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極度の人見知りが男女比1:20の世界に転生した  作者: ウルセ
暑い夏休み
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家出(香奈視点)

『緊急事態発生!!緊急事態発生!! 直ちに国家公務員は緊急マニュアル02ー17を確認し、行動に移せ!!』


鳴り響くサイレンに、私は目を強制的に覚まされた。

こんな起こされ方されたら、いつもは不機嫌になる。


「どういうこと……?」


でも不機嫌になる前に、私は疑問を覚えた。

そのサイレンは、『男が誘拐されたので、それを阻止するために街中で武器を使用する。だから避難して』という意味を持つ。


つまり、男の誰かが誘拐されたということだ。


''男''と考えたら、お兄ちゃんの事を連想するけど、お兄ちゃんは部屋で寝てるよね。

そう頭の中で言い訳しても、嫌な予感は拭いきれない。


…… この場で怖がってても意味は無いよね。


私は布団から起き上がって、お兄ちゃんの部屋に向かう。

汗で寝巻きが背中に引っ付いて鬱陶しい。


まさか、いやそんな……そんな訳ないよね。


何度も何度も反芻しても消えない不安を消し去るように、私は走ってお兄ちゃんの部屋に向かう。


お兄ちゃんの部屋の前に着くと、一つ深呼吸してノックする。

私の前に鎮座する扉は何故か重々しく感じられた。


「お兄ちゃん…… ? 起きてる?」


愛おしきあの声は、聞こえてこない。

…… 嫌だ。


「お兄ちゃん…… 開けるよ?」


そっと音を立てないように扉を開ける。もしかしたら眠っているかもしれないから。


そういえばお兄ちゃんは眠りが深かった。だからきっとサイレンにも気づかず、起きてないんだろうな。

これからは緊急事態が起きたら、お兄ちゃんを起こしに行かないといけないな〜。


でも、目の前で眠っているはずのお兄ちゃんの姿は、私の目に映らなかった。


…… 信じれない。自分の目が。


お兄ちゃんが寝ているはずのベッドに駆け寄り、ベッドをまさぐる。

大好きな匂いがフワリと香っただけで、暖かい人肌は感じられない。


…… なんで?????


頭の中に、いくつも疑問符が浮かぶ。


いや、ここには居ないだけでトイレに居るはず。


お兄ちゃんの部屋から出て、トイレに向かう。

大した距離でもないのに、自然と足が速くなった。


トイレから光は漏れてない。

でも、でもきっと居るはず。


「お兄ちゃん! 居るんでしょ!? 返事して!」


自然と叫ぶような声になりながら、トイレの扉を何度も何度もノックする。

ノックする力が段々と力が籠っていき、音が大きくなっていく。


だけど返事は聞こえてこない。ただ、聞きたくもない私がノックする音だけが耳に流れ込んでくる


「…… 嘘でしょ」


力が抜けていく。ノックもだんだん力なくなってきた。

やがてその行動に意味がない事に嫌でも気付かされると、足が崩れ落ちトイレの扉に寄りかかった。


「お兄ちゃん…… 」


嫌だよ……


心の中で拒否しても、襲いかかってくる現実。胸に穴が空いたような切ない痛み。それに伴って涙が留めなく溢れてくる。


誰も居ないけど、涙を流していることを悟られないように体操座りになって、声を抑えて泣いた。


私はお兄ちゃんを守らないといけないはずなのに。

今度こそないように、決心したはずなのに。


手を掴むことすらできず、ましてや手を伸ばすこともせず。

なにを決心したんだろう。なにを猛省したんだろう。


またお兄ちゃんを守れなかった。


…… 今は、今はとにかくお兄ちゃんを取り戻さないと。

なにがなんでも、例え私が死んだとしても、絶対にお兄ちゃんを取り戻す。


そして、誘拐した奴を殺してやる。関わった人間全て。

お兄ちゃんに手を出す奴は、殺しておかないとまたもう一度するだろう。


そう思ったならすぐに行動しないと。


未だ零れてくる涙をTシャツの裾で強く拭う。もう拭う必要がないように。


急がないと。まだ手の届く範囲の内に。

外国に逃げられたら、追うのが難しくなってしまう。


充電器に繋いだままのスマホを取りに戻る。これが無いと何も出来ない。


スマホをポケットの中に突っ込み、寝巻きのままだけど外に出る。着替える暇はない。


今は一分一秒が惜しい。


「香奈ちゃん…… 」


外に飛び出すと、杙凪さん達が話し合っていた。


彼女達と目線が交わると、しばらく沈黙が場を支配する。

そして秋奈さんが一歩踏み出し頭を下げた。


「美月さんのこと、守れなくて申し訳ない」


秋奈さんに続いて、杙凪さんと音夢さんも頭を下げた。


正直、全然彼女達は悪くない。

私は危険を感じ取ることもできず、馬鹿みたいに眠っていたし。


でも今は、ゆっくり彼女達と喋っている暇はない。


「皆さんは悪くないです! すみません、私急いでるので失礼します!」


そう秋奈さん達に矢継ぎ早に告げると、私は駆け出しながらポケットからスマホを取り出し、知り合いに電話をかける。


「あ、香奈ちゃん! ちょっと待って!」


後ろから引き止める声が聞こえてきたけど、私の足は止まらない。止まる訳にはいかない。


「あ、もしもし夜分にすみません。 その、お願いしたいことがあるのですが……」


私の持てる全てを使ってお兄ちゃんを助けよう。

傍にいる奴も全員殺すから、絶対に無事で待っていてね。


お兄ちゃん。


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