レーゲン公爵家襲撃事件
「現在、屋敷の方は!」
「はい、我々を始め症状の軽いものを王城に派遣し、騎士団と魔法師団の派遣を要請。倒れた者たちの元には治癒魔法士を手配し、王国全土にアレクセイのやつめとそれに関わった魔法使いを指名手配、総力を挙げての捜索を開始いたしました!」
ヴィルお兄さまの言葉に、家令が素早く説明する。
「わかった。私も屋敷に戻り、陣頭指揮を執る」
「なら、ウチもヴォルフ騎士団の連中を捜索に向かわせる」
そう、口を開いたのはレオンさまだ。
「なに?」
ヴィルお兄さまが驚いたようにしてレオンさまを見やる。
「これはドラッヘルン王国全体に関わる大事だろう。仮にもヒト族筆頭貴族の公爵家が狙われた。何よりそういう時に手を取り合うための政略結婚ではないのか」
「ぐっ!まだ妹をやると認めたわけではないが、協力感謝する!!」
ヴィルお兄さまがツンデレ気味にそう答えるが。しかしながら私はもう婚姻しているし、協力してもらった時点でこの政略結婚を認めてるも同然だと思うのだけど。王命だしね。多分ヴィルお兄さまは王太子殿下の側近仲間で仲良し(?)のレオンさまに私が嫁いでしまったぐちを言いにきているだけなのだ。あぁ、はた迷惑な。
―――あれ、待てよ?しかし何故このタイミングなんだ。ボーデン公爵家から追い出された後も、期間は十分にあったはず。その期間に魔法使いたちの準備を整えているという可能性もあるが、短期間で公爵家を一網打尽にするほどの戦力を確保して作戦に移るのは不可能と言っていい。なんせ今のアレクセイは実家の侯爵家から追放されたただの平民である。
つまりこの襲撃作戦は随分と前から練られていたということ。
一応エミリアからアレクセイが宝石やら金品をねだったらリストにしてヴィルお兄さまに渡すようには伝えてある。けれど、我が家の使用人たちが妙に殺気立っていたおかげでアレクセイが実家の敷居を再び跨ぐことは防がれていた。
エミリアをアレクセイが呼び出すという手もあったが、家令の手でその伝手は潰されているはず。
だが、彼に襲撃を起こす準備があったとしても、何故今まで実行に移さなかった?私が嫁ぐことが決定した時もヴィルお兄さまが隣国に出ていていくらでも隙はあったはず。
いくらお父さまがエミリアに甘いと言ってもさすがに今回のは酷すぎた。エミリアがアレクセイのためにお父さまに泣きついたり、アレクセイがお父さまに泣きついたとしても、レーゲン公爵家に負をもたらすものであれば、お父さまがこの問題に手を出すのは不可能だ。
筋肉超人への改造が失敗したお父さまには、何故か天運があってそれが負となるものを自然に追い払っていたからだ。そうでなければ私とアレクセイの婚約がお父さまの署名で破棄され、私がレオンさまに即日嫁ぐなんてことは不可能なのだ。
「あっ!ヴィルお兄さま!」
「どうした、ロナ。何か気が付いたのか?」
「あの、今朝お父さまは領地に出発されたのですよね」
「あぁ。なるべく早く母上コレクションと共に余生を楽しんでほしいと願ってな」
お母さまコレクションの件はおいておいて。
「あの、今回の襲撃は多分、お父さまが王都の本邸を去ったからでは?」
「あっ」
そこでヴィルお兄さまも気がついたようだ。
「だからこのタイミングで動いたんです!」
「何てことだ。ぼくは最大のミスを犯した」
「いえ、違います。ヴィルお兄さま。今回の襲撃は前々から練られていた用意周到な襲撃です。きっと遅かれ早かれお父さまが邸を後にしたきっかけで動けるように仕組んでいたのかと。そのタイミングは相手も予測できたはず。だってお兄さまが18歳になれば爵位を賜ることはおじいさまからの遺言で決まっていたことです。襲撃犯たちがはそれに合わせて計画を立てていた。世代交代と共に、先代や両親が領地に隠居することは珍しくはないはずです。そして、お兄さまもそうしました」
「だから、父上を本邸から出してはいけなかった」
「いいえ。もう、いいじゃないですか。ヴィルお兄さま」
「ロナ?」
ヴィルお兄さまは私を驚いたように見やる。
「お父さまは、お母さまへの裏切りの十字架を背負い、十分に我が家に贖罪を果たしました。残された余生くらい、自分のための幸福を招くためにその天運を使っていただいたって」
お父さまがかつて利用されて裏切りをしてしまったことは事実だ。しかし、そんなお母さまのためにお父さまは崖から身を投げて罪を償おうとした。そしてそれは筋肉超人に改造されそうになって失敗するという結果に終わったのだけど。
「お父さまの天運がなくなった時点でこのようなことになるのはあり得ないことじゃありません。いつかは向き合わなければならなかったことです。せめてお父さまの耳によい報告ができるよう、全力を尽くしましょう!」
「―――そうだな。確かに、父上はバカになってしまったというし実際にぼくもそれは十分に実感している。けれど、あのひとは母上への贖罪は十二分に果たしたはずだ。これからは、ぼくがしっかり公爵家を守っていくよ。父上の天運に守られていた分を、しっかりと」
「はい、ヴィルお兄さま」
「では、早速行ってくるよ、ロナ」
ヴィルお兄さまの手が私の頬に伸び、る前に叩き落とされた。
「んなっ!?」
「ロロナ、行ってくる」
ぽふっ。
レオンさまに頭を撫でられて、それを見ながらヴィルお兄さまの魂が抜けそうになっていた。
「エミリアは私が預かるから。ふたりとも、行ってらっしゃい」
「うぅ、わかった。ぐすっ、覚えていろよ。レオン!」
「やだ」
れ、レオンさまったら。相変わらずお兄さまの嫉妬を歯牙にもかけないなぁ。
屋敷を飛び出していくお兄さま一行と、レオンさまとヴォルフ騎士団のみんな。私は残されてきょとんとしているエミリアに溜息をつきつつも、まぁ無事だっただけよかったとほっと胸をなでおろした。
※補足※
ヴィルお兄さまの一人称。
公爵としてカッコつけている時:だいたい“私”
素:“お兄ちゃん”“お兄さま”“ぼく”




