やりすぎた?
「こういうのは大将同士の一騎討ちで雌雄を決するもんだろう?」
ウルマリスはもっともなことを言っているが、盛大に間違えているな。
「言いたいことは分かるが、間違いは訂正しておくぞ…俺は一番下っ端だ」
間違ったことは言っていないのだが、なぜかウルマリスは吹き出してしまった。
「何がおかしい?」
いくらなんでも失礼ではないですか?
「いやいや、お前は…」
ゆらりと動くウルマリス、くるぞ!
「何も分かってないんだな!」
叫びながら、鋭い一撃を打ち込んできた。その攻撃を受け流し、お返しとばかりに急流の一撃を叩き込んでやる。だが、ウルマリスは易々と受け流した。やるじゃないか…と言ってもこれは挨拶代わり。ここからはそうはいかないぜ。
キンッ!ギギンッ!
俺の魔剣とウルマリスの魔法剣がぶつかり合い、激しい音と火花が散る。斬撃を受け止め、受け流し反撃をするが、しっかり対応される。鍛えられた力と力、叩き込まれた技と技のぶつかり合い。そこに優劣はないように思える。
ガッ…キーン!ビュン!
俺の魔剣とウルマリスの魔法剣が交差する。次の瞬間、弾かれたように俺達は離れた。わずかにウルマリスの体勢が乱れたところを狙って斬撃をお見舞いしてやるが、きわどいところで避けられた。耳に響く音に魔剣が空を切る音が重なる。やはり手強いな…コイツの手下のゴロツキ共とは違い、一筋縄ではいきそうにない。
だが、焦りは禁物だ。勝負を急いで無理に攻めると、そこには必ず落とし穴があるものだ。まずはディフェンスから。そして、それには自信がある。正規の魔法戦士になる前は、ずっとティアリスにしごかれていたからな。その上でチャンスを窺うんだ!
カンッ!ギン!キギンッ!
お互いの攻撃がお互いを捉えられない中、俺はこの袋小路のような状況を打開する手を見出だしていた。それはこれまでよりもやや間合いを開け、流水の動方・緩流で静より動に軸足を移すことだ。
円を描くような足運びで、ギリギリの間合いからウルマリスの側面に回り込み、斬撃を繰り出してやる。正面からの攻撃で打開できないなら側面からだ。
もちろん、ウルマリスもすぐに対応する。俺を正面に置きつつ、回り込むのを防ぐような牽制の斬撃を浴びせてきた。ならばこちらもそれを捌きつつ流水の動方に緩急をつけてウルマリスを翻弄しようとするが…上手くいっているとは言い難い。
位置取りを巡る争いも一進一退だ。回り込みが上手くいきそうになっても、巧みな足捌きで元に戻されてしまう。コイツは本当に手強いぜ…。
だが、側面を突く意図はブラフ。本命は正面からの一撃だ。ずっとトレーニングしてきたアレをここでやる…それで決着をつけてやるぜ!
今の俺では狙ってやらないとできない技だ…だから、読まれて防がれてしまう。普通ならば使えない技だが、今のウルマリスはこれまでの円を描くような動きに目が慣れている。ウルマリスが俺を正面に置いた瞬間に踏み込めば、決まるはずだ。
それにはしっかりと餌をまく必要がある…愚直なまでに回り込みながら、これで仕留める気なのをウルマリスに印象付けてやるんだ。何度となく繰り返される位置取りを巡る争い、もう十分か?いやいや、まだだ…その気を気取られてはならない。
ウルマリスが何度目かの巧みな足捌きで俺を正面に置いた時だった。今だっ!ここで決めるぜ!俺は流水の動方・急流で一気に間合いを詰めてやる。
一瞬虚を衝かれたものの、そこは百戦錬磨のウルマリス。すぐに対応する。俺の一撃を受け止め、弾き返すつもりのようだ。ここまでの攻防で、力はヤツの方が強いことが分かっている。だから、ウルマリスはその手を選択したのだろう。
だが、そいつは悪手だぜ!心の中で叫びつつ、俺は関節を一つずつ動かし、そこで生み出された最大限の力を正確に繋いでいく。それだけではない…振り下ろす一撃に繋いできた力と激流のような流水の動方で生み出された力も加えてやる。
ウルマリス!お前はこの一撃を受け止めるつもりのようだがな…コイツは今までの斬撃とはダンチだぜ!掛け値なしの全力を注いだ俺の一撃、受け止められるもんなら受け止めてみやがれ!
俺の魔剣がウルマリスの魔法剣に激突する。その瞬間に、俺は体当たりをするかのように生じたすべての力をぶつけてやった。
「うおっ…」
想像をはるかに超えた一撃に、驚愕の声を発したウルマリスの体が吹っ飛ばされた。
ズザザーー、ドガガン!
ぶっ飛ばされたウルマリスは、地面を削り取るように滑り、低木の植え込みに激突した。すかさず俺は振り下ろした魔剣を左手だけで持ち、空いた右手で狙いを定めた。
「これはソルタスの分!」
倒れ込んだウルマリスに俺は容赦なく光の矢を放つ!
「ぐぅ…」
まともに食らったウルマリスが苦悶の呻き声を上げる。
「これはファゼルの分!」
それでも俺は容赦なく追撃の光の矢を放つ!
「ちぃッ!」
驚くべきことに、ウルマリスは魔法剣を盾のようにして光の矢を防ぎやがった。その執念は敵ながら天晴れ…だが、それもこれで仕舞いだ!
「これは…シャーラレイの分だぁぁ!」
もはや光の矢という次元を超えた光の砲弾をぶち込んでやった。
ドッガアアーーン!
植え込みに引っ掛かっていたウルマリスが派手に吹っ飛んでいった。ちょっと…やりすぎてしまったかな?だが、今さらやり直すこともできん。何か言われても、これが当たり前だという感じで押し通してしまおう。
油断することなく辺りを見回すと、どうやら戦闘はすべて終わったようだ。ヤツらはユリーシャの束縛の魔法やフェリシアさんの操るクズのつるで、みんな拘束されている。
「難敵を相手によくやったな」
近付いてきたカレンが、率直に俺の戦いぶりを評価してくれた。
「まあな」
一味の首領であるウルマリスを俺一人で倒したのだ…鼻高々である。
「だが、少しやりすぎだな」
次なるカレンの一言で、俺の行く末には早くも暗雲が垂れ込めてきた。だが、そんな時のための押し通してしまえ作戦である。
「そ、そんなことは…ないと思うぜ」
心の準備はできていたはずなのに、しどろもどろになってしまう。そこへアマユキが近付いてきた。
「これはソルタスの分、バキューン!」
うぐっ…改めて真似されると恥ずかしいので、やめてくれませんか?
「これはファゼルの分でし、ズキューン!」
もちろん、やめてくれない。アマユキだけでなく、ティアリスにもやられてしまった。分かっていたけどさ。
「これはシャーラレイさんの分ですよ~。どっかーん!」
さらにはフェリシアさんまで。そんなにほんわか言ってねえよ…。
「で、でも…その気持ちはよく分かります」
ユリーシャだけは理解を示してくれる。でも、余計に恥ずかしくなってしまうぜ…。
「そんなことよりだな…アレはあのままでいいのか?」
俺はつるに覆われた結界を親指で指した。
「もう結界は解いてますよ」
ああ、そうなんですか…ユリーシャはちゃんと仕事をしている訳ですね。それでは、なんでつるに覆われているんでしょうね?
「た、戦いはさっきまで続いていたから…危ないかな~と思って、ね?」
もっともな言い分だが、目を逸らして動揺しまくりで言われると説得力に欠けるんだが?
「早く出してあげなさいよ」
コレの扱いには慣れているアマユキが冷たく言い放った。
「は~い」
フェリシアさんはまったく反省してないように見える。コレはこういう人だから仕方がない。結界からもつるからも解放されたアリューシャは…眠っているようだ。眠らせて…何をしようと企んでいたんだ?
「わ、私は何もしてませんよ!」
疑いの目が向けられる中、フェリシアさんは懸命に弁明するが、必死すぎて怪しさ爆増である。
「パニックになって怪我をするかもと思ったので…私が眠らせました」
そうだったのか…ユリーシャが言うなら間違いないだろう。疑いが晴れて良かったな、変態。
「それで…どういう状況なんだ?」
俺はずっとウルマリスとやりあっていたが、それ以外の戦いは、俺達の決着がつく前には終わっていた。事後処理も少しは進めているんだろ?
「すでにアインラスクの魔法戦士を呼んである。じきに来るはずだ」
さすがは気配り名人のカレンさん、頼りになるね。これで今晩の急襲は無事に終了ということになりそうだ。まだ、一件落着という訳にはいかないけどな。




