家出11
テレビには、淫らに男女が絡まっている様子が鮮明に映し出され、流れる喘ぎ声にこの空間を支配される。
「……」
「……」
僕もお姉さんも、口を開かない。
いや、この状況でなにか言うことのできる人類がいるのだろうか。
できる人類が存在するならば、現状の打開方法と、ついでにコミュ力を上げる方法を教えて下さい。
…… こんな破廉恥な場面を見ていると、僕も健康的な男子高校生である訳で。
ふと、隣に座っているお姉さんとムフフな展開になる妄想をしてしまった。
後悔しても、後の祭り。ドンドン流れる淫らな妄想。
しかもお姉さんは美人だし、体温を感じ取れるほどでは無いものの結構密着して座ってるしで、まあ出るわ出るわ。
さらにテレビから流れる喘ぎ声が、僕の妄想を支援してくれた。
ひたすらに無心になろうと、パット思い出した般若心経を頭の中で唱えてみる。
…… が、仏様も青少年のムフフな妄想には負けるようだ。
何がとは言わないが反応しないように、さながら不動明王の様な表情で耐えていると、ポタリと額から汗が流れ落ちる。
気づくと背中が汗でベタベタになっていた。
何でかと考えてみたら、まあ目の前の惨状と、頭の中の妄想が原因だろう。
そして汗として流れた水分の代わりに、身体がテーブルにあるお茶を欲してきた。
ガラステーブルの上に置かれている、冷えたお茶に何気なく手を伸ばす。
しかし、お姉さんも喉が乾いていたようで。
「うぇっ!」
お姉さんの手と触れ合ってしまった。
それと同時に、個人的に陰キャっぽい変な声が飛び出てしまう。
「す、すみません…… 」
さっきまで頭の中ででも、ムフフな事をしていた人を直視できずに目線を逸らす。
「いや別に大丈夫だけど…… どうしたの? 」
お姉さんは至って平然そうに訊いてきた。
「どうしたのとは……?」
「いや、だって顔真っ赤だよ? 寒気とかない? 」
まさかこの人、僕が熱を出しているとでも思っている……?
「ねえ、本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫ですよ」
「気を使ってない?」
「つ、使ってないです…… 」
やめて! そんなに心配そうに訊いてこないで!
なんかもう…… 本当に僕が申し訳なくなるから!
「ふふ…… じゃあ美月はこの濡場を見て顔真っ赤にしたの?」
すると心配そうな顔から一転、またニヤニヤとしながら訊いてきた。
「へっ?」
…… ま、まさか嵌められた?
「あれ違う? じゃあ私とあんなことする妄想して顔真っ赤にしてたの?」
…… 選択肢が二つしかない。
方やスケベというレッテルをはられる可能性が高い選択肢。
方やド変態というレッテルを貼られる選択肢。
基本的には最初の被害が少ない、最初の選択肢を選ぶだろう。
しかし、お姉さんのこのニヤニヤとした顔。
……中々にイラッとくる。なのでいつか仕返しをしてやろうと思っていた。
今がそのチャンスだろう。
きっとお姉さんも最初の選択肢をより確実に引き出すために、あえて二つ目の選択肢を出したはず。
なのできっと予想外のはずだ。
ふ〜…… 一回深呼吸して。
「僕はお姉さんとあんな事をする妄想をしてました!以上です! お風呂借ります! 」
「え…… 」
矢継ぎ早にお姉さんに言ったあと、僕はお風呂場に脱兎のごとく逃げていった。
□□□
僕は脱兎のごとく逃げ出すと、歴代最高速度で服を脱ぎ、風呂場に飛び込んだ。
「ふぅ〜……」
お風呂場がどこか少し迷ったけど、案外すぐに見つかってよかった。
「ああ〜」
オッサンの様な気の抜けた声は、何故か銭湯のような広さのあるお風呂にこだました。
この広さのお陰で、久しぶりに足を伸ばしてお湯に浸かることができた。
ウチの浴槽、なかなか狭くて足伸ばせないんだよな。
今度母さんに浴槽を広げれないか訊いてみよう。
それにしても……
「酷かったな……」
なにが『僕はお姉さんとあんな事する妄想してました!』だよ。
また暴走して口走っちゃったけど、思い返してみて普通に気持ち悪い。
ああ……
「死にたい……」
なんとなく口辺りまで湯につかり、ブクブクと泡をたてる。
しばらくブクブクしていると、水滴が四方に飛び散っている視界の奥に、なにやら人間っぽい影が一つ扉に映っていた。
「ぶふっ」
ちょ、ちょっと待って!?




