三、二人の勇者の出会い
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石造りでできた大きな広間の中心に描かれた大きな魔法陣、俺はその魔法陣の上に光に包まれながら召喚された。そして横にはもう一人、青年が同じように召喚されていた。光が完全に散ると周りはすぐにざわざわとしだす。どうも一度の召喚で二人の人間が現れるのは異例中の異例らしい。それに予言とやらにも「勇者たち」ではなく「勇者」とだけしかなかったそうだ。しばらくお偉いさん方の相談が続き、俺たちはそれぞれ別の部屋へと連れられて行くことになった。
大きい図体をしたいかにも軍隊長のような男の後ろについていき、応接室のような場所で金で縁取られた白い椅子に座らされる。召喚された広間から応接室までの道を見るとやはりここは大きな城のようだ。しばらく待っていると紅茶が出され、もう少し待つよう伝えられる。今は青年のほうから話を聞いているらしい。
出された紅茶を軽く冷ましてカップに口を付けた。口に入れた瞬間ふわっとこれまで嗅いだことのないいい香りが広がる。一口飲んだだけだがとても落ち着く。混乱した頭を整理し、暗い世界にいたときのことを思い出す。
まず俺は異世界に転移させられた、つまりここは異世界ということであっているよな?神様だと思われる男に命じられたのは確か……そう、与えられた予言に従うこと。そういえばさっきの広間でも予言がどうのこうのって言っていたな。それで俺はあの男と契約を交わしたんだ。男の名前は……ダメだ、思い出せない。ところどころ記憶が欠如している。ぼんやりとしか思い出せない。もし予言を実行し終えたら……大丈夫。俺はちゃんと覚えている。
俺は詞音にもう一度会うためにここに来た。それだけわかっていれば大丈夫だ。
もう一度覚悟を決めるようにこぶしを握り締めていると反対側にあるドアが開き、先ほど広間で額をつけて相談し合っていた眼鏡をかけた男と側近のような男が入ってくる。二人は使いに自分たちにも紅茶を持ってくるよう伝えて対面に座った。
「はじめまして。私はステイ=メッセリ。こっちの眼鏡をかけた男は……」
「シア=グレイスだ。よろしく」
二人の自己紹介を受けて俺も名乗る。
「石坂秀一といいます。秀一が名前で石坂が苗字です」
その後俺がどういう人間なのか、俺のいた世界とはどういったものなのかについて話した。二人は確かめるように話を聞きながら間違いではないとうなずき合う。どうやらもう一人の青年が元いた世界も俺と同じような世界のようでどちらも召喚の儀を邪魔しようとはしていないと決めざるを得ないらしい。二人はどうしたものかと頭を抱えていた。
しかし続けて神と話して召喚された話をしたとき二人は目を変えこちらに顔を向けた。
「神と話した?それは本当か?」
シアが疑うように聞く。うなずくとさらに頭を抱えるように天を仰ぐ。
「どうする?ステイ。このシュウイチ殿が神と話したかどうかは置いといて、他の話に怪しいところはない。それに予言もこれまでとは少し違うというではないか」
「ふむ。少し予言について会議の予定を早めて二人について話し合うしかないだろうな。シュウイチ殿、数日待ってくれるだろうか。もちろんその分の衣食住は提供しよう」
そう言うと近くにいた使いに青年にもその旨を伝えるように言う。二人は立ち上がり表で待っていた大男に声をかけ、話し合いながら去っていった。入れ替わるように大男が入ってきて、ついてくるよう言った。
黙って後ろをついて歩いていると大男の方から話しかけてきた。
「シュウイチ殿といいましたな。私はゲン=ビゴネ。このメルシアル国軍の軍隊長を務めております」
「国軍の軍隊長……、すごいですね。石坂秀一といいます。元の世界ではしがない会社員でした」
頭をかきながら自嘲気味に言う。ここは城内なのだからすごい肩書を持っている人ばかりなのだろう。軍隊長直々に案内をしてくれるなんて内心焦っている。すると軍隊長は突然立ち止まり、俺の顔をじっと見てくる。まるで目の奥を見つめられているようだ。
「……シュウイチ殿は年齢の割にしっかりしていますな。こんな突然の出来事にもほとんど動じないとは……。それに悲哀の気さえ感じます」
軍隊長からしたら二十八歳なんてまだまだ子供なのだろうか。しかしこの人の目を見ていると何もかも見透かされている気がする。軍隊長は顔を前に向き直してまた歩き始める。
「あなたはこれから勇者となるご身分、勇者それも転移者ともなれば神の使いといっても過言ではない。私に敬語を使わないでください。恐れ多いです」
「私だって国軍隊長に対してため口なんて恐れ多いですよ!今までただの平社員でしたし!」
軍隊長は困ったような顔をして立派なひげをなでる。
「ううむ、しかし……」
その困り果てた顔で気まずくなり、つい変な提案をしてしまった。
「じゃあ、お互いため口でいきましょうよ!名前だってシュウイチ殿なんかじゃなくてシュウって呼んでくれていいですから!」
何を言っているんだろう、俺は。近所のなかのいいおっさんと話しているわけでもないのに。こんなしっかりした肩書がある人と肩組んで酒飲んだりするか?いやできない。恐れ多い。
「ため口というのは恐れ多いが……、シュウイチ殿がそういうならば……」
軍隊長のほうは案外まんざらでもないらしい。
「ではシュウ……、これからよろしく頼む。俺のことはゲンと呼んでくれ」
「……お、おう?よ、よろしく~……」
笑顔をひきつらせながら改めてあいさつを交わす。そんなこんなしているとこれからしばらくお世話になるであろう建物に着いた。そこは城から少し離れた場所にある小綺麗な宿のような建物だった。来た道を振り返り、城の方をみると中からはわからなかったがとても大きく、大変豪華なつくりをしている。こんな大きな城にいたのが未だに信じられない。
建物の中に入り、ゲンさんはそのまま受付に行き手続きをしている間俺は建物の内装を見ていた。応接間に負けずきれいな内装をしている。ゲンさんの話では城に訪れた役人や他国の使いが宿泊する場所らしい。
ゲンさんに手招きされ部屋の前まで案内される。中はとても広く一人で過ごすにはもったいない。日当たりもよく窓から差し込む夕日が部屋を照らしている。ベッドも二つあり一つは使わずに終わるだろう。……ん?
「……ゲンさん、今日は一緒に泊まるの?」
「いや俺は隊が持っている寮で寝る。今日この部屋で止まるのはシュウともう一人の転移者だ」
ゲンさんがそういうと同時に部屋のドアが開かれる。そしてそこにはもう一人の転移者、井上一翔がいた。
次回は新しい登場人物、井上一翔とのお話です。
彼はどういう人間なのか、それはこの物語の根幹に関わることなのでぜひともお楽しみに。