【SIDE:ラファエル】レーゲン公爵付き専属騎士・ラファエル その1
※今回はレーゲン公爵家のラファエル視点です※
―――私の名はラファエル。幼き頃よりレーゲン公爵家に仕え、嫡男であるヴィリアムさまに仕え忠誠を誓った騎士。
ダークブラウンの髪にマリンブルーの瞳。ヴィリアムさまにお仕えし傍に控えていれば嫌でも周囲の目に付いてしまう。滅多に笑わない表情から顔立ちはいいのに残念だと周囲のご令嬢たちに何度言われたことか。だが、その前に私は貴様らになど興味はない。
私が興味を持っているのは。
『やぁ、レディ・エミリア。今日も君はとてもかわいらしいね』
とあるバーティーに次期公爵であるヴィリアムさまの護衛として参加した際に、また見てしまった。
『えっ、そうですかぁ?ふふっ、ありがとうございます』
そう、天使のように微笑んだのは、エミリア・レーゲン。ヴィリアムさまの末の妹君。ピンクブロンドのゆるふわヘアーにエメラルドグリーンの瞳。かわいらしいその顔立ちは庇護欲をそそるらしい。
そんなエミリアに醜い笑みを浮かべて這い寄る男。
―――はぁ?何を言っているんだ全く。やつらは“エミリア”のことを全く分かっていないのだ。
『今度、お茶でもいかがかな』
そう、ウインクを決めながらエミリアを誘惑する。
『はぁい、いいですよぉ』
いいわけあるかっ!エミリアのアホなところを利用して我がレーゲン公爵家に取り入ろうとするアホな蛆虫めが。
エミリアは基本的には人畜無害な性格をしているが、基本は“アホ”特性がずば抜けているためそこに取り入られて結構流される。騙される。悪いひとにもついついついていってしまう。優柔不断なのか、それとも真正の鈍感なのか。
姉君であるロロナさま曰く、あれはエミリアの優れたヒーリング魔法の代償のようなものなのだとか。やれ、あのエミリアの美貌に惚れこむ者も多いし、その付加価値としてヒーリング魔法を求める者も多い。全く嘆かわしいばかりである。
ギロリと睨みを聞かせていれば。その私の殺気に気が付いたのか、壁の華になっていたロロナさまからヴィリアムさまへのGOサインが出た。そしてロロナさまからのGOサインを受けた主君の視線に頷き、早速私がエミリアの回収に向かう。
『失礼。少々よろしいですか』
私がその場に割り込めば、相手の男は明らかに不満そうな表情を浮かべる。
『お前のことは知っているぞ。ヴィリアムのところの番犬か。平民が気安くこの私に話しかけるな!』
まぁ、私のことを知っているものは多いだろう。常日頃、ヒト族筆頭貴族の公爵家の跡取りであるヴィリアムさまと一緒にいるのだから。正確には“狂犬”なのだが。
『え?何でですか?エミリア意味わからないですぅ』
きょとんとしながら首を傾げるエミリア。やめてくれ。そんなかわいい表情をこんなクズに見せるのは。そのひとつの仕草だけで、ほぼ会場中の男の視線を総なめにしたのだから。
『恐れながら、主人よりエミリアさまを呼ぶよう仰せつかっておりますので。あと、お茶の話はなしでお願いします』
ついでにお茶の話も断っておく。エミリアのアホさに付け込んでくるものなど、主君のためになるはずがないのだから。
『何だと!?生意気言いやがって!貴様、誰に向かって!』
『あなたこそ、誰の命に向かって仰っているのですか。私は次期レーゲン公爵であるヴィリアムさまの命でこちらに来ています。しがない伯爵家の爵位も告げない次男坊がいい度胸ですね』
しかも我が主君はまだ未成年のため爵位を引き継げないでいるものの“当主”である。まだ当主ですらなく、しかも爵位を継ぐ可能性がめっぽう低いこの男にそんな暴言が許されると?それに、このような男が仮に爵位を継いだのなら、伯爵家は今度こそ終わりだな。
『こんのっ!』
相手の伯爵家の次男が私に掴みかかってくるのを、躊躇いなく捻りつぶします。
『うぐあぁっ!今、暴力を!この平民が暴力を!』
無様にも床に転がった男が声をあげるが。
『私は主君の妹君をお助けしたまで。妙な言いがかりをつけるのであれば勝手にどうぞ。主君からのちほど、ご実家に抗議されるそうですので』
そうなれば、この男の伯爵家はどうなるか。これから落ちぶれるのが楽しみである。
『んなぁっ』
いきなり慌てふためく次男を足蹴りにして気絶させ、私はエミリアの華奢な手首をそっと握り颯爽と退避させる。
『ねぇ、ラファエル。どこ行くの?』
きょとーんとした表情で何だか嬉しそうに尋ねてくるエミリア。あぁ、もう。調子が狂う!
『本当に、これだからあなたは。―――いっそのこと、誰にも会わせずに私だけが愛でられるようにできればいいのに』
『へ?それってどういう意味?』
相変わらず理解していないエミリア。全く。すぐほいほいと知らないやつに付いていくのだから、それくらいはしてもいいだろう。いや、むしろその権利をもらえれば、一生私が養ってもいいほどだ。
―――そんな私の願望が意外な形で叶うことになるとは、その時は思いもしなかった。




