二、二人の勇者の異世界転移
小説書き始めて2回目の投稿です。
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体、部屋の空気、すべて重たい。俺はもう床の冷たさも感じなくなっていた。ただ重たい、眠りたい、そんな無気力な気持ちで最期の時を迎えようとしている。そうして俺の体は深い場所へと沈んでいく。楽だ。ただその重さに身を任せ俺はさらに暗い世界へと沈んでいく。
すべてが消えてなくなろうとしていたその時、突然息ができなくなったように苦しくなった。目を見開いて体を大きく起こすと俺はひたすらに暗い空間にいた。そこは不思議な空間でどこからも光が入ってきていないにもかかわらず俺の体は存在し、それを目視することができる。
訳が分からず顔を上げあたりを見まわすと少し離れた場所に人が一人立っていた。肌を隠すように全身にマントのように布をかぶせていることはわかったがこの空間では影もないので距離感も詳細も分からない。一瞬この理解しがたい状況に飲み込まれひるんでしまったが、俺は目の前の人物に声をかけた。
「あの……、あなたは……、いや、ここは?……えっと」
何から聞けばいいかわからない。言いよどんでいるとあちらからゆっくりと近づいてきて、男の声で話かけてきた。
「おまえのような存在を待っていた……」
俺はあっけにとられ言葉が出ない。しかし男も会話を進めようとはしなかった。俺は意を決して男に聞く。
「俺は……死んだんですか?」
男はしばらく黙り込んでまた口を開いた。
「……そうだ。ここは死んだモノの魂の通過点。おまえもその魂の一つだ」
「やっぱり死んだんですね、俺……。じゃああなたは神様ですか?それとも死神?」
「……なにものでもない。神だと思いたいならそう思えばいい」
でも死んだってことはまた詞音に会えるんだ。そう、これからずっと……一緒に……。
「俺の魂はこれからどこへ?」
「……本来ならばこのまま消え去っていくか、新しく生まれ変わるか、そのどちらかだ。だがおまえの魂はそのどちらにもならない」
「それはどういう?」
男はマントから手を出し俺を指さした。その肌は影のように黒くつかみどころのないものだ。そして指をさしたまま俺にいう。
「おまえ……いや、君の魂をこれから今まで君がいた世界とは違う、別の世界に転移させる」
信じられない。異世界なんて小説とかマンガの話だとばかり思っていた。いや死後の世界も十分不思議な話だけどそれでも異世界なんて……。夢でも見ているのだろうか。だとしたら少し恥ずかしい。もう中学や高校なんてとっくの昔に卒業しているというのに。子供じゃないんだ。
「それは……断ってもいいの……ですか?」
少しひきつった笑顔で聞く。すると男は指さしていた手を開き、握手でも求めるかのように俺の目の前に差し出した。
「ならばこの転移を受けてくれた暁には君の婚約者、西野詞音ともう一度顔を合わせる機会をやろう。どうだ?」
一瞬にして鼓動が高鳴る。正直異世界とか転移とか信じきれないし、今も怪しい。だけどそれでももう一度詩音と会えるなら……夢でもいい、嘘でもいい。俺は……。覚悟を決めて手を差し出した。
「……お願いします」
「……気に入った。では契約を交わそう。ただの契約ではない、魂の契約だ」
俺は男の影のような手を握り、深呼吸をする。見た目とは裏腹に普通に触れる。男は最終確認だといい口を開いた。
「ではもう一度確認する。君は転移した先の世界で予言に従い、その予言を達成する。達成ができたなら私は君が彼女と顔を合わせることができるようにする。異論はないな?」
俺はその言葉をかみしめるようにうなずいた。男はそれを確かめ、続ける。
「契約内容に合意できたならそれぞれの名を口にし、契約を誓えば完了だ」
男は軽く咳ばらいをし、深く息を吸う。俺も男に倣い宣誓を行う。
「……シーヴァ=ヴェルニカ……、魂の契約を結ばん」
「えっと、石坂秀一、この契約を守ることを誓います」
しばらくの沈黙の後、急に胸が縛り付けられたようにきつくなった。段々と緩くなって縛られる感覚が消えたところで契約は結ばれるらしい。胸がきつくなくなりまたあたりに沈黙が戻る。その沈黙が少し気まずくなり、俺は男に話しかけた。
「シーヴァさんっていうんですね。いい名前ですね」
聞きなれないので良い名前の基準が何なのかわからない。男は少しうつむき気味に言う。
「……私はその名があまり好きではない。まあ名前なんて何の意味もなさないがな」
静かな言葉だったがそれは冷たく重い口調だった。
「す、すみません……」
「いや、かまわない。時間がない……そろそろ転移させよう」
シーヴァは三度俺の前に手を差し出し、今度は手のひらを向けた。シーヴァは二、三言何かをつぶやき、そっと手のひらを俺の胸にあてる。胸には何か不思議なモノがうごめいてるような感触がした。それは次第にその動きを強め、全身を包んでいく。
「では、健闘を祈る」
返答する隙もなく、シーヴァは俺の胸を押し出し俺はそのまま体が倒れていく。頭を地面にぶつけるかと思ったがそんなことはなく、はじめに感じていた深く暗い世界へと沈んでいく。だけど今度ははっきりとどこかへ向かっているのが分かった。俺はそのまま身を任せ、沈んでいく。しばらくすると俺の体は強い光に包まれた。
周りが騒々しくなりゆっくりと目を開けると目の前には魔術師のような恰好をした人が何人か、中世の王様のような人、そしてその側近のような人がこちらを見ているがなにやら焦っているようだ。何人もの人があっちへ行ったり、こっちへ行ったりしている。そのうちの眼鏡をかけたいかにも勉強のできそうな人が王様のような人の前に行き、早口で何かを言っていた。
「こんなのは異例なことです。どの文献にも載ってはいませんでした。こんな……」
すると側近の方が落ち着かせるように制す。
「落ち着け。おまえは優秀だが未曽有の事態が起こるとすぐ焦るのが悪い癖です」
そしてそれまで黙ってその様子を見ていた王様がこちらに顔を向け口を開いた。
「さて、勇者が二人……。どうしたものかな?」
その言葉に顔を横に向け、もう一人俺と同じようにあっけにとられた顔をした青年と目を合わせた――。
用語説明
魂の契約……対等な関係のもの同士が結ぶ絶対的な契約。もしこの契約を破れば魂は消えることも生まれ変わることもなく暗い世界を永遠に漂い続けます。
次回はもう一人の主人公とのお話になるかな?お楽しみに!