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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第3章 サクリファスの亡霊

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グレイゴースト

幽霊女がしゃがんでいた場所には、1体の石像が安置されていた。どこかで見たことがあるような気がするが…気のせいか?


「リュスギナの石像のようですね…」

石像を調べていたユリーシャが、俺の密かな疑問に答えてくれた。


大聖堂で見たものとは少し違うが、それは確かにリュスギナの石像だった。石像の両脇には花が生けられ、小さな果物が供えられている。お地蔵様のようなものかもしれないね。


だが、この場に相応しくない物もそこにはある。それが黒塗りの短剣だ。短剣は肖像画に突きたてられていた。何と言うか…禍々しいな。


「簡略化された呪いの儀式ですね。特に問題はないようです」

ユリーシャのお墨付きを得て、カレンが短剣を引き抜き肖像画を手にした。


そこには海賊風の男が描かれている。あの幽霊女はこの海賊を呪っていたのか?どこの海賊かは知らんが、さもありなんだぜ…と思っていたら、思わぬ情報がもたらされた。


「グレイゴースト…」

おそらくそこに描かれている男の名を、アマユキが小さく呟いたのだ。


「知ってるのか?」

俺の問いかけにアマユキは答えない。


「もう戻った方がいいんじゃないかな…」

その代わりに、調査の打ち切りを提案してきた。ここでは話せないってことか…確かにこれ以上のことは分かりそうにないもんな。


「それじゃあ、一旦戻るか…」

それには誰も反対せず、俺達はコテージに戻ることにした。


幽霊女は幽霊ではなかった。その行方を不可視の錫杖で追うこともできたが、俺もユリーシャも敢えて追跡はしなかった。なぜ、あんなことをしていたのか?疑問は残るが、そういう行為が禁止されている訳ではない。これ以上の詮索はするべきではないだろう。


コテージに戻り、一息つくと早速聞かせてもらうことにしよう…グレイゴーストのことをね。


「グレイゴーストは今から650年ほど前に、この辺りで活躍した海賊の頭領よ」

「650年前か…」

いまいちピンとこない。どんな時代でしたっけ?


「650年前と言うと…レガルディアが大陸への進出を開始して間もない頃だな」

こういう時はアマユキの相方になるカレンが、きっちりとフォローしてくれた。


「そうね。それから、グレイゴーストというのは本名じゃないわよ。本当の名前は分かってないの。灰白色の長髪と髭が印象的で、神出鬼没な海賊だったことからグレイゴーストと呼ばれ、恐れられていたのよ」

アマユキの船好きもたいしたもんだね。


「多くの船を襲い、莫大な富を手にしたグレイゴーストが次に目を付けたのがサクリファスの砦だったの」

城塞都市じゃなくて?


「その頃は砦だけだったのか?」

「そうよ。当時は砦と小さな漁村があっただけ。ここが城塞都市になったのはもっと後、大レガルディア連邦の時代ね」

そうだったのか…勉強になります。


「グレイゴーストに率いられた海賊はわずか1週間で砦を落としたの。その時点で船は50隻、1200人ほどの配下がいたそうよ」

たいしたもんだと言いたいところだが、そこには疑問がある。


「その程度の手勢であの砦を落とせるのか?」

それは俄かには信じられないことだ。パッと見だが、あの砦には数百人が常駐できそうだった。砦の攻略には圧倒的に人手不足だ。


「内通者がいたのよ」

「そんなに簡単に用意できるものでもないだろう…」

そこにあるのは小さな漁村。妙なことをしていれば、すぐにバレるはずだ。


「何十年という単位で考えれば無理じゃないわ」

「いや、確かにそうだけどよ…」

アマユキが何でもないことのように言ったので、俺は思わず苦笑してしまう。


そんなこと、一介の海賊にできるとは思えない。それこそ強大な力を持つ組織からのバックアップでもなければ…そこまで考えて、俺はあることに気が付いた。アルカザーマ地方の南には水浸しの森と大湿原が広がる。そこから西に目を向けると…あるね、強大な力を持つ組織が。ラミリテア首長国連合だ。


「ラミリテア…か?」

「そうよ。ラミリテアが海賊を装ってアルカザーマに進出しようとしていたのよ」

半信半疑ではあったが、正解だったようだ。


「ロレイマーニに呼応して動いた…ということでしね」

なかなか鋭いね…ティアリス君。確かに当時のアルカザーマはロレイマーニの脅威に晒されていた。ロレイマーニに追随することで、アルカザーマの南部を手に入れられるかもしれない…そう考えても不思議ではない。


「敢えて海賊という形態を取ることで、この策が失敗に終わってもラミリテアは関係ないと言い逃れるつもりか…上手いこと考えたものだ」

感心するところではないのかもしれないが、カレンが感心するのもよく分かる。


「そういう背景があったから、サクリファスが陥落した後も暴行や略奪といったことは一切起きなかったの。砦に避難していた人々は、望めば家に帰ることができたそうよ」

まさしく統率された軍隊だな。


「サクリファスを制圧したグレイゴーストは、降伏した砦の魔法戦士を使者としてパルシファルに派遣したの」

パルシファルはアルカザーマ南部では最大の都市だ。サクリファスからは目と鼻の先にある。ラミリテアの狙いはここを支配地にすることだろう。


「使者には何を託したんだ?」

パルシファルを巡る戦いはもう始まっている。これはその初手だ。


「当時の国王にパルシファルを退去するように求めたのよ」

いやはや…とんでもない要求をしたもんだね。


「そいつは間違いなく拒否だな」

だが、グレイゴーストもそれは分かっているはず…ヤツの真意はなんだ?


「もちろんそうよ。でも、内通者はパルシファルにもいたわ。彼らは街中で現国王の贅沢三昧な暮らしを暴露したのよ。誇張されている部分もあったけど、おおむね本当のことだったから国王に対する批判の声が急速に高まっていったの。それだけでは止まらずに、あちこちで暴動が起きたみたいね」

こうなってくると戦わずして負けそうだ。上手いことやりやがるぜ。


「このタイミングでグレイゴーストは退去の要求を取り下げ、退位とまだ幼かった皇太子を新国王に即位させ、グレイゴーストが後見人になる…という新たな案を出してきたのよ」

まずは到底受け入れられない条件を突きつけ、後にそれを取り下げ本命の要求を出す…お手本のような交渉の仕方だ。


「グレイゴーストさんはザカリヤさんと同じくらい賢いですね~」

フェリシアさんは感心したようにウンウンと頷いている。ザカリヤはどうでもいいが、グレイゴーストがしたたかなのは間違いない。この状況ではパルシファルは話し合いに応じ、より良い条件を勝ち取る…これが最善だろう。


「両者はその後も使者をやりとりして、最終的にはサクリファスで会談することになったの」

もはや勝負は決しているように見えるね。


「ところがパルシファルからの使者がサクリファスに到着した時、そこには誰もいなかったのよ」

「どういうことだ?」

訳が分からんぞ。


「ラミリテアの国王が崩御したのよ。グレイゴーストには帰還が命じられたみたいね」

なんとまあタイミングが悪い…。


「外敵がいなくなったことで、パルシファルでは時間をかけて内部のゴタゴタを鎮めていったの。と言っても最終的に国王は退位することになったけどね。批判を浴びた暮らしぶりも随分と質素なものに変えて、体制を存続させることには成功したわ」

そこはグレイゴーストのおかげだな。


「後で分かったことなんだけど、グレイゴーストが襲っていたのは主に海賊だったのよ。堅気の船からは通行料を取る代わりに、安全に航行できるように船の警護を行っていたみたいね」

パルシファル攻略が成功した後のことまで考えていたのだろう。たいしたもんだぜ。


「アルカザーマ南部においてグレイゴーストはどのような評価を受けているんだ?」

そこも気になるところだ。目の付け所がいいな、カレンは。


「悪くないわね。あの時代の英雄の一人と言ってもいいんじゃないかな」

アマユキは鼻高々だ。その気持ちはよく分かる。


「それほどの人を、あの女性はなぜ呪おうとしていたのでしょうか?」

そうなんだよな…ユリーシャの疑問はもっともだ。


「どう思う?」

ここで困った時の俺頼みをするのはどうかと思うぜ、カレンさん。


「今のところはさっぱり分からんな」

そうとしか答えようがない。


そもそもグレイゴーストは650年も前の人物だ。どう考えてもあの幽霊女と関係があるとは思えない。あるいは幽霊女のご先祖様とグレイゴーストの間に、何やら浅からぬ因縁があったのかもしれない。だが、それだけの理由で何度もあそこを訪れ、あんなことをするとは思えない。どんな事情があるのかは分からんが、不気味ではあるよな。

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