私たち兄妹とエミリア
―――ボーデン公爵邸・ダイニングルーム
「実は問題は妹のエミリアのことなのだが。公爵家を除籍させたうえで安定の修道院行きか、そのままどんでん返しの平民送りかで迷っている」
突然朝食の席に先んじて乱入していたヴィルお兄さまは、優雅にコーヒーを啜りながらそう告げた。まぁ、エミリアは姉の婚約者と浮気をしてしまったわけではあるのだが。
「まず、修道院ですけど。エミリアを修道院に預けた場合、確実にあの子の力目当ての金の亡者やならず者が殺到するでしょう。頭はアホですが、ヒーリング魔法の腕はマジもんの天才ですから。その場合、その修道院にならず者防止のための見張りや護衛を手配せねばなりません。あと、怪しげな金の亡者や権力者に横流しや売り払われないように修道院を監視せねばなりません」
既にエミリアのその可憐な見た目と類まれなるヒーリング魔法の才は国内外に轟いているのだ。パーティーも本人は好きだったから、いろいろなパーティーに参加しているはずだ。
今まであの子がアホながら無事だったのは、確実にレーゲン公爵家の令嬢だったからだ。レーゲン公爵家の後ろ盾があったからこそ無事だった。それがなくなったのであれば、確実にエミリアは。
「ふむ、それだと確実に経費が掛かるな。それもエミリアが修道院に入っている間中、ずっとだ」
えぇ。人件費やら護衛のための装備の補充やら、修道院への寄付やら。それも寄付も特別なことを依頼しているので多めにしなくては。
公爵家なので金も権力も豊富にあるが、悪戯に浪費するわけにはいかない。だってその予算は領民の血税なのだから。
「そして、平民送りにする件ですが。これも危険です。何の護衛もつけずに野に放り出せば、それこそ即餌食になります。怪しげな組織や隣国なんかに売り払われでもしたら、それこそドラッヘルン王国が不利な状況に陥ってしまいます。例えアレクセイと一緒に市井に降りたとしても、アレクセイが責任をもって守る保証はないですし、能力があるかはわかりません。現に、ボーデン公爵家のヴォルフ騎士団には手も足も出ませんでした」
「確かに、それはそうか」
「それならば、レーゲン公爵邸に監禁しておいた方がまだましですよ。あの子のためにも」
「そうだな。確かにロナの言うことも正しい。確かにウザイところはあるものの、あれはただアホなだけだからな。騙されやすくて面食いでしょーもないだけで、ヒーリング魔法の腕だけは超一流。野に放っても修道院に送り込んでも適当なところに嫁に出しても利用されても気が付かない可能性は往々にしてある」
今、ヴィルお兄さまが盛大にエミリアをディスったのだが。
「そもそも嫁にもらおうとする貴族も貴族で信用ならないかと」
いい歳したおっさんとか、愛妾に迎えようとするダメ男とかがよってきそうだ。
「では、どうしたものか」
我々兄妹は考えあぐねていた。
「レオンさまは何か策はありますか?」
「ん、そうだな。―――調教?」
あの、レオンさま。何の調教っすか。何か恐くて聞けないんすけど!!
「やはり、交換しよう。エミリアとロナを!」
いや、何を言い出す。それ、絶対だめだから!
「あの、そもそもエミリアにレオンさまの妻は無理ですよ」
「そうだ。俺とロロナは既に結婚している」
そうそう。
「そうだった。それがまず無理だった。しかしオフホワイトの結婚なら!」
『それも無理!!』
私たち夫婦、初の共同作業・Wツッコミ。
「では、どうしたものか」
「う~ん。まずはエミリアの安全が確実に保証されなければいけませんね」
エミリアは私の元婚約者と浮気をした。けれど多分、手を出したのはアレクセイの方だろう。そしてエミリアがアホなことを利用して取り入ったのも恐らくはアレクセイ。あぁ、いつからあんな性格になってしまったんだろう。
まぁ、過去は変えられないからしょうがないけれど。エミリアはアホなだけで、根は多分素直で騙されやすすぎる性格をしているのだと思う。
「適度にエミリアを縛って、従順にさせられて管理してくださる上にエミリアを愛してくださる方を夫にする。と言うのはどうでしょう」
「ふむ、しかしてそのような人材がいるだろうか?」
「ヤンデレ束縛婚なんてどうですか?あれならちょっと愛は重いですけど、多分エミリアのことは人一倍大切にしてくれるはずです。エミリアの近くにヤンデレ執事とか騎士とかいませんでしたかね」
「そうか。それはイケるかもしれないな。しかし肝心の人材が」
そう、私たち兄妹がしめしめと計画を練っていた時だった。
「奥方さま、表に妹君を名乗られる方が来られています」
とメイドのセレナに告げられ、私とヴィルお兄さまは絶句した。
―――いや、何故エミリアまでここに!?




