家出6
「ううん…… 」
…… ここはどこ?
目が覚めた直後だからなのか、頭が働かない。
天井から当てられる光がとても眩しい。
とりあえず、顔を上げて周りを見てみる。
イタタ……
頭を動かすと下を向いて眠っていたからなのか、首が痛い。
痛みが来ないように周りをゆっくりと見渡すと、僕は工場のような広さの部屋の真ん中に座っていた。
巨大な機械が四方にいくつも置いてあり、頭に響く起動音を奏でている。
それ以外には僕の前に、小さなデスクの上に所狭しと、モニターと何か記されている紙が置いてあった。
布団もテレビもソファーもない。
「本当にどこだよ……」
思わず口から出る僕の心情は、なにもないこの場所に虚しくは響き渡った。
とりあえずここがどこか調べないと。
そう思い立ち上がろうとした。
だけど手が椅子に縛り付けられていて、立ち上がることが出来ないことに気づく。
…… マジか。
手を動かしてみるも、手を縛っているロープはちぎれる兆しを見せることは無かった。
まさか監禁される事になるとは……どうしよう。
「はぁ…… 」
「起きた? 」
後ろから突然身に覚えのある声が聞こえてきた。
「うわっ!」
びっくりして、後ろを振り向こうとするけど生憎僕の首の可動域は梟のように広くないので、見ることはできない。
「首痛いでしょ? 無理しちゃダメ」
何とかご尊顔に預かろうと頑張っていると、後ろからしなやかな手が伸びてきて、僕の顔を強制的に前に向けさせた。
そして誰かはカツカツと足音を立てながら、僕の前に回り込んだ。
僕の前に現れたのはーーーー
赤いタンクトップから零れている胸は白く輝き、青のジーンズは脚の長さをこれでもかと見せつける。
その上に白衣を羽織っている『お姉さん』は、屈んで僕の視線に合わせた。
それにより胸の上半分が殆ど見えてしまい、あまりの魅惑の惹き付けに釘付けにされそうになる。
白い丘が艶めかしい。
だ、だめだ…… 屈するな…… 見たい …… ダメに決まってるだろ…… いや正直見たい……
たまに己の欲求が顔を出したものの、死に物狂いでなんとか視線を外す事に成功する。
そんな僕の苦労など露知らないお姉さんは、能天気な声で言った。
「じゃあ、とりあえず口を開けてもらえる? 」
「へ? 」
開口一番で言われた言葉が『口を開けて』とは思わなかった。
そりゃあ素っ頓狂な返事も思わず飛び出してしまうものだ。
ただ、お陰で欲望の手網を握り直すことが出来たので良かった。
何がしたいのかよく分からないけど、お姉さんの言う通りに口を開ける。
するとお姉さんは、いつの間にか手に持っていた綿棒を僕の口に突っ込んだ。
「あが!?」
いや意味分からん。
なぜ目を覚ましたら、綿棒を口に突っ込まれなきゃいけないのか。
数分後に意外な結末すぎる。
「大きく口を開けて? そうそう、いい子いい子。…… っともう良いよ」
お姉さんの綿棒は僕の口やら舌を散々蹂躙した後に、お姉さんが持っていたポリ袋に入れられた。
なにか検査でもするのだろうか?
本当に何がしたいのか分からないが、とりあえずここは何処か聞いてみる。
「あのお姉さん、ここ何処ですか? 」
「んー? 研究所」
お姉さんはデスクにあるpcを操作しながら、片手間にサラッと答えてくれた。
「……なんの?」
つい敬語を忘れてしまったけど、致し方あるまい。
この突飛な返答に敬語を付ける余裕は、僕には無かった。
ていうか思ったんだけど、お姉さん重要なことサラッと言い過ぎじゃない?
普通に聞き流しそうになる。
「私の」
お姉さんは僕の唾液がついた綿棒をポリ袋から出し、機械の中に入れながら四文字で簡潔に言ってくれた。
簡潔に答えてくれたのは有難いけど、それはただ謎を増やしただけに過ぎない。
「いま、何してるんですか?」
「美月の唾液を調べてるの」
「…… なぜ?」
「それはあの化粧によって男にどんな影響があるのか調べたいから…… かな」




