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妹よ、姉は哀しいぞ。


ヒト族、竜人族、獣人族。それが主にこのドラッヘルン王国で暮らす種族の種類。

外国に行けばエルフ族や魔族などという種族もいるという。


この国で種族の頂点と言えば竜人族である。

王国を治める王族も竜人族。竜人族は世界最強とまで謳われる種族である。


―――そしてその次は。


ヒト族と獣人族の決着は未だにつかない。身体能力で言えば獣人族の方が上であるが、ヒト族はヒト族で、かつて勇者と呼ばれた筋肉超人を輩出したり、聖女と言う魔法超人を輩出したりしたことを例に上げて、こちらの方が優れていると言い張る。


―――魔力については五分五分。ぶっちゃけひとによる。そんな感じでどっちが種族として上かは身体能力が比較的優れている獣人族と言われても、ヒト族も譲らずかつての筋肉超人や魔法超人を例に挙げ、また魔法に秀でたものも輩出していると譲らない。


そんなヒト族と獣人族の仲の悪さに業を煮やした竜人族は両者に姻戚関係を結ばせることにした。


そしてヒト族から差し出された生贄が私である。


しかし私は歓喜していた。


だって!!


わふわふわふたぁぁぁんっ!!


さて、まずは何がどうしてこういうことになったのかを語らねばなるまい。


―――


「すまないっ!婚約は破棄だ!」

「ごめんなさい、お姉さま。私たち、恋に落ちちゃったの!」


そう、唐突に私の部屋に押し入ってきた婚約者。いいえ、元婚約者の金髪碧眼の竜人族の青年・アレクセイ・ネーベル侯爵令息。因みに次男。侯爵家は長男が継ぐらしい。そして彼は竜人族なので白い竜角と金色の鱗が敷き詰められたしっぽが生えている。翼は背中に収納しているが、彼の翼は小さく空は飛べないらしい。いや、そんなことはどうでもいいのだが。


そして、そんな元婚約者と恋に落ちたというのが私の妹のエミリア。ピンクブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ庇護欲をそそる系の美少女だ。ついでにウチはヒト族のレーゲン公爵家である。


レーゲン公爵家はヒト族唯一の公爵家。つまりヒト族の筆頭なのである。ドラッヘルン王家の王族が長年臣下として仕えたレーゲン家に当時の王女を降嫁させたことが公爵家としての我が家の華々しいスタート。だからこそ、代々王族からの降嫁も多く、婚約者に選ばれることも多かった。


しかし、最近は竜人族の公爵家、侯爵家から選ばれる。その原因はヒト族と獣人族の仲の悪さもあり、どちらかひとつを取れば争いの種になるし、どちらも取ればかつて血で血を洗う女の戦いになったらしくさっぱり王族との縁が薄れてしまったため、直系であるお父さまも竜人族の血をほぼ受け継がない人族だ。


だが王家との絆は結んでおきたいと、王女殿下が嫁ぐ予定のネーベル侯爵令息の弟であるアレクセイが私と婚約し、レーゲン公爵が持っているシュネー伯爵位を与えられることになっていた。


そして、エミリアは。


「エミリア。あなた、ボーデン公爵に嫁ぐことになっていたと思うんだけど」


「そんなっ!お姉さまひどいですわ!愛し合っている私たちを引き裂いて、私を野蛮な獣人族に嫁がせるだなんて!」

いや、獣人族だから野蛮って考え方はどうかと思うけど。そもそも、愛し合ってるってお前ら完全に浮気だろ。むしろ両家の縁談を引き裂いてどうするよ。


「あぁ、かわいそうなエミリア。ロロナ!君はひとの心がないのか!!」

はぁ。ひとの心と言うか、お前は貴族の心得がないのか。お兄さまが聞いたら激怒しそう。


「ぱぱも認めてくれたの!私たちの婚約を!」

「あぁ、愛し合っている私たちが結ばれることで、竜人族とヒト族の絆もより一層強くなるだろう!」

いや、その前に獣人族と仲良くしなきゃ。絆を強くしなきゃ。それが貴族の義務でしょうに。


「それに、地味な茶髪に変な瞳の色のお前よりもエミリアの方が美しい。そして魔法の才もある!」

「えぇっ!アレク!」

滅多めったクソに言ってくれたけど、私の髪はシナモンブラウンで亡くなった母さま譲りで珍しい色だ。瞳だって、エミリアは父さま似だけれど私の瞳はペリドット色で母さま似。このクソ妹は母さまの顔すら忘れてしまったのだろうか。姉は哀しいぞ。アレクセイの母さまへの侮蔑に頷いてんじゃねぇよ。


まぁ、魔法の才は確かにエミリアの方があるのだけど、ウチで最強なのはお兄さまだ。因みに父さまはかわいらしいエミリアをめっちゃくっちゃかわいがっている。エミリアは色こそ父似ではあるが顔はめっちゃかわいいのだ。しかも末っ子とあって、母さまが亡くなって以来エミリアを猫かわいがりしていた。その間にお兄さまは公爵家を継ぐために切磋琢磨している。


「そう言うことだ!貴様は獣風情の公爵にでも嫁げ!」

いや、アレクセイ。それ言っちゃダメ。竜人族と獣人族の仲も悪くなる。盛大に破滅臭がするのだが。


「準備は既に整っている!向こうは準備が整い次第だっただろう?」

「ぱぱも賛成してくれたわ!お姉さまのものは、全て私がもらうから心配しないで!」

何を言ってんだこのクソ妹は。てか、恐いお兄さまが来る前に追い出すつもりだったとは。


お兄さまにふたり揃って追い出されても知りませんよ、姉は。アレクセイのネーベル侯爵家にうまく拾ってもらえればいいけれど。王女を降嫁される予定のネーベル侯爵家がそんな醜聞の塊を受け入れるだろうか?


そもそも、獣人族が野蛮だの獣臭いだの言っているエミリアをあちらに嫁がせるのも問題だ。お兄さまもそれで悩んでいたのだ。


―――その話が持ち上がっとき。私には既に婚約者がいた。となると、両種族の絆を深めるための生贄はエミリアになる。けれどエミリアの我儘な部分を知っているお兄さまはお相手のボーデン公爵家に少し待ってくれと話を付けているのだ。エミリアはうまくお兄さまに隠しているつもりだろうけど、バレてるから。


世の中の男が上目遣いで甘えれば全部意のままになると思ったら大間違いだ。少なくともお兄さまは陰で煙たがっている。


それでも、相対的に見て私しかいないだろう。運よく(?)浮気して婚約破棄をしてくれたアレクセイのおかげで、私もお兄さまのお役に立てる。母の形見だけ身に着け、最低限の荷物だけ持った私は馬車に放り込まれ、ボーデン公爵家に赴いたのだった。



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