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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第3章 サクリファスの亡霊

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ゼーリック

不可視の錫杖で追跡するまでもなく、ゼーリックが殺されていた現場はすぐに分かった。バルトリの坂は見通しこそ悪いが基本一本道だからな…むしろ迷う方が難しい。


奇しくもそこはあのリュスギナの石像のすぐ近くだった。やはりあの幽霊女が?とは思うものの、さすがにそれは罰当たりだろう。今やるべきことは、ちゃんと見ることだ。既に野次馬が集まっているので、俺達もそこに紛れて様子を窺うことにしよう。


ダスラー君とグラウさんは、遺留品が見つかるかもしれないと考えているようだ…周囲の状況を事細かく調べている。それは大事なことだ。事件への向き合い方としては完璧だと思うぜ。かなり入念に調べていたが、2人の様子を見るに何も見つからなかったようだ。


「おう、これは旦那方…こいつは顔を滅多切りにされて定かじゃありませんがね、グレイゴーストのゼーリックでさ」

遺留品の捜索に区切りをつけ、遺体のそばへやってきた2人に、ガラの悪そうな男が状況の説明を始めた。


手にした鞘入りの小剣に描かれているのはサクリファスの紋章。この男もグラウさんと同じように、そこら辺にいる魔法戦士の従者なのだろう。


「グレイゴーストのゼーリックか…」

ダスラー君は苦虫を噛み潰したような顔をしている。どうやらゼーリックって野郎は相当の悪党のようだ。


「この背中の彫り物が何よりの証拠。こいつは三番街で金貸しをしていたアコギな男でさ。金貸し稼業で稼ぎまくっていたグレイゴーストのゼーリックが、このザマとはな」

ガラ悪男は侮蔑するように小剣でゼーリックを小突いた。


眉をひそめる行為だが、ここでそれを咎めるのは得策ではない。見て見ぬ振りでやり過ごすことにするしかないだろう。そこへ一人の魔法戦士が遅れてやって来た。


「あっ…バーンズ様」

ダスラー君には横柄な態度をとっていたガラ悪男も、この魔法戦士には礼儀正しい。


「これは…南西部副団長の」

もちろん、ダスラー君も恐縮している。どうやらバーンズはそれなりの立場にいる魔法戦士のようだ。


「これが悪名高いグレイゴーストのゼーリックか…」

バーンズはうつ伏せで倒れているゼーリックを、汚いものでも見るかのように一瞥した。


「親分、ゼーリックのお店の人が」

どうやらあのガラ悪親分の子分が、ゼーリックのもとで働いていた男をこの場に連れてきたようだ。


「どうでい?こいつはゼーリックに間違いないかい?」

ガラ悪親分が、遺体が誰なのかを問い質した。


「はい…この背中の彫り物、旦那様に間違いございません。どうしてこんなことに…」

お店の人もショックを隠しきれないようだ。


「ダスラー、いくら極悪非道な金貸しでも亡き人であることに変わりはない…後の采配をしっかり頼むぞ」

バーンズはこの場をダスラー君に任せるようだ。


この場にいる正規の魔法戦士の中から、わざわざダスラー君を指名したのは期待の表れ…ではない。この後は遺体を詰所に運ぶはずで、それぐらいならアレにもできるだろうという判断っぽいね。


「はいっ!」

それでもダスラー君はそれを意気に感じているのか、『ティート』での腑抜けっぷりが嘘のようにしゃきっとしている。


信頼は小さなことの積み重ねから生まれるものだ。他からどう思われているのかなんて、気にすることはない。頑張れよ、俺も応援してるからさ。


思っていた通り、ダスラー君は遺体を詰所に運んでいった。俺達も野次馬と一緒にぞろぞろとついていく。


少し…人が多くなってきたな。それに伴い、不穏な空気も増していく。それを察しているのだろう…見習い魔法戦士は明らかにビビっている。一方でダスラー君やあのガラ悪親分は何とも思っていないようだ。肝が据わっているね…鈍感なだけかもしれないが。


俺達は部外者なので詰所には入れないが、こんな時のために不可視の錫杖がある。ゼーリックの死因はしっかりと確認させてもらおう。見るに堪えない程に滅多切りにされた顔に目を引かれるが、それは致命傷ではない。ゼーリックの命を奪ったものはアレだな。


「心臓を一突きにされていやがる…不意を打たれてやられちまったんでしょう。見た感じ、格闘術のようなものの心得もなさそうですし」

確かにゼーリックは少し小太りで素人にしか見えない。だが、本当に不意討ちでやられたのか?


「まあ…そうだな」

ダスラー君も言いたいことがあれば言えばいいのに…その傷口、俺には相当の腕のなせる業のように見えるぜ。


「それでは、報告書にはそのように書かせていただきやす」

ガラ悪親分はにんまりとした笑みを浮かべながら、死因の特定を終えた。


「じゃあ、遺体は店の方に運んでおけばいいな?」

自分でも上手くやり込められた自覚があるのだろう…ダスラー君は少しぶっきらぼうに確認をとった。


「へい、お願いしやす」

もちろん、ガラ悪親分はまったく意に介していない。残念ながら向こうの方が一枚上手なんだ。


グラウさんがいれば話は違ったかもしれないが、なぜか詰所には入らなかった。敢えて一人だけでこのガラ悪親分に対峙させることで、ダスラー君に一皮むけてほしいと思っているのかもしれない。それは上手くいっているとは言えないが、その思いは汲んであげたいね。

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