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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第3章 サクリファスの亡霊

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確信

少し減ってきたとは言え、この場にはまだかなりの野次馬が残っている。2人の行方は不可視の錫杖でも追っているので見失うことはないが、アマユキはどうやって追うつもりなんだろう?


と思っていたら、アマユキはあの2人とは反対方向へ歩き始めた。まずは人混みから出ることを優先するようだ。さすがは追跡のプロですな。これが俺だと一直線に追っていたところだ。


2人の歩いている通りと平行して走る通りを、俺達は早足で進んでいく。前を歩いているアマユキからは、ほとんど気配を感じない。本気を出せば完全に気配を消し、見える透明人間のようになれるアマユキだからな…今日は序の口といったところだろう。


程なくして、俺達は2人に追いついた。もちろん、2人は俺達が追ってきたことに気付いていない。こう言ってはなんだが、一般人なんぞが俺達の尾行に気付く訳はないのだ。


状況としては幽霊女が長身の男の後をつけ、その2人を俺達が追跡し、さらに十分な距離を取ってユリーシャ達がついてくる…というものである。ややこしいな、これ。


そうは言っても、幽霊女には知りたいことがある。それを聞かない訳にはいかないだろう…意を決して、彼女は長身の男に声を掛けた。


「あの…」

しかし、男は自分が声を掛けられたとは思わなかったようだ。後ろを振り向きもせず、そのまま歩き去ろうとする。


「あの!」

強い口調で呼び止められ、長身の男は足を止めて振り向いた。


「何か?」

不信感のこもった硬い表情で、男は幽霊女を見下ろした。


「さっき…違うっておっしゃいましたよね?」

男の雰囲気に気圧され、少し目が潤んでいるが、それでも幽霊女は聞きたいことをちゃんと聞いた。だが、男は何も答えない。面倒なことに巻き込まれるのを嫌っているのかもしれないな。


「何が違うって言うんです?」

「何のことだか…」

幽霊女は諦めないが、長身の男ははぐらかそうとする。この攻防の行方や如何に?


「さっきゼーリックを見て違うって…」

「それが…あんたにとって何か関係でもあるっていうんですか?」

男はぶっきらぼうに言い捨て、この場を立ち去ろうとした。だが、そうは問屋が卸さない。


ゴホッ!ゴホッ…


男は体をくの字に曲げるほどに咳き込んでしまい、再び口元をハンカチで覆った。どうもあまり具合が良くないようだ。


それを見た幽霊女がとっさに駆け寄ろうとしたものの、男は目だけでそれを制した。そして、このまま絡まれるのは御免だと思ったのだろう…驚くべきことを口にした。


「まぁ…俺にとってはどうでもいいことだが、少なくともあの彫り物は、彫ったばっかしだと思ったもんでね」

それだけ言い残すと、男はこの場を立ち去った。


「彫ったばかり…」

残された幽霊女は男の見立てに唖然としている。だが、驚いてはいられない。あの男は何者なのか?もう少し調べた方がいいだろう。もちろん、幽霊女も逃す訳にはいかない。


ならば、ここからは二手に別れるべきだ。アマユキはちらりとカレンを見やり、カレンはこくりと頷いた。どうやら俺とアマユキが男を追跡し、ユリーシャ達が幽霊女の後を追うことになりそうだ。


男を追いかけるために、俺達はなに食わぬ顔をして幽霊女のそばを通り抜けた。昨夜の一件では、俺達はフードを被っていた。たぶん、誰も顔を見られていないし、ショックを受けた女はまだ立ち直れていない。幽霊女が俺達に気付いた様子は、まったくなかった。


そこから長身の男の住まいまでは、そんなに離れていなかった。その家の軒先には『彫物ライフィス』の暖簾がかけられている。どうやら男は入れ墨を彫る職人のようだ。


「彫り師だったのね…どうりで目が利くはずだわ。私の目にも急ごしらえの浅彫りに見えたもん」

どうやったのかは分からんが、アマユキも2人の会話を盗み聞きしていたようだ。そんなことより、アレが浅彫りだと見抜ける方が驚きなんだが。


「分かるのか?」

もしかして、堅気じゃない人とお知り合いだったりするのですか?


「フォンラディアでは入れ墨を入れる伝統があるからね。私は入れてないけど」

「なるほど…」

ですよね。納得しました。まあ、それは置いといてだ。詰所で見たゼーリックの傷跡、その道のプロの証言…これはもう間違いないだろう。


「そっちはそっちで何か掴んだみたいね」

アマユキが頼もしげに俺を見てくれた。


「まあな」

これで昨夜の枝をパキッた件は帳消しにできるかもしれないぞ…俺は内心でほくそ笑んでしまったが、月に叢雲花に風だった。


「それぐらいはやってくれないとねぇ…魔法戦士失格って感じ?」

厳しいなぁ、おい!


「こ、こんな所でできる話じゃないからな…いったんコテージに戻ろうぜ」

「そ、そんなに動揺しなくてもいいのに…」

アマユキの野郎、笑いを堪えていやがる。思っていることがすぐに顔に出てしまうから、仕方がないんだけどさ。

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