暴かれる悪事
アマユキを先頭に、俺達はバレないように身を低くしてヤツらのもとへ近付いていく。相変わらず森はざわざわと騒めいているが、もはや誰も気にしていない。ヤツらの意識は、ウルマリスとアリューシャに向いている。
「取ってやれ」
ウルマリスが命じ、部下の1人がアリューシャから目隠しと猿ぐつわを外した。
「アリューシャ、お前も持っているはずだ…ザカリヤの子が持つお守りを。それを俺に渡せ」
ウルマリスは簡潔にお守りを要求した。
「お守りを集めて…それでどうするつもりですか?」
「お前には関係のない話だ」
アリューシャはウルマリスをキッと睨みながら冷たく問うが、ウルマリスは苦笑しながら答えた。百戦錬磨のウルマリスにとって、アリューシャはあらゆる意味で子供だ。
「あんな眉唾物の話を信じて…さらに罪を重ねるつもりですか?もう、悪い夢から覚めてください。私は…お金に狂う一族の悪夢を断ち切りたいんです」
アリューシャは必死に説得を試みるが、その声がウルマリスに届くことはないだろう。
「…改めろ」
ウルマリスはアリューシャがお守りを持っていないか、部下に調べさせた。
奇妙な間が空いたのは、憐憫の情が湧いたからだろう…この男も根っからの悪党という訳ではないようだ。とは言え、部下は忠実に…いや、喜んでアリューシャをまさぐっているように見える。ちょっと羨ましい。
「い…ゃ…」
アリューシャは不快感をあらわにするが、ヤツらにしっかりと押さえつけられて抵抗することはできない。あちこちを探していた部下の手が止まり、あっさりと見つけ出してしまった…お守りを。
「ウルマリス様…ありました!これです」
まさか持ってきているとは思わなかったぜ。
「かぇ…して!」
もちろん、返してくれる訳がない。一方でアリューシャがお守りを持っていたことに、ツザナは驚きを隠せないようだ。
「持っているのはアリューシャじゃねえか」
「これは…してやられましたな」
ウルマリスは少し皮肉っぽくツザナに言い、これに対してツザナは苦笑しながら応じた。
おそらくツザナの見立てでは、アリューシャはお守りを持っていないということだったのだろう。スリの名人の意見だ。ウルマリスもすんなり受け入れ、シャーラレイへの探りに力を入れていた…といったところか。
ツザナを擁護する訳ではないが、アリューシャはお守りを持っていなかった。持つようになったのは、ここ数日のことだ。だから、してやられてはいない。
「まあいいさ。これでエステルマギの埋蔵金は俺達のものだ」
それはすでに3つのお守りを手に入れている、ということだ。俺達の知らない持ち主を探し出したのか、あるいは一味の中の誰かが持ち主だったってことだろうな…。
「あの娘はどうする?」
ツザナがアリューシャの処遇を求めた。いよいよか…ヤツらに見つからないギリギリの所まで近付いている俺達も、急襲のタイミングを計る。その時、ウルマリスがとんでもないことを言い出した。
「アリューシャ、お前…俺の部下にならないか?」
はあ?何言ってんの、このおっさん。誰もがそう思ったはずだ。だが、ウルマリスは構わずに続ける。
「お前には見込みがある。それにこんなところで死ぬのは馬鹿げているだろう…どうだ?」
「誰があなたの部下になんか…なるものですか!」
アリューシャは怒りに体を震わせながら、きっぱりと拒否した。そりゃそうだよな。だが、ウルマリスからさらなる爆弾発言が飛び出した。
「お前の母親、シャーラレイは俺が殺った。俺のもとに来れば、いつでも復讐できるぞ?」
やはりコイツだったのか…でも、どういう神経してるんだよ。胆力、ありすぎだろ。
「あなたは…あなただけは!」
怒りのあまり、アリューシャは言葉にならないようだ。
「そうか…残念だよ」
ウルマリスは腰の魔法剣に手を掛けたが、それをツザナが制した。
「始末はこの老人が…」
ツザナはウルマリスの危うさを心配しているのかもしれない…どういう関係なんだろう?気になるところだ。
「好きにしろ」
敬老精神という訳でもないだろうが、ここはウルマリスが譲った。ツザナは低木の植え込みの陰に隠していたコルク瓶を取り出した。その中にいるのは赤いクモ…ついに見つけたぜ!
「アリューシャ…このクモがお前を天国に案内してくれるだろう。これはな、ソルタスとファゼルをあの世に送ってくれた可愛いヤツよ。はるばる大陸からやって来てくれた赤い天使じゃ」
ツザナはその内の1匹を取りだし、アリューシャに近付けた。嫌悪と怯えの目で赤いクモを見つめていたアリューシャが思わず目を背ける…今だ!
俺の心の叫びがユリーシャに届いたのかどうかは分からないが、ユリーシャがアリューシャのために用意した魔法具、そこに仕掛けていた魔法を発動させる!次の瞬間、幻想的な淡い若緑の光がアリューシャを包み込んだ。アリューシャの周囲に張られた強力な結界がツザナを弾き飛ばす!
「な…なにっ!」
巧みに受け身を取ったツザナだが、突如出現した結界に驚きを隠せない。
まったく予期していなかったようだな…不意打ちのようで悪いが、ここからはこっちのターンだ!さらに俺達が隠れている茂みの前から無数のクズのつるが飛び出し、結界を覆いこちらに引きずって来る。
この状況に誰もが反応できない中、ウルマリスだけは魔法剣を抜き放ち、数本のつるを切り払った。だが、切られても次から次へとつるは伸びてくる。程なくして、つるに覆われた結界が俺達の前に鎮座した。




