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イケメン凶器VS仏頂面の戦い


―――ボーデン公爵邸・応接間


「あぁっ!ロナ!会いたかった!」

私の愛称を呼びながらいきなり抱きしめてきたのは、みなさんのご想像通りの“イケメン凶器”じゃなかった私のお兄さまヴィリアム・レーゲン。通称ヴィルお兄さまである。


さて、ヴィルお兄さまはその二つ名・イケメン凶器の名に相応しいほどの美貌の持ち主だ。ピンクブラウンのふんわりとした髪に、エメラルドグリーンの瞳を持つ美青年。そしてすらりとした体つき。ヴィルお兄さまを一目見れば、どんな女性でも振り向き頬を赤らめてしまう。それが私のヴィルお兄さまだったわけだが、最近(※いや、てかついさっき)そのイケメン凶器を跳ね返す存在を見つけてしまった。それが私付きのウサ耳しっぽメイドのセレナ。彼女にとっては私のヴィルお兄さまは完全にストライクゾーン外である。


―――あれ、待てよ?と言うことはヴィルお兄さま大好きな妹のエミリアもマッチョ好きにすれば全ての問題が解決、いやないか。それはそれでエミリアが今度はマッチョに騙されてしまうかもしれない。しかしマッチョにとって自身の自慢の筋肉は決して自分を裏切らない存在。そんなマッチョがエミリアがアホの子だと思い自身の筋肉を裏切るような行動をとるだろうか?いや、この論議を語れば長くなりそうなので今回はこれくらいでこの論議は終了しよう。後で覚えていたらまた考えよう。


「済まなかったな、ロナ。辛い思いをしただろう?」

そんな私の筋肉論議を知る由もないヴィルお兄さまはいつものようにイケメン凶器スマイルをさく裂させてくる。この場に男性の侍従と騎士しかいないのは、既にみなヴィルお兄さまのこのイケメン凶器スマイルにやられてしまったのだろう。

とりま、会話に移らなければ。


「いえ、そんな」

まぁ、強いて言えばレオンさまのわふわふをわふわふしたくてたまらない上に、朝ちらっとふれたわふわふしっぽのふわもふフラッフィ感が忘れられないことが、―――ある意味辛い。


「レオン!―――い‶っ」

そして私の腰にさりげなく手を伸ばしたヴィルお兄さまの手の甲をぐにゅっとつねったのだが、それに若干頬を引きつらせながらもひるむことなくヴィルお兄さまは続ける。


「話が違うじゃないか」

ヴィルお兄さまが椅子に腰かけたままのレオンさまをキッと睨む。一応、現在ヴィルお兄さまは公爵ではないので、身分で言えばレオンさまの方が上。レオンさまがこの場で座っているのは特に問題がないだろう。しかしレオンさまを呼び捨てで呼ぶ以上は、やはりヴィルお兄さまもレオンさまと面識があり、それなりに親しいのだろう。恐らく二人とも王太子殿下の側近なのだろうし。


「話って、何のことですヴィルお兄さま」

まさかふたりで何か企んでいたとか?


「いい。ロナは黙っていてくれ」


「じゃぁもうヴィルお兄さまとは口を利かないってことでいいですか?」


「んの‶ぉ‶っ!!」

ヴィルお兄さまが私の腰から手を引き、あくまでもイケメン凶器を崩さずに崩れ落ちる。そのさますらも美しい。いや、その所作はぶっちゃけ言ってどうでもいい。ここに女性は私一人。私はヴィルお兄さまがイケメン凶器なのは認めるが、だからと言ってエミリアのようにべったりくっつこうとは思ったりはしないのだ。あくまでもお兄さまはただのイケメン凶器。むしろお兄さまが私にべったりすぎるのだ。そろそろ婚約者作れシスコンイケメン凶器め。


「わ、わかった。教えるから。しゃべっていいから、お兄さまと口利いて!!」

はぁ、全くしょうがないなぁ。


「取り敢えず大人しく座ってください。ヴィルお兄さま。レオンさまが困っています」

「んなっ!?もう名前呼びだと!?そんなものお兄さまは許していないぞ!」


「いや、お兄さまの許可は必要ないでしょ。てか、夫婦なのですから名前呼びは基本です。ね、レオンさま」

「あぁ。―――ロロナ」

あっ。レオンさまも名前を呼んでくれる。


「うおおおぉぉっっ!!レオン!何故、何故我が妹の名前を!貴様に妹の名を呼ぶ権利は与えた覚えはないぞ!」


「じゃぁ、お兄さまは位階にのっとって、レオンさまをボーデン公爵閣下とお呼びくださいな」

本来はそれがマナーだが、ふたりの関係が親密であるからこそ、ヴィルお兄さまは“レオン”と呼んでいるのだろう。さすがに私の呼び方にまで口を出すならば、一番の爆弾を投下してやろう。あっはっはっは。


「―――済まない。お兄ちゃんが大人げなかった」


「わかったんならいいですよ。ほら、大人しく“お座り”!」


「わふっ」

いや、ヴィルお兄さまがわふ言ってどうするよ。もはや妹の従順な犬に成り下がったか。


―――気を取り直してレオンさまの向かいのソファーにヴィルお兄さまを座らせ、レオンさまが隣をそっとけてくれたので、私もレオンさまの隣に腰を下ろした。


「な‶っ!?何故ロナがレオンの隣に座る!?お兄ちゃんの隣に座りなさい!」

いや、どこに夫の前で客の隣に座る夫人がいるよ。


「妻ですので」

往生際の悪いヴィルお兄さまに対し、レオンさまが仏頂面のままそっと低い声で呟き、私の腰を引き寄せた。


「んな‶っ!?」

ヴィルお兄さま、声が裏返る。


「それで、ご用件は何でしょう。レーゲン公爵子息殿」

ピシっ!


あっ、何だかレオンさまがかっこいい!これって、私のこと奥さんだって認めてくれてるってこと?えへへ。何だか嬉しいなぁ。


しかしその正面では、ヴィルお兄さまが完全に魂が抜けた表情をしていた。



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