ナターリアさんの申し出
もうアインラスクでやることなど何もないのだが、だからといってさっさと帰る訳にもいかない。この事件の結末を、被害を受けた人々に話す必要があるだろう。と言っても、もう夕暮れなんだよね。
今からあの3人のもとを訪れるのは、さすがに失礼にあたる。今日のところはルアンザラーン商連合へ赴き、明日の朝にナターリアさんと面会ができるように、約束しておくことにしよう。
翌日の朝、俺達は約束の時間にナターリアさんを訪ねた。今日までの間に知ったことは、あの女のこと以外はすべて話した。
あの女のことを話さなかったのは、レガルディアの魔法戦士がヤツを追っているからではない。俺達にもあの女のことはよく分からないのだ。分からないことは話しようがない。ナターリアさんもそれは理解しているのだろう…そこは何も聞かなかった。
そのかわりと言ってはなんだが、用事を頼まれてしまった。それはコリーナさんとアリューシャに、ルアンザラーン商連合で働くつもりはないか聞いてきてほしい…というものだった。
それは亡くなったソルタスの祖父の遺志だ。ソルタスが生きていれば、間違いなく同じことをしたはず…ナターリアさんはそう言った。確かにその通りだろう。
続いてファゼルの奥さんコリーナさんを訪ねた。やはり話せることはすべて話し、それからナターリアさんの申し出を伝えた。ファゼルが亡くなり、今後の生活のことを心配していたので、この申し出をありがたく受けるそうだ。
コリーナさんは料理ぐらいしか取り柄がないと言っていたが、それで十分だと思う。あとでナターリアさんに伝えておこう。
最後にアリューシャだ。本人にその気があったのかどうかは分からないが、カレンが口説いてしまったので、この事件の経緯とナターリアさんの申し出だけを話してそれで終わり!という訳にもいかないだろう。どうするんだ?
「私達とアリューシャの関係は特別なものだ。送別会のようなものをすべきなんじゃないかな?」
アリューシャの待つ家へ向かう道すがら、カレンがそんな提案をしてきた。
「ちゃんとお別れしとかないと、後が大変だからねぇ…」
アマユキは妙にしみじみと言っているが、もとはと言えばこの2人の策の結果である。
「それならわかめパーティーがいいでし!」
なぜにワカメ?
「この時期のワカメは美味しいよね…ザカリヤさんもよく食べていたそうですよ~」
ザカリヤのことはどうでもいいが、ワカメの旬って冬だったんだな。知らなかったぜ…。
「あとでペスカード市場に買いに行きましょうね」
まだ何も決まっていないのに、気が早くないか?ユリーシャ。とは言え、ユリーシャも参加するワカメパーティー…になるのかどうかは分からないが、それをアリューシャが断るのは難しいだろう。
「何にせよ伝えるべきことを伝えてから…だな」
パーティーをやるにしてもその後だ。
アリューシャにとって、あの決着の日は色々なことがあった日だった。その時は随分と落ち込んでいたが、今日はいつも通りの快活そうな女の子に見える。
ただ、俺とアリューシャはそんなに親密な関係でもないからな…俺の見間違い、ただの空元気という可能性もあるが。何にせよ、元気になったのはいいことだ。
アリューシャもルアンザラーン商連合で働くこと自体は前向きに考えているようだ。もちろん、これまで続けてきた売り子の仕事をやっていきたいとのことだ。アリューシャにとっては天職みたいなもんだからな…やはりそこは譲れないのだろう。ナターリアさんにはちゃんと伝えておこう。
話すべきことをすべて話したら、俺達がライラリッジの魔法戦士であること、明日にはライラリッジに戻ること、アインラスクを発つ前にわかめパーティーをしたいことを伝えた。
アリューシャは嬉しそうに参加したいと答えてくれた。わかめパーティーには特に疑問を抱いていないようだ。アインラスクでは、この時期にわかめパーティーをする風習があるのかもしれない。何にせよ明日は楽しむことにしよう。




