裁判の行方
「それではサクリファスの魔法戦士、ダスラーに尋ねます。あなたはかねてよりルゼットという女性に思いを寄せていましたね?」
「それは…はい…その通りです」
ダスラー君もそれは否定できない。
「そのルゼットを取り合い、彫り師ライフィスを殺害したとありますが、これは間違いありませんか?」
「違います!私はライフィスを殺してなどいません」
ダスラー君はそれを強く否定した。
確かにあの3人は見ようによっては三角関係のように見えた。だから、そのような情報がもたらされていても仕方がない。でも、それは間違いだらけだ。それが分かっている訳ではないのだろうが、ここで爺さんが助け舟を出してくれた。
「証人がおりますからな…そちらに話を聞いてみてはどうでしょう?」
「そうですね…ドルイドのフェリシア・ファーバルト、証言を」
おねーさんもそれには従わざるを得ない。
「はい。あの晩、私達はたまたまダスラーさんを見かけ、その行動に不審を感じ後をつけました。異変を感じ、あの場に駆け付けたのはダスラーさんからほんの少し遅れた程度。その時点でライフィスさんは既に事切れていました。ダスラーさんにはライフィスさんを殺害できる時間はありません」
ここはフェリシアさんが上手く証言してくれた。
あの晩、俺達はダスラー君を不審に思ってつけていた訳ではない。だが、ダスラー君が不審でなければ俺達にダスラー君をつける理由がなくなってしまう。ルゼットをつけるダスラー君が不審だったのは明らかだから、フェリシアさんの言い分は間違ってはいない。
「バーンズはどのように思われますか?」
おねーさんは次いで参考人のバーンズに意見を求めた。
「はい…今回の一件、私の部下のダスラーがしでかしたことに弁解の余地もなく…面目次第もありません」
バーンズのヤツめ、あくまでもダスラー君に濡れ衣を着せるつもりだな。ヤツはゼーリックとズブズブだからさもありなんだが…。
その後は現場から発見された小剣についての審議が行われた。魔剣によると、あの小剣はサクリファスで販売されているものではないようだ。そんなことよく分かるな…と思っていたら、これは俺がサクリファスに来てから色んなお店を不可視の錫杖で覗き見していた成果のようだ。覗き見もするもんだね。
何にせよ、それはダスラー君の無実を証明するものになる可能性が高い。そこまで調べられていないのが残念なところだが…。
続いてダスラー君のストーカー行為の審議。これはライフィス殺害に直接は関係ないが、あの3人の関係を理解するには必要ということだろう。青年は冷笑し、おねーさんはドン引きしている。その気持ちはよく分かる…これはあかんかもしれんね。
その後もあれやこれやの審議が行われたが、ダスラー君が犯人であるという決め手は何一つとしてなかった。これならダスラー君が無罪になってもおかしくないと思うが…どうなるんだろう?俺達は固唾を呑んで3人の裁判官の最終審理を見守った。
「フェリシア殿の言うことも、もっともですな」
話せば分かりそうなじいさんが重視したのは、フェリシアさんの証言だ。
「しかし、ダスラーもフェリシア殿も共に『ティート』という食堂を利用しています。庇っているという可能性もあるのでは?」
そんな訳ねーよ。正義感が強いのは結構なことだが、色眼鏡を掛けて見るのはやめてほしい。
最終審理でも、これまでの審議と同様に堂々巡りだ。もう少し捜査をしてから裁判した方が良かったんじゃないの?とは思うものの、それがこの世界の常識なら仕方がないだろう。そして、ついに結審し判決が下された。
「サクリファスの魔法戦士、ダスラーによるライフィス殺害については証拠が充分とは言えないので保留といたします。とは言え、ダスラーの行為に見過ごせない事実があったことは間違いありません。よって当面の間、謹慎といたします」
あのインテリおねーさんが、厳かに最終審理の結果を伝えた。
無罪じゃねえのかよ…俺は思わず舌打ちしそうになったが、それを全力で堪えた。冷静になって考えると裁判官達が下した判決は理に適っている。ライフィス殺しでダスラー君を挙げるのは難しいが、ダスラー君の日頃の行いに問題があったことも間違いのない事実だ。このまま無罪放免という訳にはいかないということだろう。
それらを踏まえれば、謹慎という処分は納得できる。最初からこちらが不利なのは分かっていたことだ…謹慎ですんだのは幸いだったのかもしれないな。




