エミリア、来たる!
―――ボーデン公爵邸・応接間
朝食もほぼ食べ終わっていたため、私たちは場所を応接間に移した。そして応接間に通されたのは。
「うわあああぁぁぁんっっ!!!お姉さまあああぁぁぁぁっっ!!!」
何故か泣きながら、ピンクブロンドのゆるふわな髪を靡かせて私に向かってきたのは、妹のエミリアであった。
「んっ」
しかし私の横に座っていたレオンさまがそれを阻止するように立ち上がり、ヴォルフ騎士団の騎士たちが彼女の進行ルートを阻む。
「ふぇ?あれ、お姉さまどこかしら。さっきまではいたのに」
キョロキョロとあたりを見回す妹・エミリア。相変わらずのアホで、お姉さまは少し安心しました。ふぅ。
「ヴィルお兄さま、あれ、ハウス!」
「わふっ!」
ヴィルお兄さまに命じればすかさずエミリアを回収して、自身が座っているソファーの隣に椅子を持ってきてそちらに座らせる。
いや、何で隣に座んないんだよ。と言う疑問もあるかと思う。隣に座ると十中八九エミリアが腕を絡めてくるのでヴィルお兄さまは嫌がるのである。
「あっ!またお姉さま発見っ!」
と、椅子に座ったエミリアは再び私を発見したらしい。うん、良かったね。
「エミリア!何故お前までここに来たんだ!」
ヴィルお兄さまが毅然とした態度でエミリアをキッときつく睨みつける。甘い顔をするとすぐアホ全開になるということで、ヴィルお兄さまは心を鬼にしてエミリアに接するのだ。因みに鬼にしないとただの口の悪いひとになるので、公爵の威信にも関わる。
―――そう、もう公爵になったのですからしっかりしてください、ヴィルお兄さま。あと、エミリアにそれ、通じてませんよ。能天気なので。
「うえぇ~、だってぇ、だってぇっ!アレクがぁ~っ!」
その名前が出た瞬間、レオンさまを始めボーデン公爵家のみなさんにピリッとした緊張が走り、ヴィルお兄さまも思わずビクっときていた。エミリアは相変わらず何も感じ取っていないけれど。
―――いや、ある意味それも才能なのか?
「アレクが、その。今朝ウチに来て」
「は!?勝手に入れたのか!?」
ヴィルお兄さまが公爵位を授かるために王城に朝早くから押しかけた隙に、アレクセイが実家に現われた??
「だってお庭で飲まず食わずで疲弊していて、とっても苦しそうだったんだもん!それでね、ご飯食べさせてあげたんだ!」
「いや、待てエミリアよ。何故その男が屋敷のお庭にいたのか聞いてもいいか」
すかさずヴィルお兄さまが問いかける。うん、何で庭にいたんだそいつ。
「う~ん、わかんない!でも他にも倒れてるひとがいっぱいいたから、みんなにご飯食べさせてあげたの!だけどアレク以外みんな魘されてて」
それは、最強種族・竜人族であることをいいことにアレクセイが何かやらかしたのでは!?ウチはヒト族筆頭貴族の公爵家。当然のことながら護衛騎士もいるのだが。アレクセイは、そうか。疲弊したふりをして彼らの油断を誘ったってこと?実家のみんなはアレクセイが浮気をしていたから殺気立っていたから、問答無用で追い返しそうな気がするのだけど。
「エミリア、それならあなたがヒーリング魔法を使えば良かったのではなくて?」
「あっ」
あの顔完全に忘れていた顔じゃんっ!!んもぅっ!!天然じゃないのよあれは。単に頭が回ってないの!―――哀しいことにね。
「それで、やつはまだウチにいるのか」
「あっ!それなの!アレクったら酷いの。私の宝石を持ち逃げして逃げたの~~~っ!もう私なんてお呼びじゃないって!私のことなんて好きでもなんでもなかったって、ただ顔がいいからちょっと付き合ってやっただけだって!酷いっ!私もう、恋なんてしないもんっ!!」
そう、その意気ごみなら大丈夫そうだけど。明日になったら忘れてそうね。忘れていなかったら今後、エミリアは恋をしないというスタンスだってことで。
「いや、ちょっと待て。どういうことだ」
「ヴィリアムさま!」
その時、ヴィルお兄さま付きの専属騎士・ラファエルと実家の家令が応接間に通されてやってきたのだ。
「アレクセイのやつめが、我が家を魔法使いを雇って襲撃し、貴金属を持ち逃げし、更には亡きお母君の形見まで持ち去ったのです!!」
そう、息せき切って家令が告げる。
―――んなっ!?何やってんのよアイツ!
でも、お母さまの形見については、持ち去ってお父さまに持たせたのはヴィルお兄さまよ。




