【SIDE:ファイ】ボーデン公爵家??・ファイ その3
※今回もファイさん視点のお話です※
※わふ太失踪事件の裏側をどうぞお楽しみくださいまし※
『わふ太くんを探せ~~~っ!』
『わふ太くんどこだ~っ!』
『しくしくっ、今頃わふ太くんがお腹を空かせていると思うと、あああぁぁぁ―――っ』
な、何故。こうなった。
***
―――遡ること少し前。
主君は悪女・ロロナ・レーゲンを持てあましている。何故だ。さすがに1日目で仕留めるのはやり過ぎだっただろうか。しかしながら。チャンスはやってきたのだ!
悪女・ロロナ・レーゲンから我らが守護神・黒狼・わふ太くんが解放される時が!
全く、1日で懐柔されたミシェルはともかく。ロロナ・レーゲンの信頼を見事に勝ち取ったメイドのリマには感心した。いささかロロナ・レーゲンと年が近いことから懐柔されるのではと心配していたのだが、彼女はそれを逆手に取り見事にロロナ・レーゲンの信頼を勝ち取ったのである。
そしてリマはロロナ・レーゲンの手から守護神・黒狼を回収した。後はひと気のないところで、リマから守護神・黒狼を受け取るだけだ。
リマがもうひとりのロロナ・レーゲン付きのメイド・セレナに付き添われて、ちょうど医務室を訪れ遮蔽カーテンと言う名の密室に入ったところを、我々に引き渡すと言うことか。
そして何食わぬ顔で寝入ったリマの腕の中からわふ太くんを回収っと。あれ、ちょっ。リマよ。早く放してくれないか?何でそんな強く抱いてんの!回収できないで、しょっ!と。
はぁ―――、はぁ―――。よし、無事に回収、成功!後は主君にこの守護神・黒狼のご神体・わふ太くんを引き渡すだけだ。さてと。主君は応接間か。
早速応接間に向かうと。
うがぁっ!ちょっ、主君!?な、何をしておいでで!?何か知りませんけど、ヒト族筆頭貴族の小僧の前で何でロロナ・レーゲンとイチャイチャしているんですかぁ―――っ!!!
これはあれか。のこのこと我がボーデン公爵家の敷居をまたいだ小僧の前で、ロロナ・レーゲンを完全に手中に置いたということを見せつけ絶望させるため?所詮ヒト族ごときが我ら獣人族に勝とうだなどとお門違いにもほどがあるということを見せつけるためか!
そして主君の作戦は功を奏し、小僧は泣く泣くボーデン公爵家を後にした。さすがは主君!鮮やかな手際です!!
―――しかしながら、その後ロロナ・レーゲンが語った真実の愛の物語には感動し、いやいやしてない!これも主君の同情を誘う作戦か!そうはさせぬぞ小娘!
だが、その後。我々にわふ太くんを引き渡したリマがロロナ・レーゲンに泣きついたのだ。
―――え?わふ太くんが行方不明?失踪!?何で?
あ、そうかっ!目覚めた時にリマがわふ太くんを持っていなければロロナ・レーゲンに疑われる!まぁ、いい。いい作戦だな、リマ。心配せずともロロナ・レーゲンはすぐに始末する。この件はもうリマがロロナ・レーゲンにそれを伝えて終わり。ロロナ・レーゲンがリマに何をしようとも、ロロナ・レーゲンは用済みだ。もう用はない。
その後屋敷内に潜り込んだネズミをヴォルフ騎士団が捕まえるという騒動があって少し予定がずれたが。後はロロナ・レーゲンが一人になったところを見計らって。あれ、主君がロロナ・レーゲンたちをサロンに案内して席を外して、合図を送ってる?
―――ちょっとこっちへ来い、と。
既に仕留める準備はできていますが。
はっ!もしや主君自ら手を下すとそう言うことですか!?
***
ひと気のない主君の書斎にて、俺はすっと姿を現した。
「主君、お望みのものでしたら既にこの手に収めております。ご安心を」
俺は跪きながら、保護したご神体・わふ太くんを主君に差し出した。主君はそっと俺の目の前に立ちわふ太くんを受け取る。
「お前、何故リマの手からわふ太を奪った」
「んなっ、当然ではないですか!わふ太くんをお助けする絶好のチャンスですよ。こうしてわふ太くんを保護した今、あの女を生かしておく理由はございません。もういっそ、一思いにやっちゃってください。一思いに」
「お前ら。何を勘違いしているかは知らんが」
あれ、何故か主君の声が異様に低い。そして、無の中から徐々に湧き出てくるこの殺気は何!!?
「貴様らはボーデン公爵家に仕え、ボーデン公爵家のために存在している」
「はっ、その通りでございます。主君」
「昨晩も、執拗にロロナを狙ったな」
「当然です!あの女、昨晩は2度も主君に手を出そうとっ!」
「何を勘違いしている」
「勘違い、とは?」
「ロロナは、単に俺の耳としっぽをもふりたがっていただけだろう」
「はい??」
「ずっとロロナを見ていて、気が付かなかったのか」
「はい。あれは獲物を狙うヒト族の小娘の目。見逃すはずがございません!さらにはわふ太くんをひと質にとって!」
「何を言っている。ロロナは、ずっと俺の耳としっぽを見ていただけだ」
「はい?何のために?」
「もふりたかったのだろう」
「は?何で」
「この子がその証拠だ」
そう言って、主君はわふ太くんを抱っこして頭をぽむぽむと撫でる。
「でも、あの子がわふたんお耳に手を伸ばした瞬間、振り向いて止めましたよね」
「―――その、どうせなら目の前でふにふにしてくれた方が、表情が、見られる」
えええぇぇ―――っ!!?何か主君が頬をうっすら赤らめて視線を逸らしたんですけど!?そして昨晩のは単にお耳ふにふにするロロナ・レーゲンが見たかっただけ!?そうなの!?それでわざわざ振り向いたの主君~~~っ!!?
そして主君は静かに呟いた。
「わふ太はご神体じゃない」
「では、何者だと?黒い毛並みのわふたんがご神体以外の何者だと言うのですか!」
「これは、あの子が俺を思い出すために作ったぬいぐるみだ」
「え」
「それを終始大事に抱いていたんだぞ、あの子は」
そう、わふ太くんを見つめながら思い出すように告げた主君のお尻のしっぽがわずかに揺れていた。あれは我慢している!しっぽふりふりしたいのめっちゃ我慢している!わかるよ!だって俺もわふたんお耳にしっぽの獣人族だものっ!!
「は、はぁっ!?」
そして思わず俺はそう声をあげてしまった。
「お前たちも公爵家のために仕えるのが仕事なのだから、今回の件を責めるつもりはないが。お前たちがあの子をヒト族だからと疑ったが、あの子はお前たちを獣人族だからと疑うことはなかった。これがその何よりもの証拠だ」
「その、主君。それは」
「―――あの子は、ずっと俺を」
そう呟く主君の顔は
「えっ、あのー、まさかとは思いますけど。主君、ロロナ・レーゲンのこと好きなんですか!?まさか、ずっと婚約者決めなかったのって、そのー。何か事情があるとは思ってはいましたけど、えっえ~~~っ、ひょぇっ」
「うるせぇ」
「す、すんません」
主君の目、めっちゃ恐かった。ぐすっ。そして何で俺の頭にぐいっと掌を押し当ててくるんすか、主君。
「今後、ロロナに手を出すことは許さない」
「は、はいっ、勘違いして突っ走ってすみませんでした」
「ロロナを我がボーデン公爵夫人として扱え。あと、護衛の影も付けるように」
「はっ!必ずや主君の初恋の相手をっ」
「そんなことは言っていない」
あ、圧が~~~。圧が、ッパネェっす。主君。
「これは俺が返しておく。お前は仕事に戻れ」
「はっ」
早速ロロナ・レーゲン、いや、ロロナ・ボーデン公爵夫人の元へと向かう主君のわふわふしっぽは、何となく嬉しそうに揺れていた。
―――その夜、よく見てみれば主君が歩いてくる間、そのわふたんお耳をじっと見つめつつ、そしてベッドに腰を下ろした際にふぁさっとシーツの上に乗せられるわふわふしっぽを見つめて頬を赤らめていたロロナ夫人に気が付いた。
そしてあの子、本当はいい子なんじゃないかなと、そう思った俺であった。




