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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第3章 サクリファスの亡霊

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ミランミルをぶらぶらと

翌朝、俺はバットの素振りでこの日をスタートさせた。このバットの素振りは、何やら幸運をもたらしてくれるそうだからな…精が出るぜ。いつものように、右打ちで素振りをした後は左打ちで素振りをする。十分すぎる程にバットの素振りをし、一息ついたところでユリーシャが声を掛けてきた。


「おはようございます。少し散歩をしませんか?」

散歩はユリーシャの日課だ。そして、このミランミルは自然が豊かな美しい街。散歩をしないという選択肢はないだろう。


「そうだな…行こうか」

もちろん、いつもの面子が同行者だ。人間レーダーのアマユキがいるので、そんなに心配する必要はないと思うが、それに頼りっぱなしというのも良くないだろう。アマユキがいない時にどうするんだ?ってことになりかねないし。俺は俺で警戒することにしよう。


不可視の錫杖を四方八方に飛ばし、俺達の周りを探ると…今は誰もいないようだ。のどかだな。ライラリッジだとこうはいかない。田舎街の良いところだね。


しばらく歩くと、街道と街道が合流する所に東屋があった。どうやらここで休憩するようだ。柱と屋根しかない東屋で休憩するのは少し寒いので、今だけユリーシャが不可視の盾で壁を作ってくれた。この魔法は本当に便利だぜ。


フェリシアさんが、持ってきた紅茶道具一式で紅茶を淹れてくれる。こういう所で温かい紅茶を飲むというのは格別だ。美味しい紅茶をいただきながら、ユリーシャがおもむろに口を開いた。


「昨日のフィオナさんのお話、とても感銘を受けました。私もそのような人になれれば…と思っています」

「ユリーシャならなれるさ」

これは本当にそう思う…俺には無理だけど。


「それは簡単なようで難しいことです…」

何やら思い悩んでいるようだ。でも、そんなに深く考えることでもないと思うぞ。


「誰にでも分け隔てなく寄り添う…それは理想だけど、かなり難しいことでもあるからね。まずは身近な人に、自身にとって特別な存在に寄り添えばいいんじゃないかな」

気配り名人であるカレンさんの言葉には、説得力があるね。


「そうですね…」

ユリーシャが俺の方を見るともなしに見た。


レガルディアの方針によってラザルト国王の養子になったユリーシャが、次の王になる可能性はそれほど高くはない。それでもこの娘は立派な王になるだろう。それは誰もがそう思うはずだ。他の4人の子供がどんなヤツらなのかは知らないが、ユリーシャを見習えよ?


どうやら悩みを吐露してすっきりしたようだ。休憩を終え、俺達は再びぶらぶらと歩き始めた。


春を迎えたばかりのミランミルは、道の除雪こそしっかりとされているものの、道から少し外れると雪がうず高く積まれている。こういうところはライラリッジとはまったく違う。東屋を後にした俺達は、ユリーシャの気の向くままに郊外へと歩き続け、やがて小高い丘の上に辿り着いた。


「見晴らしがいいわね。ここは獲物を見つけるのに最適よ」

ハンターでもあるアマユキは、普通の人とは目の付け所が違うようだ。とは言え、軍もここに見張りの塔を設置しているから、考えていることは同じだろう。


「そんなことより、お腹が空いたでし!」

食いしん坊のティアリスに言われるまでもなく、風に乗っていい匂いが塔の向こうから漂ってくるでし!


「今日は当たり日ですね~」

フェリシアさんも嬉しそうだ。


「当たり日?」

言っている意味がよく分からなくて、隣にいるユリーシャに聞いてみた。


「塔の向こうには食堂があるのです。そこは週に1回しか開いていない穴場スポットなのですよ」

なるほどね…だから、ユリーシャは散歩でここまで来たんだ。


「何で週1なんだ?」

「店主の方は農業もやっているので、週に1回しか開けないそうです」

そうなのか…それなら、仕方がないな。


その食堂は『崖の上の食堂』というあの大ヒット映画みたいな名前の食堂だが、お店は半分宙に浮いたような状態で建っていた。崖の上と言うよりも崖っぷちだな…。


そんな見る人をびっくりさせる『崖の上の食堂』では、季節によっては雲海が見られるそうだ。今の季節も見られなくはないが、ベストシーズンは仲秋から晩秋にかけて。その頃はまさに雲の海にいるような感じになるとか…いつか見てみたい絶景だね。


ここは『崖の上の食堂』であると同時に直売所でもある。もちろん、売られているのは地元の旬の朝どれ野菜だ。鮮度はバツグンで安くて美味しい…最高だね。そして、この旬の野菜達を、『崖の上の食堂』ではしし汁と塩むすびのセットとして振る舞ってくれる。


ホッとする味わいのしし汁は、野菜の旨味や甘みがしっかりと溶けだした逸品だ。ミランミル周辺は寒暖の差が激しく、そこで育てられた野菜は旨味も甘みも強くなるのだ。野菜の一つ一つが主役になっている。もちろん、油がこってりと乗ったイノシシの肉も、最高に旨いぜ!


そして、このしし汁と一緒に味わえる塩むすびは、シンプルにお米の味を楽しめる。塩の加減がちょうどいいから、お米の甘みを存分に味わえるのだろう…素朴な塩むすびなのに、侮れない旨さだぜ。


崖っぷちに建つ食堂、店内から眺める展望、そして地物を使った絶品グルメ。週1でしか開いていないのが惜しい食堂だな。


ミランミルには1週間滞在する予定なので、毎日ここに来れば1回は開いているのだろうが、毎日ここに来れるかどうかは分からない。フェリシアさんの言う通り、今日は当たり日だった。来れて本当に良かったよ。

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