四、二人の勇者の覚悟
今回は井上一翔がどういう人間なのかを描いたものです。ほかにもこの物語の世界のことについて触れているので世界観の一部を知ることができる話となっております。
ご意見&感想はとてもかなりめちゃくちゃモチベーションにもつながるのでぜひかいていってください!
黒くつやのある髪、猫のようにくりっととした目のなかに純粋な黒い瞳、中性的な顔立ちに高校生くらいにしては少し背が低く線の細い体つき、まさにマンガの主人公のような青年が部屋の前に立っていた。俺と目が合うと青年はビクッと体を震わせて目をそらす。人見知りなのか?
そんな青年を横目に部屋に足を踏み入れたのはこれまたマンガの中から出てきたような美人。赤毛の髪を肩まで伸ばし、女性らしさはありながらしっかりと筋肉がつき、それでいて凛とした態度をとっている。
俺の案内人としてゲンさんがついているように彼女はこの青年の案内役を務めていたようだ。挨拶をしようと口を開く前に彼女が先に声をかけてきた。
「君がもう一人の転移者だな?私の名はエルゼだ。ここではメルシアル国軍第一分隊の副隊長を務めている。よろしく頼む」
ハキハキと自分の自己紹介を終わらせる。見た目通り性格もしかっりしているようだ。ゲンさんは初めは遠慮して敬語で話していたが、エルゼは強気な性格らしく敬語は使わなかった。俺としてはその方が話しやすいのでありがたい。
「俺は石坂秀一って言います。ゲンさんはシュウって呼んでるんでエルゼさんもそう呼んでください。よろしくお願いします」
ゲンさんは体が大きく顔も怖いからそれだけで威圧感があったのだがエルゼはそれとはまた違った威圧感があった。自然と敬語で話してしまう。だがやはり彼女はそこらへんは気にしないようだ。俺の自己紹介に軽くうなずき、後ろの青年に早く部屋に入るよう言う。
「あ……ぼ、僕の名前は井上一翔です。カズトって呼んでください。よ、よろしくお願いします……」
あまり話すのが得意ではないのだろう。少しずつ声が小さくなっていき最後には消え入りそうな声で自己紹介を終える。
すかさずゲンさんが咳ばらいをし、一翔に向けて自己紹介をする。
「私はゲン=ビゴネという。メルシアル国軍の軍隊長だ。カズトも私のことはゲンと呼んでくれてかまわない。何か困ったことがあったらこの宿の受付に行ってくれ。できることならば手を貸す」
ゲンさんも一翔に対してはそのままの言葉遣いで話しかける。吹っ切れたのだろうか。
顔合わせをすましてこれからの予定についてどうするかを聞こうとしたとき、それを遮るようにおなかの音がなった。
「す、すいません!今日何も食べてなくて……」
一翔が恥ずかしそうに頭を搔きながら申告する。俺も自分の知らないうちに気を張りすぎていたのかその音を聞いたとき、肩の力が抜けかなりの空腹を感じる。そういえば死ぬ前も何日か食べてなかった。そう思うとどっと疲れが襲ってきたように感じる。
ゲンさんも笑いながら「俺も腹減った」といい、これからご飯を食べに行こうと提案をする。
「シュウ、カズト、二人ともその恰好は個々では目立つだろう。部屋に服があるから着替え終わったら下に来てくれ。エルゼも来るか?」
「フフッ、どうせまたあの酒場で飲むんだろう?私は遠慮しておくよ」
呆れたように笑いながら手を振ってエルゼは断る。ゲンさんはそういうと思ったよと返して、エルゼとともに部屋の外へ行った。
部屋に二人きりになった俺たちの間に少し気まずい空気が流れる。とはいえこれから行動を共にするのだ。仲良くなるに越したことはない。仲良くなるためにまずは名前で呼ぶことから始めよう。
俺は呆然とドアの方を見つめていた一翔に声をかける。
「俺もカズトって呼んでいいかな?これからよろしくな」
「う、うん。僕もシュウイチて呼んでいい?」
「ああ、もちろん。パパっと着替えて飯食いに行くか!」
「そうだね、すごくお腹すいたよ」
カズトは二人きりになって話してみると意外とフレンドリーな奴だった。ゲンさんやエルゼに対してはかなりかしこまった態度だったから年上にはそういう態度をとっているもんだと思ったが俺と話すときは言葉を崩して話す。きっと同じ境遇だから安心しているのだろう。俺も悪いはしないから特に何も言わない。
俺は少し暗めの赤色、カズトは明るめの紺色の服に着替え受付へと向かう。動きを邪魔しないし、肌触りも悪くない。
受付に着くとゲンさんが腕を組んで待っていた。俺たちに気が付くと遅かったなと冗談交じりに言う。
「今日は歓迎会ってことで俺のおすすめの店で奢ろう」
そう言って街灯に火が灯され始めた道を歩いていく。俺とカズトもそんなゲンさんの大きな背中を見ながらついていった。
ゲンさんお勧めの店へ行くまでに俺たち男三人はかなり仲良くなっていた。カズトは高校生くらいの年齢ではあったが年の離れた俺と同じくらいの兄がいたということで俺とは話しやすかったらしく、ゲンさんは俺の家の近所のおっさんそのものだった。肩を組んで酒を酌み交わせそうだ。
俺たちの泊まる宿から少し歩いたところにある酒場からは外からもにぎやかな声が漏れ出ていた。なんでもゲンさんをはじめとした国に勤める兵士や近辺に住んでいる野郎どもの憩いの場なのだそうだ。
店に入るとその喧騒がより一層大きなものになる。酒臭いし野郎どもの大きな声が飛び交ってはいるが俺はそんな景色にふと心が安らいだ。みんなが笑いあいながら酒を酌み交わし、酒で悪いことを忘れようとしている人を隣の人が背中をたたく、何気ないそんな景色に。
たぶん気を緩めることができていなかったのだと思う。俺がこの世界に転移したときから、いやきっと詞音がいなくなって部屋にこもりきりになってから俺は人とのつながりをなくしていたんだ。だから人と人とのつながりが見えるこの景色をみて俺は目に薄く涙を浮かべる。
そんな俺を見てゲンさんが自慢げにしかしやさしく声をかけてきてくれる。
「いい店だろ?」
「……ああ」
涙をさっとぬぐって俺たちはゲンさんが案内した席に座る。なんでも頼んでいいぞと言われたがこの世界の食べ物がどんなものか知らないのですべておまかせで注文した。ゲンさんと顔なじみの気のいいウェイトレスが注文を取って厨房に戻っていった。
そしてゲンさんは酒、俺とカズトは酒を飲むという気分ではなかったし、カズトが未成年だということでジュースを手にグラスを合わせ乾杯する。勢いよく酒を流し込み、すぐに次の一杯を頼みながらゲンさんが驚きの声を漏らす。
「メルシアルじゃあ十五になったらもう酒を飲めるのにそっちじゃ二十にならないと飲めないのか」
「まあ、そうだな。こっちの世界でも国ごとに年齢制限に違いはあったけど」
するとカズトがそういえばと話を切り出した。
「メルシアルってこの国のことですよね?僕、この世界のことについて何も知らないんですけど……」
そういえば俺もこの世界のことについて全く知識がない。神様とか転移とかいろいろありすぎて忘れていた。
新たに運ばれてきた酒を手に取ってこの世界のことについてゲンさんが説明を始めてくれた。
「この世界はセラジスって言って、なんでか神に最も近い世界なんて呼ばれている。セラジスにはいくつか国があるがその中でも特に三つの大国があってその一つがここ、メルシアルだ。商業が盛んな国でな、いろんな国からいろんなもんが入ってくるもんだから最も発展した国とも呼ばれてんだ」
酒が入ったからなのかかなり饒舌になっている。カズトはさらに質問を投げかける。
「僕らのほかにこれまで転移者っていたんですか?」
「おう、いたも何も俺のひい爺さんが正に転移者で勇者だったのよ。それはそれは強くてどんな魔物が来てもバッタバッタとなぎ倒す、その姿は歴代最強勇者なんて呼ばれてたのさ」
今何杯目だろうか。かなり酔いが回ってきていてよりその饒舌さに拍車がかかっている。俺も話が気になったので聞いてみる。
「やっぱりこの世界って魔物がいるのか?」
「いる。動物と違って攻撃性があってな、かなり手ごわいぞ」
やっぱり異世界なんだな、ここは。少し心が躍って俺はさらに質問をする。
「じゃあ魔法とかスキルとかもあるのか?あとステータスってどうやったらみれるんだ?」
「あ、それ僕も気になる!」
隣を見るとカズトが目を輝かせて身を乗り出していた。きっと今俺も同じような顔をして聞いている。
「魔法はあるが……、スキルっていうのは剣術とか体術とかのことか?ステータスっつうのは何を言ってるのか全くわからん」
「筋力とか知力とか魔力とかが数字で書いてるやつがステータスっていうんだけど」
「……そんないろんなテストをやって数値化するのは面倒だろう」
どうやらステータスウィンドウみたいなのはないらしい。それらを一瞬で測ることのできる装置もなさそうだ。ということはレベルアップみたいのもないのだろうか。
カズトの方を見ると「魔法かぁ」と小さくつぶやきながら目を輝かせていた。俺も魔法はぜひ使ってみたい。
他にもメルシアルの通貨についてや一般常識、文化についてたくさん聞いた。ゲンさんも俺たちもお互いに違った文化に驚きつつ、このお店『ユメール食堂(夜はユメール酒場)』の料理を堪能する。
見たことのない動植物を使った料理がたくさんあるがどれもおいしい。ジュースも今まで味わったことのないフルーツを絞ったものだったが甘みと酸味、そしてほのかな苦みと香りがちょうどよかった。
だいぶお腹が膨れてそろそろ眠気も襲ってきて、ゲンさんももう酔いつぶれてしまっている。おそらく案内役だけでなく俺たちの監視役もやっているはずなのにいいのだろうか。気を許してくれたという意味ではいいのかもしれないが……。
すると周りにいた幾人かの兵士たちとウェイトレスが声をかけてきた。
「まーた隊長寝ちゃってー。いろいろできるすごい人なのに酒の量だけは調節できないんだから」
「あんたたちも大変ねぇ、こんな姿みてるとエルゼさんの方がよっぽど隊長らしいわ」
みんないつものことのように呆れた顔をして笑いあう。俺たちともすぐ打ち解けるような人だ、みんなに慕われつつもみんなと肩を並べて歩いているのだろう。
みんなの笑う声で起きたのか回らなくなった舌で寝言のように声を出す。
「……俺なんかよりエルゼの方が隊長に向いてるんだよ。あいつは俺よりもつええ。あんなことなけりゃいまごろ……」
そこまで言うとまた倒れるように顔を突っ伏して寝てしまった。何度か起こそうとしても起きそうにないため、ゲンさんのことはその場にいた兵士たちに任せ俺たちは帰路についた。
すっかり真っ暗になり、点々と街灯が道をともす中、俺たちを待つ人影がある。手を挙げてこっちまで来るよう呼んでいたのはエルゼだった。エルゼはゲンさんがいないことに呆れつつ大事な話だと口を開く。
「今日緊急で開かれた会議で決まったこと、二人の処遇についてなんだが」
真剣なまなざしでいうエルゼに俺たちはごくりと喉を鳴らす。
「カズト=イノウエ、シュウイチ=イシザカ、二人を予言にのっとり勇者に任命する」
俺が口を開こうとするとそれを制すように話を続ける。
「まだこれは完全には決定されたことではない。断ってもいい。断ったところで切り捨てるなんてことはしない」
エルゼはそう前提を置き、俺たちの目を見る。
「勇者になった人間は何人もいたがそのすべてが英雄になったわけではない。むしろその命を散らしていった人間のほうが多い。そして世界を背負うような責任もまた大きくのしかかることになるだろう」
その言葉は夜の静かな町に静かに響き渡る。エルゼの声は『勇者』、その言葉の輝きよりその役割の重みを俺たちにわからせるようだった。それは俺たちに覚悟を決めろそう言っている。
「普通ならば勇者が二人なんてないことだが今回は特例だ。国の方でもしばらくどちらが本当の勇者なのかはできるだけ調べるようだがおそらく決定打は見つからないだろう。もちろん君たちには選択する権利がある。だからしっかり考えてから決めてほしい。……大いに悩んでくれ」
エルゼは俺たちにそう言い残し去っていった。その後ろ姿を俺たちは二人で黙って見送った。
俺たちは宿につき、疲れた足取りで部屋に入る。カズトはベッドに倒れるように飛び込み、俺もまた自分のベッドに座り込んだ。しばらく二人黙っているとカズトが沈黙を破るように口を開く。
「シュウイチはどうする?勇者になる?」
カズトは目を合わせず俺に聞く。俺は下を向いたまま「ああ」とうなずいた。カズトも壁に目を向けたまま言う。
「シュウイチはすごいな……。シュウイチもきっと感じたはずなのに……勇者になることの責任を。僕はすぐには決められないよ……。年も僕とほとんど変わらないじゃないか」
ん?年が変わらない?そんなに若く見えるか?いや、なにか、ゲンさんと話した時から何か違和感がある。俺はバッと顔を上げ窓に写っている自分の顔をみる。
……若い。高校生くらいに見える。十年分くらい若返ってるぞ。なぜ?
そんな俺の様子に気付かずカズトは続ける。
「やっぱり僕らって死んだんだよね?」
「あ、ああ。そう……だな」
少しうつむき加減に返事をする。するとカズトは自分の肩を抱き震わせながら声を漏らす。
「僕は……まだ自分が死んだことさえ受け入れることができていないんだ!僕は……突然この世界にっ!なにもかもわからずに……僕は……」
俺はカズトの言葉にハッとした。そうだ、彼はまだ十七歳の青年でその若さで一度死んだんだ。突然家族や友人から切り離されてこの世界に来た。俺は詞音が死んでなにもかも全て無くなってしまったと思ってこの世界に来ることを簡単に了承した。
だけどカズトは……、カズトにはまだやりたいことだって誰かと過ごしたい時間だって……好きな人だっていたかもしれない。なのに俺は、一番カズトの気持ちにより添えるはずの俺は彼の気持ちに気付けなかった。それに勇者になるかどうかよりもまず先にカズトがこれからどう生きるかの方が大切なのに。
何を伝えればいいのだろう、どんな言葉をかければカズトの気持ちが楽になるのだろう。俺にはかける言葉が見つからなかった。
それでもカズトにはあの時の俺のようにただ無気力に生きて欲しくなくて声を出す。
「……婚約者がいたんだ。俺の一番大事な人。詞音……彼女はいつも明るくて自分の弱さを外には出さない人だった。でも俺だけがそんな彼女のことを一番わかっていて、彼女を守れる、そう思ってた。けど俺の知らないところで彼女は一人で悩みを抱えていた。死んだ原因は交通事故だったけど、本当の原因がその悩みだと思って俺は部屋にずっとこもって、そのままずるずると死んだんだ」
俺は詞音との思い出や詞音の死を思い出しながら言葉をつなげる。カズトはこちらに目を向けて真剣に俺の話を聞いていた。
「でもこの世界でなら俺はまた彼女に会えるかもしれない。それが俺が今ここにいる、存在意義なんだ。この世界でならやり直せるかもしれないっていう浅い考えだけど」
「存在意義……」
カズトはいつの間にか体を起こして聞いていた。しばらくまた沈黙が部屋を支配する。俺は思い出したように言葉を続けようと口を開いた。
「ああ、ごめん。自分のことばかりしゃべってしまって。ただ俺は君に、カズトには俺にみたいに無気力に生きてほしくなくて……。明日もあるし寝よう、エルゼさんも悩めって言ってたしな」
「うん、そうだね……。しばらく一人で考えてみるよ。おやすみ」
「……おやすみ」
俺たちはベッドに入り静かに目を閉じた――。
「さあ、勇者になるかならないか決まったか?」
エルゼが俺たちを見ながら問う。俺はカズトの方をうかがいながら勇者になることを伝える。エルゼはそれにうなずき次にカズトをじっと見つめる。
「僕は……勇者になるような人間ではありません」
カズトはうつむきながらつぶやく。それでもエルゼは何も言わずカズトを見つめ続ける。
「僕はこの世界に来る前はよくいじめられていて、自分はなぜ生きているのか、なぜここにいるのか、自分に問うたびに自分のことが嫌いになってたんです。でもシュウイチがこの世界に来たのはやり直すためかもしれないって言っていて、だから僕も……」
カズト……俺の言葉は君に届いたのだろうか。カズトはぐっとこぶしを握り締める。
「僕は自分の存在意義を知りたい、僕がここにいていい理由が欲しい、だから僕は……!」
カズトは顔を上げエルゼの目を見ながら叫ぶ」
「僕は勇者になります!!」
エルゼは鋭くカズトの目を見据える。カズトも負けじと見つめ返す。するとフッと軽く笑いエルゼが俺とカズトの手を握る。
「シュウイチ、カズト、二人に勇者の任を命ずる!」
今回のお話で触れたこの物語の世界観と用語についてまとめておきます。
セラジス⇒シュウイチたちが転移した世界の名前
メルシアル王国⇒セラジスにある三大国の一つで主に商業により発展した国
ゲームでいうところのわかりやすいスキルやステータスは存在しませんが魔法は存在します。なのでレベルなどの要素も存在していません。
魔物はいます。
今回のお話はお楽しみいただけたでしょうか
次回は旅に出る前の物語になると思います。