表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

五、二人の勇者の初修行

感想&ご意見をいただけるとめちゃくちゃ励みになるのでぜひ書いていってください!

 青々と晴れた空の下、メルシアルの中心にある城の隣、国軍兵士の訓練場に俺とカズトは集められた。そこは国軍の第七分隊の訓練場であり、その訓練場を管理している第七部隊は前線に出て戦うような部隊ではないため、いくつかある訓練場の中で一番狭く、いつも人が少ないらしい。それでもこうも貸し切り状態だとかなり広く感じられる。


 しばらく待っているとマントを羽織ったエルゼが訓練場の門をくぐり入ってきた。そして俺たちの前に腕を組んで立ち話始める。


「シュウイチ、カズト、おまえたちが勇者の任につくことが正式に認められ無事に受理された」


 そういって俺たちをよく覚悟を決めてくれた、と激励してくれる。


「さて、勇者の任につくにしたがってやってもらわなければいけないことがある」


「やらなきゃいけないことですか?」


 勇者に任命されるための儀式でもやるのだろうか。そもそも勇者って何をすればいいのだろう。神様には予言に従えと言われていたがまだその予言についてほとんど聞いていない。


「それって勇者とか予言に関係することですか?」


 エルゼは軽くうなずき話を続ける。


「ああ、だが予言を聞いて集めるには時間がかかる。それに『予言会議』といって集められた予言をどう実行させていくか国の指針を出す会議も開かれるんだ。だからその間、二人には訓練で体を鍛えたり、いくつかの技術を習得してもらう」


「だから訓練場なんですね」


 カズトが模擬刀や盾が置かれた部屋を見ながら納得する。長年使われてきたものばかりでかなりボロボロにはなってしまっているが使えないわけではないだろう。


 するとエルゼが羽織っていたマントに手をかけ、パッと脱ぐ。鍛えられたしなやかな筋肉があらわになり、その腰には模様が刻まれた古そうだがしっかりした鞘にいくつもの戦場を駆けてきたことが分かる柄を持った剣を装備している。


 そして腰からその剣を鞘ごとはずし柄に手を添えて訓練場の大地につく。


「改めて自己紹介をさせてもらおう。私はエルゼ=ブラッド。今日からお前たちの教官となり、剣術を指南する」


 口元をにやりとさせ鋭い目を光らせる。


「私は厳しいからな、覚悟しておけ」




 ――太陽が真上に昇りサンサンと日の光を降らせる中、訓練場にぽたぽたと流れた汗が沁みていく。俺たちはへばりながら走っていた。


 エルゼが教官になったと言った後、俺たちは服を脱がされて下着姿になっていた。エルゼはしばらく俺たちの体を見た後、まずは体力作りからか……とため息をついた。


 元の世界で二十八歳だったときの俺は腹回りに脂肪がつきはじめ、そろそろヤバいかもしれないと内心焦ってはいたが今は十歳くらい若返って健康的な体になっていた。バスケ部で練習ばかりしていた時ほどではないが筋肉も程よくついている。

 

 カズトは運動部ではなかったようだが体育はそこそこできていたらしい。少し細身ではあるがしなやかな筋肉がついていた。


 しかし今の体では教えることはできないといわれ、今は基礎体力作りとして訓練場の周りを走らされていた。


 こんな風に運動をしたのは何年ぶりだろうか。身体的には十代でも精神的にかなり疲れる。走りながら振り返り、気を紛らすように後ろを走るカズトにちょっかいをかける。


「へい、健全な現役高校生が二十八歳のおっさんに負けてていいのかよっ」


 カズトはそれには返事をせずに息を乱しながら俺のことについて聞いてきた。


「そういえばあの夜も気になってたんだけど、婚約者がいたってことは本当に二十八歳なの?」


「ああ、本当だよ。こっちに来たら気づいたら若返ってたんだ、神様が若返らせてくれたのかもな。なんだ?今からでも敬語になおすか?」


 俺も息を切らしながら冗談交じりに返す。カズトは笑いもせず苦しそうに言う。


「今はそんなこと考える余裕ないし、シュウイチにはもう敬語使いたくない」


 俺もカズトももうだいぶ疲れてきて、笑う余裕がないが無理に顔をひきつらせて笑いあう。

 どうやら俺は年上として敬われないらしい。しかし俺も今くらいの方がちょうどいい。むしろ距離を取られるとやりづらい。


 少し席を外していたエルゼが戻ってきてよろよろと走る俺たちに体育教師のように声をかける。


「後一周だ、全部出し切って走れ!」


 その声に押されるようにして後ろを走っていたカズトが俺の横に並ぶ。俺たちは黙って目を合わせ、次は相手に余裕を見せるように歯をむき出して笑いあう。

 俺は前に向き直して素早く肺に息を吹き込んでパッと加速し、カズトから一歩リードする。しかしカズトも負けじと横につきなおし、俺から一歩リードする。


 もう俺もカズトも限界だったはずだがお互いに負けじと走って、さっきよりも速く、もっと速くと走る。

 お互いがお互いに先を譲らずにゴールに飛び込んでいった。


 カズトは膝に手を置き、汗を滴らせながら息を整える。俺は大の字に倒れ、天を仰ぎながら必死に酸素を肺に運んでいた。


 カズトは上から俺の顔を覗き込んで勝ち誇ったようににやりと笑う。


「僕の勝ちだ」


 こいつめ、体力を使い切っていつもの遠慮がちな性格じゃなくなってやがる。気遣いの心が消えると少しクールな性格になるようだ。

 しかし笑った顔は自慢げではあるものの人を馬鹿にするような顔ではなく、まるで親に自慢するような満足げな顔だった。俺にも父性が芽生えた始めたか?


 俺は大の字になりながらも憎めないその顔に殴りかかるように大きく手を振る。


「バカ言え、足はお前の方が一歩速かったたかもしれんがトルソーは俺の方が先に入ってたぜ」


 カズトは簡単にこぶしを避けて笑う。俺もその顔につられて笑ってしまう。

 そんな俺たちを見てエルゼが満足そうにうなずき起き上がるよう言う。


「さあ二人とも、体が休まる前にすることがあるから起き上がってこっちに来て背中を向けるんだ」


 俺はよろよろと立ち上がってカズトの横に並びエルゼに背中を向けた。するとエルゼが俺たちの背中に手を当て、静かに目を閉じる。


 俺もしばらく目を閉じて息を整えていると突然エルゼの手が触れている場所から何かに押されるような力が込められる。それは体全体に広がっていき、全身を覆った。すると走り疲れて重くなっていた体は軽くなり、宙に浮いているような気分になる。そして胸に熱いものを感じ始めた。


 この感覚を俺は知っていた。これは転移されるときのあの暗い世界にいたときと同じ感覚だ。しかし今回はどこかに沈んでいくような感覚はなく、ただ浮いているような感じだ。


 その浮いているような感覚に身を任せていると突然、全身に痛みが走る。体が先ほど以上に重くなり、地面に膝をつく。全身に走る引っ張られるような痛みに俺は顔をこわばらせながら耐える。冷たい汗が額に滲み、声が出ず、息もできない。

 横でドサッと倒れる音がして、カズトの姿が目に入る。カズトも俺と同じように全身の痛みを耐えるように地面にうずくまって体を震わせていた。


 しばらく経つと少しずつ呼吸ができるようになり、痛みも消えてきたが体の重みは取れなかった。俺たちが一呼吸置けたところでエルゼが水を差しだした。それを受け取って、一気に飲み切った。水を手でぬぐいながら俺はエルゼに聞く。


「今のは……?」


「今のは軽いテストのようなものだ」


「テスト……、ここの兵士はみんなこのテストを耐えてるんですね」


 エルゼはその言葉に首を横に振る。


「これを体験するのはごく少数、ブラッド流身体操作術、および戦闘術を習得しようとする者だけだよ」


「ブラッド流身体操作術?」


 エルゼは改めて俺たちに何を教えるのか、難しい説明を始めた。要約すると魔法による身体強化とは違い、生物の根本である身体、それに宿っている魂を結び付け動かすことで、通常の生物では発揮できないであろう反応速度や身体能力を発揮できるらしい。


「そしてこの術を習得することを認められる人間はごく一部、私たちブラッド家の人間とそれに認められたものだけだ。それが掟なんだ」


「それで誰にも使われていない訓練場で独自の訓練をするってことか」


 カズトが遠慮気味に聞く。


「エルゼさんは僕たちを認めてくれたんですか?」


「……まだ会ったばかりだから完全に認めたわけじゃない。だけどお前たちの目、魂を見て信じてみてもいいかもしれないと思っただけだ」


 認められたわけではない。でも会ったばかりの俺たちを信じてほんの一握りしか教えられないような術を教えてくれる、それだけでもうちにある気持ちが熱くなる。転移した日の夜にも感じたようにエルゼはいつでも真剣な人だった。


 エルゼは手をたたき話を切り上げて俺たちを立たせる。


「さあ、休憩は十分済んだだろう。続きを始めるぞ」


 そうして俺たちは地獄のトレーニングを再開した。




 日も落ちて訓練場も暗くなってきたころ、エルゼがその日の訓練の終わりを告げる。俺もカズトももうすでに体が言うことを聞かずに膝ががくがく笑っていたため、終わりの合図とともにその場にへたり込んでしまった。


「これくらいで音を上げてちゃこれからの訓練についていけなくなるぞ」


 これからもっと厳しい訓練が待っていると想像するだけで吐きそうだったがそんな自分に喝を入れて生まれたての子鹿のようによろよろと立ち上がった。

 立ち上がるとエルゼが神妙な顔で言う。


「二人とも今日は初めて自分の魂を明確に認識したと思う。これは同時に身体と魂の結びつきが一度ほどけかけている状態だ」


 ブラッド流身体操作術というのは通常では考えられないほど身体能力が向上するがその分大きなリスクが伴う。普通は身体と魂は絡まるように結びついているのを一度ほどき自分が考えた通りに結びなおす作業がブラッド流のイメージらしい。

 しかしその結びつきがほどけたまま離れたり、その結びつきが切れてしまえば命を失うことにつながるそうだ。エルゼは今晩はそのつながりを保つためにじっくり休むように告げた。


 その夜は食欲もなく、ベッドに吸い込まれるように入り、そのまますぐに意識を失うように寝入った。


 朝起きると全身が筋肉痛で体が全く動かなくなってしまう。横を見るとカズトも同じく体が動かせないらしくその日一日は二人とも動くことなく過ぎ去ってしまった。

今回はエルゼによる勇者になってはじめての修行でした。いかがでしたか?

次回はおそらく新しいメインキャラが出てくるとおもいます。お楽しみに

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ