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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第3章 サクリファスの亡霊

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衝撃の事態

座り込んでいるライフィスは、じっと咳の薬を見つめている。おせっかいだったかもしれないが、ルゼットの行動がこの男に何らかの変化を与えたのかもしれない。何を考えているんだろうな…不可視の錫杖でその横顔を覗きながらライフィスの心中を察しようとするが、さっぱり分からん。そこへダスラー君が乗り込んできた。


「女を…女の子を泣かせるなんて最低だぞ!」

ダスラー君は強い口調でライフィスを非難した。でも、それって不法侵入じゃないの?


「誰かと思ったら役人か…丁度いい」

ライフィスは特に気にしていないようだ…だったらいいか。


「俺はライフィスっていうケチな男なんだが、ちょっとばかし話を聞いてくれよ」

これは…まさかの展開だな。


「なんだ!」

ルゼットのことがあるからか、ダスラー君は苛立ちを露に聞き返した。


「こないだ…幽霊坂で殺されていたアイツ、あれはグレイゴーストのゼーリックなんかじゃありませんぜ。人違いもいいところだ」

「なに…」

それはダスラー君にも心当たりがあることだ。その表情が一転して真剣なものになった。


「確かな証拠でもあるのか?」

それでもライフィスは惚れた女を泣かせた男。ダスラー君は疑いの眼差しでライフィスを見ている。マズいな…。


「彫り物だ。ゼーリックのグレイゴーストの彫り物は俺の親方が一世一代で彫ったもの…俺はまだほんのガキで修行の身だったが、その見事なのはこの目に焼き付いている。あの時の彫り物とは全然違う」

ライフィスは自身がかつて見たことをダスラー君に話した。


「しかし…」

ダスラー君の疑問も分からなくはない。それはあくまでもライフィスの主観だからだ。


「本当だ!このまま本物のゼーリックを放っておいちゃならねぇ。またどんなアコギな稼ぎをして、街の人を泣かせるか…」

おそらくそれはライフィスも分かっているのだろう…だから必死になって訴えている。


あのライフィスがこんなことをするとはね…俄には信じられない。きっとルゼットの気持ちが届いたのだろう。さあ、ダスラー君はどうする?


「いい加減なことばっかり言いやがって…お前なんか信用できるか!」

ダスラーのアホウめが。ライフィスがその気になっている今なら、本物のゼーリックを見つけ出す手助けをしてくれたかもしれないのに。ルゼットのことがあったから、判断を誤りやがった。


「あぁそうかい!!どうせこんなこったろうと思ったぜ…役人なんかクソ食らえだよ!」

激昂するライフィス、そりゃそうなるわな…。


「ルゼットちゃんに…世の中捨てたもんじゃねぇって見せてやりたかったのに、このザマだよ。帰ってくれよ…帰れよっ!帰れーー!!」

ライフィスはまるで狂人のようにダスラー君を激しく怒鳴りつけた。


「あぁ帰るよ…帰るともさ!だがな、今度ルゼットちゃんを泣かせてみろ…ただじゃおかねぇからな!!」

「うるせぇ!帰れったらとっとと帰れよ、おらぁ。帰れ!帰れーー!!」

売り言葉に買い言葉…どころかライフィスは今にもダスラー君に掴みかかりそうだ。


これ以上、事を荒立てるのはマズいと判断したのだろう…ダスラー君は乱暴に引き戸を閉めて出ていった。様々な結末を想定していたが、これは最悪だ。


これでライフィスの協力が得られる可能性は、ほぼなくなってしまった。仕方がない…という言葉で片付けたくはないが、仕方がないだろう。この結果を受けてどうするか…妙案はまったく思い付かないけど。


「残念なことになったわね…」

ライフィスとダスラー君のやり取りは、魔剣を経由してアマユキとフェリシアさんも聞いている。


「そうだな…とりあえずコテージに戻るか。エミリアとカルネイロも帰ったみたいだしな」

これ以上、ここにいる必要はないだろう。


「それでは、帰りましょう~♪」

前途多難な状況だからこそ、努めて明るい声でフェリシアさんは言った。そうだ…まだ挽回できる機会はあるはずだ。


帰る方向はダスラー君も一緒なので、俺達は必然的に後をつけるような形になった。


「あの野郎…何がルゼットちゃんのためだ。でたらめ言いやがって」

ダスラー君はまだ怒りが収まらないようで、ずかずかと歩いている。でも、あれは判断ミスだったと思うぞ。


それでも時が経てば気持ちも落ち着いてくるものだ。やがてダスラー君はピタリと歩みを止めた。


「もし…アイツの言うことが本当だとしたら…」

戻るべきか?それとも、このまま帰ってしまうか…内なる葛藤に悩まされたのは数瞬のこと。ダスラー君は踵を返してライフィスの家へ戻り始めた。


引き返したところでライフィスが心変わりするかどうかは分からない。それでも自身の間違いを認め、それを正そうとするのは誰にでもできることではない。あんなことがあったら尚更だ。たいしたもんだ…それなら俺達ももう少し観察することにしよう。


「おーい、さっきは…すまなかったな。もう一度話を聞かせてくれないか?」

引き戸をガラガラと開けると、ダスラー君はお気楽な調子でライフィスに話しかけ、俺は不可視の錫杖を家の中に入れた。


きっとライフィスに怒鳴られるんだろうな…ダスラー君はそう思っていたはずだ。俺もそう思っていた。だが、予想された怒鳴り声はない。静かだな…もう寝たのか?それにしたって奇妙なほどに静かだ。


「ライフィス?」

ダスラー君も異変を感じているのだろう…部屋にいるはずのライフィスに呼び掛けるが、返事はない。用心しながら中に入ったダスラー君が明かりをつけると…そこにはまったく想像していなかった事態が起こっていた。


ライフィスが…血を流して倒れていたのだ!

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