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まずは、妹の話をしようと思う


「先ほど、王太子殿下に呼ばれて城に行ってきた」


ボーデン公爵さま、いえレオンさまに邸宅の応接間に案内された私は、互いに向かい合って座りながらお茶菓子を出してもらっていた。

菓子はフィナンシェだ。わぁ、おいしそう。


「あぁ、王太子殿下ですか」

お兄さまについて何度か挨拶はしたことがある。顔は大体わかる。うん、多分顔と名前が一致している王侯貴族の名前を挙げるとしたら1番最初に出てくる方だ。後はアレクセイがナンパしていた竜人族のご令嬢とか、とかとかとかしかいねぇっ!!うぐっ!


もふっ


あぁ、そうだった。今はこの子を抱いていたんだった。あぁ、わふたんわふたん。もっふもふ~。


―――しかしながら。レオンさま。

わふたんお耳が。そして座った時にもふりと脚の横に寄り添うわふわふしっぽ!

あぁ、どうしよう。わふわふすぎる。


―――私は無意識にわふたんぬいぐるみのしっぽを指でもふっていた。


「王太子殿下は、なんと?」


「あぁ。進んでいた例の縁談をレーゲン公爵家が承諾し、君が嫁いでくると」


「あぁ、そうですか」

そうだよねー。王家には話は行くか。そして多分王太子殿下もチャンスとばかりに呑んだと。

でも、王太子殿下はお兄さまの親友で仲がいい。絶対にエミリアの件を知っているし、この機に乗じて私を嫁がせることにノリノリで応じて陛下へ話を持って行くだろう。


「王太子殿下、後でお兄さまに怒られそうです」


「そうか」


レオンさまも王太子殿下とは親しいのだろうか。お兄さまからは話は聞いたことがないけれど。公爵同士でレオンさまもお兄さまも年齢が王太子殿下と年齢が近そうだから。幼い頃から側近候補だっただろうな。


「君は、いいのか」


「はい?」


「このまま俺に嫁いで」


「私も貴族の令嬢ですし。政略結婚は仕方がないです。何だか最近本性が出てきたアレクセイに嫁ぐよりはましです」


「そうか。ついでに聞いたが」


「はい」


「婚約は、破棄されたそうだな」


「えぇ」


「新たな婚約者は、君の妹と聞いた」


「そのようです」


「自暴自棄になってこちらに来たのではないか」


「いえ、むしろこれで良かったのかなと。これでお兄さまのお役に立てますし」


「君の意思は」

え、私の意思?妻になればそのわふたんお耳をふにふにする権利が与えられるのだろうか。そのわふわふしっぽをふわもふする権利が与えられるのだろうか。与えられなかったら私は人生のどん底に堕ちるだろうが。


「もちろん、納得しています。それに妹のエミリアは」


「噂くらいは、王太子殿下から聞いている」

あぁ、聞いてたかー。うん、そうだよね。天下のボーデン公爵の嫁にエミリアを据えるのは、いくら両種族間のわだかまりを少しでも緩和するためとはいっても無理がある。


「やはり、ご存じでしたか。エミリアが5歳の頃のことも?」


「それは知らないと思うが」


「あの子が5歳の頃です。私とエミリアはお城のガーデンパーティーに来ていました。調子に乗ったエミリアは薔薇に夢中になって迷子になったのです」


「あそこは広いからな」

えぇ。むしろ迷路を作りたかったんじゃないかと言うくらい。むしろガーデン迷路と名付けてやろうかと子どもながらに思った。


「途端に遠くの空にハット形の飛行物体が現れまして。そこから光がぴかーっと地上に降りたかと思えばエミリアがその中に吸い込まれて行ったのです」


「そうか」


「そのおかげでエミリアの元まで辿り着けたのですが。その後エミリアが空からゆっくり降ってきました。多分、それからなんですよ」


「城の庭園の上空にそんな未確認飛行物体が現れたのか」


「そうなんですが、それを見たひとは私しかいなくて、しかもエミリアも覚えていなかったんです。それからです。エミリアはきっと、アホの子に改造されてしまったのだと」


「根拠は?」


「夢に出てきたんです。誰かが私の脳に語り掛けてきたんです。“聖女に改造するつもりが、魔力を多く与え過ぎた弊害で頭がアホになってしまった”と」


「聖女。ヒト族に現われるという」

魔法超人である。


「えぇ。それ以来エミリアは魔法の才に恵まれ、特にヒーリング魔法に秀でました。まぁ、お兄さまの方が攻撃魔法を扱えるので強いのですが」


「だが、ヒーリング魔法は希少な才だな」


「えぇ。どんな傷もあっという間に治癒してしまうのですが。エミリアは自分の頭だけは決して治せないのです。姉としてはそれが憐れでなりません」

子どもの頃はわふたんパワーと言う何の根拠のないおまじないをしてあげたけれど効果はなかった。


「君は、意外にも妹君を大切に想っているのだな」


「大切と言うか、何と言うか。アホな子ほどかわいいってほんとなんだなって思ってます」


「そうか」

レオンさまは小さく頷いて、紅茶を啜った。私もひとくち。あぁ、この紅茶おいしい。



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