアマユキの言う通り。あれはサクリファスでは売っていないもののようだから、これがダスラー君の無罪の証になるはずだ。
「それで…これからどうするのでしか?」
ティアリスがこれからのことを俺に尋ねてきた。
「俺達もグラウさんに倣って原点に戻ってみる…ってのはどうだ?何か見落としていることがあるかもしれない」
それぐらいしか手はないだろう。
「見落とし…どこに注目するべきでしょうか?」
今度はユリーシャが俺に聞いてきた。
「ゼーリック、バーンズ、それからギルマ。こいつらが10年前の事件から今回の事件まで、どう関わっていたかだな」
この3人以外のことも含めて、それで見えてくるものがあるかもしれない。
それを踏まえて明後日以降は俺達も動く必要があるだろう。俺達が置かれている状況を考えれば受けの動きにはなるが、それは仕方がない。いずれゼーリックも動くはずだ…その時を叩く!この策はきっと上手くいく。根拠なんてまったくないが、俺には確信があった。
迎えた翌日、ユリーシャ達は今日もルゼットの観察だ。もはや必要ないようにも思えるが、もう少し見ておきたい…いや、ルゼットが今何を考えているのか知っておきたい。うまい具合にそういう機会が訪れるかどうかは分からないが…。
一方で俺達はモカップさんと一緒にダスラー君の様子を見に行くことにした。ダスラー君とは面識はないが、昨日の裁判で証言をした縁があるし、モカップさんにとっては『ティート』の常連さんだ。だから、そんなにおかしな話ではない。
勝手知ったる他人の家と言わんばかりに、モカップさんはダスラー君が住んでいる家の裏手に回った。そこにはぼんやりと庭を眺めるダスラー君がいた。
「ごめんくださ~い」
「なんだ。女将か…」
少し遠慮がちに声を掛けたモカップさんに対して、ダスラー君はあからさまにがっかりしている。ルゼットが来てくれるとでも思っていたのか?来るわきゃねぇだろ。
「なんだはないでしょう…なんだは。はい、陣中見舞い」
ダスラー君が失礼なのは今に始まったことではないのだろう。モカップさんはあまり気にせずに、手にしていた焼き菓子の詰め合わせを手渡した。
「ありがとな」
礼を言ったダスラー君は、次いで俺達の方に目を向けた。
「あなた方は…確か、証言をしてくれた…」
名前ぐらい覚えとけよ。
「ドルイドのフェリシア・ファーバルトです。こちらは護衛のアマユキとショウです」
ほんわかさんが簡潔に俺達の自己紹介をしてくれた。
「ありがとうございます。あなた方のお陰で助かりました」
ダスラー君は俺達に礼を言い、それから一つため息をついた。
「元気出しなさいよ。首が繋がっただけでもありがたいと思わないと」
モカップさんの言う通りだと思うぞ。
「そうだな。俺も一時期はどうなることかと…気が気でなかったよ」
ダスラー君は首に手をやり、不吉なしぐさをしておどけてみせた。そうだ…それでいい。
「ところで…グラウはどうしている?」
「あなたの無実を証明しようと駆けずり回っているわよ」
グラウさんのことを心配しているダスラー君に、モカップさんが現状を簡単に話した。いい部下を持ったな。
「グラウには、あまり無理をしないように伝えておいてほしい。無実を証明することはそんなに簡単なことではないから…」
確かにそうかもしれないが、グラウさんはいいところに目を付けていると思うぞ。
「分かったわ」
それでもモカップさんは首肯した。常連さんの頼みごとだから、仕方がない。
「今は『ティート』にも来れないと思うけど、またそのうちにね」
モカップさんはお店を抜け出して来ている身だし、俺達もダスラー君に話がある訳ではない。ここは長居をするべきではないだろう。




