元婚約者VS夫、因縁の戦い。てかわふ太~、で~てお~いで~っ!
「あぁっ!ロロナ!君に会いに来たんだ!それなのにこの野蛮な獣人どもがっ!ぐはっ」
あぁ。アレクセイが失礼なことを言ったから、獣人族のボーデン公爵家ヴォルフ騎士団の騎士さんに頭を足で蹴られた。
「何が野蛮だ。公爵家に侵入しようと目論む貴様の方が、よほど野蛮だろうが!」
わふたんお耳にしっぽの騎士団長さんがアレクセイに剣を突き付ける。因みに、失礼なことを叫んだアレクセイは前のめりに倒れた拍子に騎士さんに頭を靴で踏まれて押さえられていた。
「う、五月蠅い!ぼくはネーベル侯爵家のアレクセイだぞっ!?」
「はぁ?では、ネーベル侯爵家に問い合わせてみようか?こちらには既に除籍されたと知らせがあったぞ」
と、騎士団長さん。
「う、嘘だ!ろ、ロロナと婚約し直せばそんなの撤回される!」
いや、されねーだろ。
「ロロナ!俺と寄りを戻してくれ!」
え、えぇ―――。
私が口を開きかけた時、レオンさまの腕が私を制した。レオンさま?
「ふざけるな」
ビクッ。レオンさまの声は、いつもよりも低く何となく迫力があった。
「ロロナは俺の妻だ。この婚姻は竜王陛下によって承認されている。それに文句を付けるのであれば、竜王陛下に対する反逆行為だな」
「えっ」
アレクセイが目をぱちぱちさせながらレオンさまを見上げている。
「あと、もうロロナと貴殿は関係ない。軽々しく妻の名を呼ぶな」
「んなっ!?そんな嘘だろう!?獣人なんかと結婚だなんて、ロロッ」
私の名前を呼ぼうとしたアレクセイだったが、次の瞬間喉を詰まらせたようにピタリと固まる。完全に口元が引きつっている。
―――これは。
ゾクリと背を逆なでするもの。たとえ竜人族が種族の頂点の立場でも、思わず怯んでしまう。いや、単にアレクセイがクズなだけかもしれんけど。
でも、だからこそ黒狼を守護神として掲げるボーデン公爵家が、竜人族と肩を並べる国の防衛の要のひとつとして存在しているのだ。
「とっととつまみだせ」
そう、レオンさまは短く告げると私の肩に腕を回してエスコートしてくれる。
背後からはアレクセイの悲痛な叫びが遠ざかる。全くもう。そろそろ観念しろっての。案の定アレクセイは、獣人族の貴族たちが多く暮らす界隈からも放り出されたそうだ。竜人族側へと放り投げたそうだから、観念して去ってほしいと願う。
―――その後私は、レオンさまにサロンで待つように言いつけられ、ミシェルやリマ、セレナたちとわふ太大捜索の行方を静かに見守るしかなかったのだが。
いや、だからわふ太は自立歩行しないってば!それとも本当にご神体として覚醒してひとりで歩き回っているとか!?いや、まっさかぁ~。
「わふ太くん、あぁ、わふ太くん」
「ミシェル、あんまり自分を責めないで」
何だか、ミシェルの今後が猛烈に不安になってくる私。
「奥方さまは、いつからわふ太くんと一緒にいるのですか?出会いのきっかけは?何か、手掛かりになるかもしれません」
いやー、ならないと思うんだけども。
「えっと。その。きっかけは王城でのガーデンパーティーかな?お兄さまと妹と一緒に参加したんだけど。社交的な妹に比べて私は内向的だったから。他の子たちとなかなかなじめなくって」
ついでに妹がアホの子に改造されたガーデンパーティーとは別のガーデンパーティーである。
「お庭を見て回っていたら迷子になっちゃって」
因みにあのガーデン迷路ではない。ガーデン迷路を歩き回っていたら、あの未確認飛行物体に攫われたのは私だったかもしれない。いや、妹は元々ヒーリング魔法の素質があって、私は全くなかったから、そもそも私はお呼びじゃなかったかもしれないが。
「そんなとき、お庭の陰に揺れるふわふわしたのを見つけちゃって」
うん、もっふもふだった。ふっわふわ、わっふわふだったのだ。
「ついそのふわふわを触ったら、そのふわふわの主がこちらを振り向いてやってきて」
「それが、わふ太くんだったのですね!」
「いや、違うから!」
お願いだから目を輝かせないで!ちょっと罪悪感を覚えるから!
「えっと、その子は私よりも年上の男の子で。私と同じでパーティーに飽きてお庭を見ていたんだって。その子が黒い毛並みにわふたんお耳にわふわふしっぽだったの」
「なるほど、それがわふ太くんとの出会いだったわけですね」
だから違うから!まぁ、ツッコミたいところが多々あるのだが先へ進もう。いつかは誤解も解けるはずだ。
「えっと、その子が私の頭をぽむぽむと撫でてくれて。その、一緒に手をつないでお庭を散歩してくれて。いろんな話をして楽しかったっていうか。その後会場に戻ったらお兄さまが号泣しながら抱きしめてきたけど。いつの間にかその男の子はどこかに去っていて。楽しかった思い出だから、記念に自分で作ったのがわふ太なの」
「なんと、奥方さまがわふ太くんの創造主だったとは!私は何と言う誤解を!お許しください、奥方さま!」
「えっと、その。そもそも怒ってないから」
誤解が解けたようにも思えるが、何か違う誤解をしていないだろうか。やっぱりミシェル、大丈夫かな。
「す、素晴らしいお話ですねっ、えぐっ」
いや。泣くほどの話だったかな、リマ。
「わふ太くんは今では奥方さまと同じく邸内のアイドルですね」
と、セレナ。
「わふ太をみんなが大切に思ってくれて嬉しい。でも、私は」
ヒト族で、ヒト族筆頭貴族である公爵家から嫁いだ身で。
「いいえ、わかりますよ。旦那さまは奥方さまとご一緒だと、とても嬉しそうですから」
そう、セレナが微笑んでくれる。ウサ耳しっぽ萌え―――とちゃう。その、レオンさまが嬉しそう?そ、そうなのかな。何だかそう言われると照れる、かも。
「ロロナ」
優し気なその声に振り向けば。
「ん」
「あっ!」
サロンに帰ってきたレオンさまの腕の中には。
「わふ太!?」
わふ太が抱っこされており、レオンさまが私に差し出してくれる。
「わぁ、ありがとうございます!わふ太、お帰り~」
そう言ってわふ太を受け取り、頭をなでなでしてあげる。
「でも、一体どこに?」
「かくれんぼ、していたらしい」
マジなの?それマジなんですか?わふ太って本当に自立歩行するの!?
「みんなに心配をかけたから、今後は勝手にかくれんぼはしないと言っていた」
「え、あー、それはそれで安心ですねっ!」
まさかとは思うけど、本当にご神体になって自立歩行したんだろうか。てか、しゃべったんですか!?しゃべったんですか、わふ太!!
「ん」
レオンさまがコクリと頷いた。
―――こうして、何だかよくわからないわふ太失踪事件は幕を閉じたのであった。
いや、何このオチ―――ッッ!!!




